118章 明日への道
プリズムレアによる激しいぶつかり合い。
繭愛の《天を統べる女王》に対して学の《地を喰らう帝王》はあらゆる能力を模倣し自分の力にしてしまう。
合流した梶樹は新たに手に入れた超加速をもって相対するが、模倣された同じ能力で完膚なきまでに叩きのめされる。
学の目的は天聖家が代々伝えてきた星の巫女の血を途絶えさせることだった。
星の巫女とは世界の浄化装置であり、人の負の感情が大地を汚染しそうになったときにそれを受け止める役割を担っていた。その役目の代わりに世界を通じて不可思議な現象を起こす力をを持っている。
しかし近年の情勢多様化により、あらゆる面から負の感情が溢れ蓄積していったため現代の星の巫女である天聖当主、天聖胡蝶はとうとう床に伏してしまう。
天聖家は次の巫女となる彼女に天聖の分家たる七草家から婚姻の話を持ち出した。巫女となる子には天聖の血が流れていることが絶対条件なため、親族間での交じりで一族を支えてきたのだ。
繭愛の母、天聖雪音が外部の人間と逃げてしまったのは天聖家にとって大いに問題がある。
なぜなら巫女になれるのは本家筋直系の女子だと定められており、雪音は胡蝶の子で唯一の女性だったためである。
雪音が逃走した原因が七草側にあると断じた天聖家はそれまでの契約全てを打ち切り、一族から追放した。
だが雪音を連れ戻そうと躍起になっていたところ、落ちぶれた七草卓が雪音を殺害してしまう。
つまるところ、現状で次の星の巫女になれるのは雪音の娘である繭愛だけだった。
すでに胡蝶は溜め込んだ負の感情で明日をも知れない体であり、このままでは大地は汚染され厄災が降りかかる。
力づくでも繭愛を確保しようと動き出した天聖家を止めたのは、天聖本家から医師の道へ進んだ倉科修だった。
修はこう提案する。
「僕が一時的に巫女代理を務め、新たな巫女に成長の機会を与える」
繭愛の年齢では力の制御ができず、暴走してしまう危険があったためその危険がある程度抑えられると見込めるまで育てる必要があった。
負の感情を浄化するのに求められるのは正の感情、そのなかでも最も重要な慈愛の念。
ただし繭愛は度重なるいじめと両親の死を経験したために心を閉ざしてしまい、より不安定になった彼女に心を開かせないことには巫女として機能しない。
頭を抱える天聖家に一筋の光を齎したのは、隣に住んでいた水影梶樹である。
前々から接触していた彼は失いかけた繭愛の心にほんのわずかではあるが、希望という彩りを加えたのだった。
以来、修は本職である医師を続けながら梶樹、繭愛両名の観察を継続させた。
デスゲームの目的とは、新たな巫女となる繭愛への成長を促すための試練。そして溜まりに溜まった負の感情エネルギーを放出するための舞台だった。
様々な怪物たちの正体は人間の怨念が凝縮し、形を持ったものである。
なんとか魅緒と繭愛を連れてその場を脱した梶樹だが、力の差を見せつけられ憤る。
最初の攻防で半数以上のプレイヤーが死亡、残った者もほとんどが一夜を明かすこともできなかった。
絶望的な状況下、一同はあの月呼に出会う。
学はここで全てのプレイヤーを蹴落としゲームを強制終了させるつもりであたっている。このままでは当初の目的であった繭愛を新たな巫女に立てるどころかゲームの敵として排除されるはずだった怪物たちが残ってしまい、現実世界への壁を破ってしまいかねないという。
学に対抗するためには巫女としての力を使い、《天を統べる女王》の能力を最大限まで引き出さなければならない。
自分にはできないと躊躇する繭愛の背を押したのは、梶樹だけでなく戻ってきた覚羅、魅緒、それからこれまで戦ってきたプレイヤーたちだった。
梶樹は繭愛がだんだんと周囲へ心を開いていったのがわかっていた。そしてそれは側にいた仲間たちにも伝わっていたのだ。
慈愛の心を込めて、梶樹の背に文字をなぞる繭愛。
そしてついにデスゲームは最終決戦を迎える。
「人の本質は悪ですよ。どうしようもない愚物です」
「知恵を持つ人が愚かだというのか?」
「その知恵を人は何に使いますか? 結局は欲望の盃を満たすための道具、欲望の発露こそが人の性というなら所詮そこらの獣と変わりはありません」
「確かに、人は間違いを犯す。でも間違いに気づいて正すことができるのも人なんだ」
「わたしもたくさん間違えた。でもそのぶんだけおにぃが教えてくれたよ。
誰にだって罪はある、汚れてもいる。だけど、それに向き合えるのはずっと側にいてくれる人がいるからなの」
「あなたはいいですよ。自覚させてくれる人がいる、それがどれだけ恵まれているか。しかし、全ての人間が恵まれているとは言い切れない。孤独のまま破滅への道を進んでいく者が大勢いる。僕の弟もそうだったでしょうに」
「だからこそ、俺はあんたを止める。負の感情を消すことはできないかもしれないけど、それを星の巫女に頼りきるのは間違ってる!」
「これがわたしの選んだ運命だとしたらその責任はきっとわたししかとれない。皆と一緒に、あの世界に帰る!」
「……いいでしょう、僕がここで貴女を倒せばどのみちゲームセット。見せてあげますよ、格の違いを!」
咲のブラックホール、覚羅の身体能力20倍、魅緒の新兵器であるサイドウェポン、ソウルサイズ。繭愛のプラズマを介した突発性ハリケーンに電気分解による水蒸気爆発。
あらゆる手を尽くして学にダメージを与えていく。
しかし、二百を超える能力をコピーした学にはあのレールガンでさえ致命傷には至らない。
突破口を開いたのは梶樹の超加速。
分子レベルの超加速により学の体内を突き抜け大ダメージを与えたが、危険な技ゆえに肉体のほうが悲鳴をあげダウンしてしまう。
膝をついた学に、繭愛のプラズマボールが炸裂する。
念入りに落雷を落としたもののすんでのところで学は再生能力により復活。繭愛に接近し、《天を統べる女王》を手に入れた。
……かと思ったが、突如として肉体が崩壊を始める。
《地を喰らう帝王》は能力を模倣するわけではなく、自分の身体に移植する能力だったのである。
当然、そこには拒絶反応が控えているがプリズムレアの効力により格下の能力による拒絶反応は抑えられていた。
しかし、同列のプリズムレアの能力を移植したことでこれまで制御していた拒絶反応が暴走。
《地を喰らう帝王》自体の効力が弱まり、二百以上の能力が学の肉体をズタズタにしてしまう。
とうとう学は力尽きてしまうのだった。
梶樹のほうはというと、分子レベルの加速により細胞の熱崩壊まで引き起こしてしまう危険な状態だった。
このままでは組織が機能不全を起こし、死に至ってしまう。
繭愛が全力で能力を活用し、梶樹の細胞を活性化。その治療は三日間にも及んだ。
目を覚ました梶樹の頬に繭愛の涙がこぼれた。
「……ごめんな、また心配かけて」
「ううん……。よかった、ほんとに…………今度は、間に合ったから……」
かくして、デッドオアディアーは生存者15名で幕を下ろした。
後日、倉科医師よりゲーム後の詳細が二人に伝えられた。
星の巫女の役目は《天を統べる女王》を反映した浄化槽が引き受けることとなり、代々続いた天聖家の巫女は一区切りを迎えることになった。
「お嬢様はまだ天聖の人間です。その身柄を狙われることもありますれば。ですがこの月呼がそのような不貞な輩は通しません」
繭愛は結局天聖の時期当主として今後も扱われるようだ。巫女が当面の間必要なくなったとはいえ、後継ぎ問題が解決したわけではない。
ただ、梶樹は繭愛が選んだ道ならばそれも良いと思っていた。
それからしばらく。今日は久々に覚羅と魅緒と会う約束をしている。
「おにぃ、はやくはやく」
繭愛はすっかり明るさを取り戻し、以前より心なしか積極的になった気がする。
梶樹の祖母もときおりこの家に顔を出すようになり、デスゲームに巻き込まれる前の日常が戻ってきた。
ゲームクリア報酬の願いははじめから決まっていた。
失ったものは戻って来ない。過去はどうあがいても変えることはできない。
けれど、未来なら? これから歩く道はどんな景色が広がっているのだろう?
「はいはい。今行くよ」
普段通りのスニーカー。いつものカバン。
梶樹と繭愛は顔を見合わせ、玄関を開けた。
「「いってきます」」
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
本来ならもう少し続く予定だったのですが投稿ペースが目に見えて遅くなり続け、このままでは危ないと判断したのでここで切らせていただきます。
完結を楽しみにしてくださった方々には本当に申し訳ありません。
ただ、作者自身の描いたラストがあまりにも遠すぎました……。
次回作はその点を改善できたらなと思います。
最後にもう一度。不定期更新の中、本作を読んでいただき本当にありがとうございました。
人気が出たら二人のその後に少し触れたいですね。




