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異端兄妹は日常に戻りたい  作者: 幽猫
second chapter アビリティ・ウォー

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60章 遊び場

 光が弾け、視界が再び開けたとき、繭愛が見たのは等間隔に植林が植えつけてある不可思議な場所だった。


 「ここは……?」


 樹木それぞれにネットがかけられているところを見ると、森や林といったわけでもなさそうだ。


 ここは三回線の舞台。十五分という時間では、着替え身支度等々を済ませることしかできなかったため、サイドウェポンの話は保留扱いになった。


 今回もランダム転送らしく、辺りには誰もいない。つい先程まで顔を合わせていたメンバーと離れるのは、やはり淋しいものがある。


 「おにぃと合流しないと……」


 宛先はないが、じっとしているよりかはマシだ。周辺の地理に明るくない以上は動いて情報を集めるしかない。


 と、そのとき。漆塗りのベンチの横につっ立っている看板が目に留まった。コミカルな文字の横で兎がにこにこ顔で飛んでいる、園内案内板だった。


 「遊び場……パーク?」


 のどかな田舎に造られた、都市部の子供達のための自然ふれあい遊園地、遊び場パーク。通称、アソビバ。


 ……などと書かれた看板には、現在地を示すマップが描かれている。


 観覧車、ゴルフ場、キャンプ場、アスレチック、その他諸々が揃っている。ざっと見ただけでも相当に広い。


 繭愛がいる場所はキャンプ場近くの人工林らしい。転送位置が知らない以上、どこに行けばよいのかさえ検討がつかなかった。


 きょろきょろ辺りを見回して、案外近くにいないかと探してみるものの、人影すらも見当たらない。これでは戦闘どころか会敵することすら難しそうだ。


 スマホの電話機能はというと……相変わらず圏外。唯一使えるのは例のアプリのみである。


 (きっと、おにぃも探してるはず……)


 ここで何より避けたいのが、複数の敵との遭遇だ。数的不利をとられた時点でかなり厳しいのに、能力によっては完封されるリスクさえある。一対多の状況にされるのは望ましくなかった。


 繭愛はひとまず、視界のよい場所へ移動しようかと歩みを進める。……が、そのとき。またしてもスマホが警戒音を響かせた。


 「な……なに……!?」


 急いで開くと、画面がおどろおどろしく赤黒くなっていた。浮かぶ文字は……emergency(緊急事態)。今までの二戦ではなかった演出だ。


 ピコン、と赤い点が大きく表示され、その下にぴかぴか光る新たな指令が刻まれる。


 怪物(クリーチャー)出現!バトルポイント獲得のチャンス!スマホレーダーで探してみよう!


 ーークリーチャー。新たに追加された要素のひとつだ。


 まさかとは思うがこのような演出で、しかもいきなり登場するとは予想外だ。乱入者とあったが、以外と軽率にやってくるのかもしれない。


 「怪物……」


 以前のようなナメクジなら、そこまで怖い相手ではない。身体が巨大化しようと、元の生態から大きく逸脱したようなことはなかった。


 それに、怪物を倒した場合にはバトルポイント……賞金つきなのだ。悪くない話ではある。


 (おにぃも……多分、行くよね)


 クリーチャー扱いされているのが以前と同じく巨大生物なら、強力な能力持ちと敵対するよりかは危険が少ないと思われた。レーダー代わりのスマホでは、具体的な位置は特定できない。しかし、行き着く先が同じなら合流できるかもしれない。


 どうせ手がかりもないのだ。乗っかるにしても充分な理由だろう。そうして繭愛は、赤く点滅するスマホのレーダーを頼りに歩き出す。レーダーといっても、かなりダウジングに近い代物で、近づけば近づくほどに、赤い点が波紋を広げてバイブが大きくなっていく。


 繭愛は足元に気をつけながら、少しずつ階段を降りていく。やはりというか、なんというか、未だに誰とも会っていない。長引く予感がしてくるが、来たからにはクリアするしか道はない。


 ……正直、昨日のことで不安がないといえば嘘になる。


 繭愛はずっと梶樹の妹で、家族で。そんなことを夢見て来た日々は、こうしてデスゲームに明け暮れる日常に変わってしまうのではないかと危惧していた。


 けれど、それは当の梶樹も同じだったのだ。求めるがあまり壊したくないと思うのは同じこと、思うことが変わりないなら通じ合うことができる。


 このゲームを終わらせたら……今はそう思えるだけで、心が安らいだ。


 (わたし……守られてばかりじゃ、ないもん……)


 この()()はそのためのものなのだから。おにぃとわたしの、二人の力。その自負があるから、怖くても立ち向かえるのだ。


 支えがある人は強い。それを軸にどこまでも登っていける。

 しかし、同時に脆くもある。


 軸が強靭であるが故に、失ったときの代償は大きい。もちろん、めったなことでは消えないからこその"軸"なのだが。


 ふと、予期せぬ事態は起こる。繭愛が最後の段を降りたとき、ふと草が擦れる音が聞こえたような気がした。

 そんなふうに考え事をして歩くのは危険とは知っていても、注意は怠ってはいない。そのため、脇道から現れた人影にいち早く気づくことができた。


 (ーー誰!?)


全身に緊張が走り、反射的に身構える。草影から姿を現したのは、黒い学ランに冬帽の少年だった。


 「なんだ、天聖じゃねぇか」


 覚羅も同じく警戒していたようで、上げていた拳を解き、降ろした。張り詰めた空気が風船から抜けるように消えていく。


 「お兄さん……だったの」


 見知らぬ相手イコール敵という状況なため警戒するのは仕方のないことだ。最も、相手が同じ所属チームであれば問題はないが。


 「お兄さん、ってえのやめて欲しいんだがな……普通に名前で呼んでくれて構わねぇのに」


 「なんだか……癖、で」


 「ま、そういうとこは悪りぃことじゃねぇからいいけどよ」


 気恥ずかしそうに額を掻く覚羅は、後ろをしきりに気にしている。なにかあるのか、とも思ったがその疑問はすぐ答えてくれた。


 「水影は?会ってねぇのか」


 「うん……おに……が最初」


 「……無理すんなよ」


 苦笑い。こういう気遣いができるのも、覚羅のよいところだ。本当に不良少年なのか疑わしいが。


 覚羅は踵を返し、帽子のツバをぴっと弾くと、向かう先……つまりはキャンプ場の方向へ向き直った。


 「お前もここを見に行こうってとこか?」


 覚羅の携帯電話にも、赤い点滅が映っている。既にかなり大きく波紋が揺れていた。


 こくん、と頷く繭愛。


 「ならいい。俺もだ」

 


 

 


 


 




 


 

 


 

 

 


 


 

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