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異端兄妹は日常に戻りたい  作者: 幽猫
second chapter アビリティ・ウォー

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23章 エンカウント

 繭愛と魅緒に急いで用意をしてもらい、開始三分前になんとか全員が出揃った。能力の情報を共有しておきたいとも思ったがそんな時間は残っていない。


 特に梶樹が気にしていたのは、ゲームの形式。それと繭愛が得た最高ランクの能力(アビリティ)についてのことだった。


 (ゲームマスターがいってた話から推察して……多分、バトル形式。しかもチーム戦か)


パソコン越しにしか喋っていないがあの性格はどう考えても享楽に入り浸った、いわば少年のような物言いだった。そしてこの場所に来てからの開始宣言。まるで強者を決めるための脅し文句だ。


 「ふざけやがって……!」


 誰にも聞こえないような大きさで呟き、拳を握る。

 勝手に連れて来たくせして、闘争させて(やりあわせて)。それで負けたら切り捨てると煽っている。連中は、神にでもなったつもりなのか。


 梶樹の心の半紙に黒い墨が一滴、垂れた。それは次第に大きく唸りを上げて波紋を呼び起こす。黒い墨は白い半紙の上を少しずつ侵食していくーー。


 「おにぃ……」


 固く握られた梶樹の手を繭愛の両の手が包んだ。温かさ、柔らかさ、華奢な指から伝わる儚さが、染められていく心の半紙の上に白い修正液を流した。泥に塗れた雑草に雨が降るように、どす黒い墨が溶かされていく。


 その感覚に、梶樹は自分が自分を見失いかけていることに気づいた。……情けない。この怒りは自分に対してのものではなく。繭愛を、大切な家族を、巻き込んだ自己中心極まりない運営連中に対してのものだった。

 それを()()()のはーーいつも近くにいてくれる、繭愛。甘え上手で、寂しがりで、お節介なくらいに優しくて。……それでいて、どこか危うくて。

 

 そんな繭愛だからこそ。梶樹は本当の家族でないにも関わらず、真に信頼を置いて慕っている。両親を亡くし、祖父すら今はまともに会うことが叶わない。今の自分が存在する意味はきっと、この関係なのだろう。おそらく目の前の少女もそう大きくは変わるまい。


 「繭……絶対、帰ろうな。俺たちが過ごした、あの家に」


 「……うん、約束」


 もう、二度と失いたくない。神様がいないならーー自分の能力(チカラ)で、守ってみせる。


 「いっとくが、俺は細かいことはできねえぞ。必要とありゃあ手加減はしねぇ。……てめぇが大事なら、躊躇はするな。いいな?水影」


 両の拳をかちあわせて覚羅がぎろりと梶樹を睨んだ。けれどその目は、身が凍りつくような殺気があるものではない。純粋な……忠告。覚悟を決めろ、ということだろう。

 無愛想で、目つきヤバめで、近寄ったら刺されそうな雰囲気をしているのに。覚羅の本質は常に一直線。何にも()()()ことがない。


 「できれば殺しなんてしたくないけどな……肝に銘じとく」


 生きるため。生物の基本原則として生存は必ず確保するべき絶対原理だ。それを成すためなら、人間は人間を簡単に捨てられる。それがいかに倫理を踏みにじったものだとしても。


 「アタシは……ちょい自信ないかな。能力、弱いし……。でも、死ぬ気なんてさらさらないからね!」


 魅緒は昨日とは打って変わって本当に自信なさげだった。だが彼女がこのチームのムードメイカーなのは既に明白。年上なのか疑わしいほどに悪戯好きだが……正直、憎めない人だ。

 

 ところどころ難点はあるが、梶樹はこのチームでよかったと思った。個性の強さは時として枷にもなる。しかし、これが一番居心地のいい自分としての在り方だとも思う。


 開始を告げるカウントダウンがゼロになり、大音量のブザーが鳴り響く。集まった四人を光の柱が包み込んで、世界が白く見えたような気がした。


 「うっ……」


 次に目を開けたとき、梶樹の目に飛び込んだのは先程とは全く違う別の場所だった。閉鎖された和室ではなく澄み切った青空の下、穏やかな風がそよそよと流れるこの場所はーー。


 「河川、敷……!?何でこんなところに……」


 正面に大きな川が横たわる堤防の下、芝生が緑のカーペットを敷く河川敷だった。今の今までにいた和室とは似ても似つかない異様な光景だった。


 「わーぉ。これどうなっちゃってるのかな?もしかしてワープとか転移みたいな二次元チックなやつ!?」


 魅緒が目を輝かせて周囲を見渡すと、応えるようにしてどこからか軽快なファンファーレが鳴り響いた。その刹那に空中に巨大なモニターが表示される。

 映った人物は、あの開幕宣言を担当したマジシャン風の女だった。


 「第一ゲームの舞台にぃ……ようこそぉー!皆さん全員いますでしょうか?開幕戦は四対四のチーム対抗戦を行なってもらいまーす!!より勝利したチームが次のゲームを有利に進めることができますので、張り切ってやっちゃってくださーい!」


 ……相変わらずノリが激しい。これは魅緒よりきついのではないだろうか。

 ともあれ、内容はほぼ予想通りの展開。チーム戦は想定外だったが予期しなかったわけでもない。単に()()()()パターンの解決案を出せなかっただけだ。


 「それと、いっこルール変更だぜぃ!挨拶ではこの第一ゲームはデスペナルティなしといってたけど、()()()()()()()()()()処刑されることが決定しました〜!いやーごめんごめん。思ったより人数多くって」


 「なっ……!?」


 てへっと舌を出してしらじらしくウィンクをする女。ここに来てまさかのルール変更だ。一回は勝たなければ、処刑。つまりは殺されることを意味する。


 (まずい……そうなると、よりゲームに勝つのが厳しくなるぞ……)


 余裕から生まれる油断は必ずどこかで発生する。例え意味不明なゲームに巻き込まれた極限状態だとしても、人間である限りは絶対に作られる。

 緊張感を持った相手ほど攻略し難いものはない。適度な緊張はそれすなわち集中力の向上を呼ぶからだ。今までの認識として()()()()()()()()よりも()()()()()()()()()()方が大きかった。それが、()()()()()()()()()()()()という重しが急に現れたせいで、利益(プラス)危険(リスク)の天秤が急に傾いた。


 「制限時間はなしのフルタイムバトル!全員が降参、死亡、気絶による戦闘不能なった場合に勝敗が決定しまーす!それでは……バトルぅぅぅすたぁーとぉ!」


 再びのブザーと共に、モニターがさっとかき消えてしまう。川のせせらぎが空気を流してちゃぷ、ちゃぷと水が跳ねる音がする。


 「……決まりだな、もう勝つしかねぇ」


 ばんと梶樹の背を叩いた覚羅は拳を掌に打ち付けて、気合いを入れる。そのとき、どこからか声がした。周りの四人ではない。どこか、もっと遠方ーー。


 「ああっーー!お前は!」


 「おぉう。あんときのカノジョもご一緒か。こりゃおら達に幸運の女神様が巡って来たかぁ?」


 その声の主は対岸にいた。コンクリートの防波堤の上に金髪の派手派手ジャンパーと刈り上げた筋肉Tシャツ男がこちらを指差している。


 「あぁ?昨日俺がぶっ飛ばした奴らじゃねぇか。相手ってのはあいつらのことか」


 「ん……わたしも、知ってる。急に連れてかれそうになったの……」


 「言われてみると昨日会ったような気が……覚羅の側にいた人たちか」


 「なになに、皆知り合い?どちら様ですかなの、もしかしてアタシだけ!?」


 四人が口々に各々の意見を述べていると、対岸の二人が何やら口に手を当てて叫んだ。


 「ここで会ったが百年目ぇー!昨日の借りを返させてもらうぜ、クソ野郎ぉー!」


 「おらを殴り飛ばしたこと、後悔させてやらぁー!」


 ……うわぁ。


 展開的な小物の台詞だ。ここまでテンプレを極めるとあまりのキャラハマりに笑いさえ起きない。しかし、このゲームでは全員に何かしらの"能力"が与えられている。油断しているところで痛い目を見るのは避けたかった。


 「……ちょうどいい。俺が叩いてくるぜ」


 轟!と凄まじい音と風が空を切り、覚羅が勢いよく飛び出した。ラグビー選手もかくやというスピードで岸際に突っ込んでいく。


 「けっ、自分から来やがって。なら思い知らせてやるぜ……やるぞアニキぃ!」


 「カノジョはおら達が先にツバつけてんだ。ガキんちょがしゃしゃり出てんじゃねぇー!」


 汚い欲望をひけらかしながら、チャラ男と筋肉マンが向かいの対岸へ向かって跳躍した。広い川の上で三人が対峙する。


 「覚羅!気をつけろよ!」


 実際、チャラ男と筋肉マンには勝算があった。チャラ男の能力ーー、《韋駄天》は周囲の自分含む人間の脚力と瞬発力を飛躍的に向上させる能力。そして筋肉マンの能力、《剛拳》は周囲の自分含む人間の骨筋力と腕力を向上させる力ーー。


 ふたつの能力でスーパーマンになった男どもは普通ではあり得ないほどのジャンプを見せた。このまま迫りくる生意気なガキんちょを川に叩き落とす。それが二人が描いたイメージ。


 だがーー相手が悪かった。


 覚羅は空中で二人に肉薄すると、両の手から鋭い手刀を男二人のうなじに振り下ろした。その衝撃に大気が震え、突風までもが吹き荒ぶ。


 「「がっ……あ……っ!?」」


 まともにくらったチャラ男と筋肉マンはカウンターなどする間もなく下へーー川へと墜落していく。


 ドボン、という水が弾く音がふたつ聞こえた刹那。水面から光の柱が同じ数空へ向かって昇った。いつの間にか表示された空中モニターには……KOの二文字。


 覚羅はそのまま対岸へ着地すると、水面に向かって中指を突き立てた。


 「誰が、誰を……後悔させるって?前にもいったがな、俺は軟派な野郎が大っ嫌いなんだよ……!」


 

 


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