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異端兄妹は日常に戻りたい  作者: 幽猫
third chapter 運命の歯車

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116章 揺れる歯車

 「あ……うっ…………」


 苦悶で顔を歪めた。痛みのあまり立っていられない。傷口はそれほど大きくはなく、熱で焼けてしまったため出血も少なかったが、足に穴が空いたことに違いはない。


 繭愛は瞬時に狭まった電磁領域を再展開させた。咲を縛るのに割いていたぶん、索敵が疎かになったのだ。光線が能力によるものなら必ずどこかに犯人がいる。


 だが辺り一帯を囲いきったところで違和感が募った。

手応えがない。それらしい影も形もなかった。擬態していようとこの網には引っかかるはずなのに。


 遠くからの流れ弾かと考えそうになった。実際それが最もあり得る話だろう。能力はひとりにつきひとつだけの制約があるためかなり応用の効くものでないと使い勝手に難がある。


 「っ……あみゅたん……」


 寄りかかった肩から聞こえる息は荒い。片方の足でなんとか堪えているからこのままでいられるが、気を抜いてしまえば体重全てを預けてしまう。


 「ゆっくり、ゆっくりするから……お姉さん、大丈夫。ほらもう少しだけ、力を抜いて」


 どうにか土に尻をつける形て魅緒を座り込ませた矢先、今度はしっかりと磁力の網に引っかかるものがあった。

 ぶん、と手を横払い、はたき落とす。()()がなんなのかまでは分からないがまた来るとすれば危険なものに変わりはない。高速で向かってきた飛来物は電磁領域を通過すると、薙ぎ払われた磁力の嵐に突入。


 結果はーーー霧散した。


 (消えた? どういうこと?)


 訝しげに眉を寄せる。単なる牽制のつもりだったがそれで対処できてしまうとは思わなかった。ビームやレーザーの類いならそんな程度で止められるような威力ではないはずだ。

 それに加えて向かってきた方向が問題だった。なんと、上空から降り注ぐように来ていたのだ。


 「いやはや、お見事でした」


 突然、目の前の空気がぐらぐら歪む。歪みは徐々に大きくなっていき、ある程度の大きさになると人の形を作った。

 そいつは切れ長の細目で、かなりがっしりとした体格をした男で、身長も梶樹よりかは頭ひとつほど高かった。爽やかな笑みを浮かべて、拍手している。


 「完全に不意をついたつもりだったんですがね。流石はプリズムレア……他のものとは文字通り、格が違うというわけですか」


 「あなた……誰?」


 それとなく尋ねた。緊張が声に表れてしまったかもしれないが、一手のやりとりが生死に結ぶ場だ。悔いるのはやめた。


 「よぉく知ってますよ、あなたのことはね」


 繭愛は首を傾げた。どこかで会ったことがあっただろうか。見覚えがないから聞いたのだが向こうはどうやら自分のことを知っているらしい。


 「……どこかで会ってるの?」


 「面識はありませんよ。知識として持っているだけです。ですが、薄々気づいているのではありませんか? このゲームの真髄……具体的には、誰が関わっているのかを」


 「…………」


 繭愛は唇を固く結んだ。自分のことだ、嫌でも理解している。月呼は明らかに運営側の人間だった。どうして近づいてきたかは知らないが繭愛と関係のある人物というなら、このゲーム自体が出来レースだと思えてしまう。

 

 あのときのゲームマスターは想定外の事態に驚いていたように見えたが、あれは演技だったのだろうか? もし、この能力が手の内にあるのも偶然でなく必然だったとしたら?


 今までに見た死んでいった人々は、全て繭愛に巻き込まれた被害者ということか?


 ぞく、と背筋に寒気を感じた。集中していたときにはまるで気にならなかったのに先程まで耳にしていた何人もの断末魔が再生される。


 「なにが……いいたいの」


 耳を塞ぎながら尋ねた。息が苦しい。胸にある黒くて苦いものがどんどん膨らんで大きくなる。なんとかして抑えつけようとしても手のひらをすり抜けていくみたいでどうにもならなかった。


 男は口を開く。


 「哀れだな、と思いまして」


 「……哀れ?」


 彼は大きく頷いた。


 「ええ、ええ。とても哀れですよ、あなたは。ようやく運命の線路を脱したはずですのに、未だその道は敷かれたレールを走っている。これほど哀れなものがありましょうか?」


 「どういうこと? わたしのこと言ってるの」


 「もちろん。そして、私には見えているんですよ。あなたがこれから進んでいく未来、その一端がね」


 「未来……」


 だんだんと男のテンションがハイになっていく。


 「厄災を振り撒く脅威。あなたはその類まれなる魅力で、多くの人間を傀儡とし誰もが羨やむ力を手にするのです。しかしまぁ、なんということでしょうか。その先に待ち受けるのは虚無。全てを手にした者だけが味わえる苦しみに、あなたは途方もない渇きを覚えるのですっ!」


 「……よく分からないけど、悪いことってことは分かった」


 完全に自分の世界に入り浸っている。はっきり言って変な人だな、と繭愛は若干引きつっていた。


 しかし、次の言葉でその態度が大きく変わる。


 「……あなたが失ったご両親、何故生き別れなければならなかったのでしょうか? あの理不尽な()()はどうして起きたのでしょうか」


 「…………!」


 繭愛の眼が大きく開いた。黒い塊がさらに大きくなる感覚を覚えながら、激しく動悸する心臓を抑えて尋ねた。


 「なんで……そのことを知ってるの?」

 


 


 


 

 

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