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異端兄妹は日常に戻りたい  作者: 幽猫
second chapter アビリティ・ウォー

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58章 改変

 スマホの画面を表示して見せたそこには、お知らせを受け取るメッセージボックスに赤いマークがついていた。


「ルール変更……って、まだ二回しかやってないのに?」


 「まー細かいとこは自分の見てよ。アタシも、まだ全部把握したわけじゃないからさ」


 そういえばスマホはどこにいったか、と思ったら繭愛が持っていた。どうやら一階のフリースペースで二台自分のと合わせて充電してくれていたらしい。


 どうやら恥ずかしさのフルバーストはまだ収まりきっていないらしく、未だに少し赤みがある。


 「はい、おにぃ……」


「助かる。……繭、大丈夫か?」


 「ん、ちょっと……ね。……お姉さんのいじわる」


 最後は上手く聞き取れなかったが、どうやら魅緒に向かっていったらしい。


 まぁ、当人がてへぺろ、みたいに手合わせして謝っているので、言及する心も失せてしまったが……。


 気持ちを切り替えて早速、ホームを立ち上げ《デッド・オア・ディアー》のアプリを開く。三回程度しか使っていないため、使い方という使い方はよくわからないが。


 「これか……乱入?」


 ルール変更の大きなポイントは、主に二つ。


 ひとつは乱入システムが次回以降に導入されること。


 乱入してくるのはプレイヤーではなく、ランダムなクリーチャーが登場しゲームを盛り上げる手助けをするという内容だった。


 ふたつめは撃破ポイントという制度、通称は(Blake Point)でBPという略称がついていた。これによれば、クリーチャーを倒した貢献度によって景品交換ができるポイントが入手できるらしい。


 「クリーチャーって……怪物ってことか。ファンタジーみたいな話だけど……」


 「ん〜よくわかんないんだけど、多分アレじゃない?ほら、このゲームに来る前にアタシ、でっかい熊に襲われたんだ。アイツらのことじゃないかなーって」


「あ……!」


 梶樹は隣に座る繭愛に視線を向け、見合わせた。こくん、と頷く様子から、繭愛も理解したのだろう。


 近所の永井さんの家を粉砕した、あの巨大ナメクジ。アスファルトを溶解させるほどの酸を有した、バケモノ。


 あれがクリーチャーだというなら、色々と辻褄が合う。


 そういえば、チュートリアルの成功率は決して高くないと聞いた。覚羅はクリアしたようだったが、実際は金等以上の能力持ちはレアケースだということを忘れかけていたのだ。


 「よぉ。おめーら早えな、まだ六時だろ」


 「十束……」


 求めれば来る、というように覚羅が大きく欠伸をしながら降りてきた。


 乱れた浴衣の帯を直し、梶樹を睨みつける。


 「水影、答えは出たのか?」


 冷徹なひとこと。昨晩の一撃は、今になってはよくわかる。自分の中の"迷い"が、覚羅に伝わったのは間違いない。


 まだ渦巻く恐怖は、胸の中で燻り続けている。それを消さずに"答え"とすることは、できなかった。


 「……いいや。でも……今は、もう迷わないよ。やるべきことがあるからな」


 「……そうか」


 何を思ったのか、覚羅はどかっとダイニングテーブル前の空いた椅子に、腰を下ろした。


 「ヒヨってやがったら、俺がまたぶん殴ってやっからな」


 「……あぁ」


 不思議そうに覗いてくる魅緒を牽制しつつ、じろりと周りを一瞥する。


 「で、なんだ?作戦会議か?」


 「まー、そんなとこだね」


 覚羅が話に加わったため、一同はいちから説明し直すことになった。



 「……んで、その怪物ってのはどんなやつがいるんだ?」


寝覚めの一杯には物足りないらしく、氷をがっつり投入した冷え冷えの麦茶を横に、覚羅は尋ねた。


 「詳細は書いてない。多分、情報を出したくないってとこだろうな」


 「撃破ポイントって、景品に変えられるらしいみたいだけどそれってこれじゃないかな?」


 魅緒が示してみせたのは、アプリ上部のメニューから分かれた項目にある「撃破P」「交換所」とわかりやすく書かれたページだった。


 「……で、これお金に変えれるみたいね。それも、結構な額でさ」


 よく見ると、1ポイントにつき一万円という値段がついている。撃破貢献度が高いほど高得点ということは、かなりの額になることだろう。


 最も、用途は不明だが……


 「おにぃ、これは?」


 と、横から繭愛が別の画面を見せてきた。今度はまた違う。


 「ガチャ……って、こういうところはゲームなのか……」


 「んーん。そこじゃなくて、ここ」


 繭愛が指し示す先には、見知らぬ用語が並べてある。


 《個別武器》サイドウェポンを手に入れて、ゲームをより有利に進めよう!弱小能力のあなたにも逆転のチャンス!?


 ーーとある。


 「個別武器(サイドウェポン)、か……多分、主な使い道はここだろうな。能力に差があるのは確かだし、運営からの救済策なのかもな」


 「んええ!?それ、アタシめっちゃ欲しい!アタシの能力弱っちいしさ……」


 魅緒が食い入るように食らいついた。サイドウェポンにどれほどの性能があるかは未知数だが、レアリティによっては致命的な差になる能力を覆せる可能性があるのは魅力的だ。


 クリーチャーを撃破というのが気になるが、それを補って余りあるメリットだろう。


 しかし、冷静に物事を見る役に徹していた覚羅が口を開く。


 「欲しいっつっても、それ引けるのか?相当その……撃破Pってのがら必要なんじゃねぇか?」


 「あ……」


 それから一同はサイドウェポンについての情報がないか、徹底的に調べあげた。


 ガチャ画面とヘルプから得た情報では、サイドウェポン獲得に必要な最低金額はぴったり五十万円。つまり、ポイントにして五十は必要であることがわかった。


 とてもではないが、現実的とは言い難い。そもそもガチャ、というのが引っかかる。良い武器が出るとは限らないのがいやらしいところだ。


 「あ……でも、いけるかも」


 「え?」


 「前にミッションで確か……」


 そう、ツーショットを提出しろというお題。あれはこのための前置きだったのか。


 そしてプロフィールから確認した現在の梶樹の所持金は……五十万円。サイドウェポンのガチャ一回分ぴったりだ。


 「ど、どうしたの!?それ!」


 「いや、繭と写真とって送る課題をクリアしたら、どういうわけかこうなって……」


 「しゃ、しん……?」


 不思議そうに梶樹を見つめる繭愛。どうしたのかと思ったがその理由にああ、と梶樹は納得した。


 「多分、繭はうとうとしてたから、覚えてないんじゃないかな。写真、送るよ」


 フォルダからメールに例の写真を添付し、繭愛のアドレスへ送りつける。


 ……よくよく見れば、頭を肩へ乗せる繭愛がとても可愛い。梶樹から見ても可愛いと感じるのだから、なかなか上手く撮れている。最もこれが五十万だとは思いたくはないが……


 「どれどれ?アタシにも見してよ」


 ひょこっと身を乗り出した魅緒。すると、それを遮るように繭愛が立ち塞がった。


 「……みちゃだめ」


 「……え?」


 「みちゃだめ!」


 「な、なんで〜!?カゲっちも持ってるんでしょ!?アタシも見たいよー」


 「繭……?」


 ……なんだか、随分と表情豊かになったなと思う。梶樹と二人のときはともかく、登校中などは本当に人形のような無表情っぷりだったからだ。


 おちょくり要因にしか見えない魅緒が、繭愛の心を(無理矢理)開いているのか。


 「寝顔……だから。みちゃやだ……」


 

 

 



 

 

 

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