表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異端兄妹は日常に戻りたい  作者: 幽猫
second chapter アビリティ・ウォー

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

40/118

40章 暴虐の姫君

 梶樹の声も虚しく、咲は繭愛に向かって手のひらを返すようにして空を薙いだ。


 刹那。繭愛の手前寸前の地面が、まるで巨人に踏み抜かれたように大きく陥没した。コンクリートの鉄橋を破壊するだけの威力が、咲にはある。


 「……兄様」


 「咲っ……!今、繭になにしようとした……!?」


 繭愛に今のが直撃しなかったのは、梶樹がギリギリのところで咲の手を抑えたからだった。近づいているだけなのに、身体に妙な圧迫感が押し寄せてくる。


 「だったら、なんですの?今の兄様は彼女に毒されておいでです。私がその幻を打ち砕き、正気に戻して差し上げますわ」


 「……っ、いい加減、目を覚ませよ咲!俺は毒されてなんかない!繭がそんなことするわけ……


 「ああ、また。兄様のそれが毒されているというのですよ」


 咲は梶樹の手を振り払い、スカートを払うと今度は梶樹に手のひらを向けた。


 「!!?」


 急に、唐突な圧迫感が梶樹の身体を襲った。誰かに抑えつけられているような感覚が、五臓六腑を巡回する。

 息が苦しいと感じたのは早かった。肺が強制的に圧迫され、呼吸がひどく辛いものになっている。しまいには立ち続けることすら叶わず、うつ伏せになって倒れてしまった。


 「おにぃ!」


 「ま、ゆ……!来るな……」


 繭愛が近寄ろうとするのを、梶樹は絶え絶えの息から止めるように声を絞り出した。発音することすら億劫に感じる不可視の力、見えない枷。


 (これが……咲の能力……!)


 身動きさえ取れなくさせる強力な力。鉄橋が陥没したのも、この力のせいだと考えれば辻褄があう。しかも、梶樹に対しては()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 つまり、陥没させるほどの圧力はこれの比ではない破壊力がある。捕まったらあの世行きは避けられないだろう。


 「ご容赦くださいませ、兄様。駆除が終わるまでの辛抱ですので」


 まったく悪びれのない、穏やかな表情で、咲は笑った。躊躇いなど毛の先ほどもない、純粋な微笑み。それが、今は逆に恐ろしかった。


 「まてっ……咲……!こんなことして……なんになるんだ」


 「兄様を正気に戻す。それだけですわ」


 さっと一瞥をくれると、もう一度繭愛に向かって、腕を上げる咲。繭愛のほうも警戒しているのか、光の帯がまた再熱している。周囲を囲い込むそれが鉄橋の柵にあたる度に、鮮やかな火花がちろちろと覗いていた。


 「……おにぃを……離して!」


 「それではご機嫌よう、そしてさようなら」


 咲の金の髪から極小に砕かれた粒子が地面に墜落し、繭愛の銀の髪から何本もの光の帯が、青白い火花を散らす。


 二人の視線が拮抗し、衝突ーー一瞬で弾けた。……かに思えた。


 「姫ぇ〜!ここにいたんですか、姫えー!」


 突如として現れた乱入者に、三人の注意が集中する。丸々とした、恰幅のいい、中年半ばの男性。それは、覚羅と魅緒から逃れてきた豚男だった。


 「誰だ……?」


 梶樹は疑問に思って、その男の動向を見据えた。見知らぬ相手ということは敵側のチーム、つまりは咲のチームメイトということになるが……


 (どう見てもおっさんなんだよな……)


 もしかすると、比較的同年代でチームを組めた自分たちは、実はかなりの幸運だったのではないかと思った。どう考えても咲と豚男の年齢は、下手をすると親と子ほども離れているかもしれない。


 なおかつ繭愛と同じチームに集まったとすると、それはもう広大な砂漠から一粒のピーナッツを拾いあげるほど至難の技だろう。


 (ひょっとすると、ゲームマスターの仕業かもな)


 あり得る。口調は固いが、実際は楽しみを最優先する少年のような人柄なあの人なら、やりかねない。


 そんなことを考えていると、ふいに咲が豚男に話しかけた。とても、嫌そうな顔で。


 「岩永さん……私は別行動だと申したはずですが、いったいなんの御用でしょうか?」


 イワナガ、と呼ばれた豚男ーー本名岩永満(いわながみちる)は、縋るような勢いで咲に懇願した。


 「姫っ、おらたちが見つけた相手がそれはもう強くって……姫に潰してもらいにお願いしにきた次第だよ」


 その発言に、梶樹と繭愛は即座に反応した。


 (十束、か……?)


 そうとしか考えられない。この男は、覚羅にやられそうになったところを助けを求めにやってきた。こんなところだろう。だとすると、少なからず魅緒も同伴しているはずだった。


 (まずい……!咲を行かせたら、二人が……)


 戦況は分からないが、咲がついていってしまったら、覚羅も魅緒も無事にはいられないだろう。能力の相性からいって、悪すぎる。


 近接戦では無類の強さを誇る覚羅の弱点は、遠距離からでも行使できる念力系の能力。拳が振るえない相手には、勝ち負け以前にまともな勝負にならない。


 しかし、咲は豚男の懇願を振り払うようにそっぽを向くと、もう一度繭愛に向かい直った。


 「興が削がれましたわね、では覚悟なさいませ、繭愛さん」


 「ひ、姫っ!?」


 豚男は慌てふためいて咲の前に踊り出る。両の手を合わせ、再度懇願をするその姿は、神にお告げを求める信者そのものだった。


 「どうして……チームのピンチなんだよ?どうして助けに来てくれないだよ……」


 すると、咲は舌打ちをして豚男の身体を踏みつけた。ひっ、という怯えた声の下、容赦ない蹴りが豚男に叩きこまれる。


 「私は、貴方たちとは馴れ合わないとはっきり申したはずですが?それでも助けを求めるなんて、貴方にはプライドという矜持がないのですか?」


 「ぶっ!い、いや……おらは姫の騎士(ナイト)で……」


 「私の騎士はここにいる兄様だけですわ!貴方如きが自惚れないでくださいまし!」


 なおも容赦ない連打を浴びせる咲。だがそれとは対照的に、豚男の表情はみるみるうちに惚けたものになっていく。


 「ぶっ、ぶへ……ごめんなさい、姫ぇ……おらが間違ってましたぁ……。ああぁ、いい……もっと、もっとおらにお仕置きしてくださいぃーー!」


 蹴られながら嬉々とした表情を見せる豚男に、その場の全員が顔をひきつらせた。


 ーー気持ち悪い、という感情が先んじたのだろう。ドMな豚男の恍惚したその様に嫌悪を抱いたからこそ、梶樹も繭愛も、まさかこうなるとは思ってもみなかった。


 「……本当に意地汚いお人ですわね……。いいですわ、いっそのこと、とっておきの()()()()を差し上げますわ」


 そういうと、咲はほサンドバッグと化していた豚男への蹴撃を止め、その手を振りかざした。


 次の、瞬間。


 「ぐびぃいいぃぃ!?」


 豚男の周囲に、とてつもない圧力がかかる。梶樹に使った力とは比較にならないほどの圧倒的な圧力に、豚男はなす術なく地に倒れ伏した。


 豚男の関節から、口から、目から、ぶしゅぶしゅと耳障りな音を立てて血が吹き荒れる。


 「さ、き……!やめろ、そんなことをしたら……!」


 梶樹が続きをいう暇もなく、咲が豚男に最後の言葉を告げた。


 豚男の周りの地面が陥没し、大きな穴を作る。


 「ご機嫌よう。今度はもっと良い人に生まれ変わってくださいまし」


 「あっ……ぶっ……ぶふうぱぁぁああー!」


 ぶちゅん。


 聞くに耐えない断末魔をあげたあと、豚男の身体が床に落とした陶器のようにぐちゃりとひしゃげーー潰れた。破裂した水風船のように、大量の赤い血潮が吹き上がり、爆散する。


 しかし、吹き出した赤い命の体液は、不思議と広がることはなく、豚男の周りにびちゃびちゃと()()()()()


 僅か数分。たったそれだけの時間で、豚男はこの世からあっけなく消え去ってしまった。


 「さ…………き……?」


 梶樹の視界が暗転し、暗黒に染まった。


 

 

 

 


 


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ