ファンタジーセオリー5
[5]
「輝く金と赤の鱗。射すくめる黄金の眼。しなやかな体つき。その巨体に似合わず軽やかな動きは、優雅で強靭で強大で、偉大だった。
翼は折り畳まれ、長く伸びる尻尾や、太い四肢を含めても、それほどの大きさは無い。
しかし、その内側から溢れる威圧が、対面した者を委縮させる。
もし対峙したのなら、まず逃げる事を考えよう。
その身が焼き尽される前に。
――ドラゴン」
竜は出会いがしらに大口を開けて、咆哮する。耳も体も大地すら震え上がらせる。王者の叫び。
「皆ライセの付近に集まって!」
「闇の導き(カラバル・ラガレド)よ、人の慈愛を、優しさをその身を守る盾とする標と成したまえ!」
ライセの杖から、水が溢れ出る。生み出された水は、僕等を守るカーテンの如く竜の前に広がる。それと同時に、竜の喉の奥から、灼熱の衝撃が迸る。
「間に合ったわね! 竜の吐息なんて直撃したらひとたまりも無かったわ」
「ってか、全然ミライさんの隠密魔法効いて無いじゃないですか!」
「文句は終わった後で聞くわよ!」
竜の吐息が止むと同時に、僕等は散開して竜を取り囲んだ。
ミライの弓が竜の鱗へ無数にひりそそぐ。ライセの魔法が生み出す氷は、竜の手足を凍てつかせ、動きを奪う。リンネが振り下ろす戦斧が竜の頭を打ち据えた。
「う、うおぉぉぉぉぉ!」
そして僕の放つ剣が、竜の鱗に弾かれる。
「硬い! こんなのどうしろって言うんですか!」
「大体竜ってのは、身体の何処かに逆鱗があるモノよ、其処を狙うの!」
「そんなの何処にあるんですか!」
「勘で探せ!」
「無理言わないでっ!?」
言い争っている間にも、竜は攻撃の合間を抜け、その巨体からは信じられないほど俊敏に動く。輝く黄金の瞳が残像の様に残り、あっさりと死角に移動される。
「は、早い!?」
「何処に行ったのかしら!?」
さっきまで猛威を振るっていた巨体は、気が付けば影も形も無く。息苦しくさえあった威圧感は煙の如く消え失せていた。
「上なの!」
リンネの声が響いて、突如上から大きな影が落ちてくる。竜には翼が生えている。その翼は鳥よりも蝙蝠よりも早く巧みに飛ぶと言う。
竜は上空から強襲し、その口を開けた。喉の奥から灼熱の吐息が迸らんと、輝きを蓄える。あわや焼き尽されると身構えた時。竜の眉間に槍が突き刺さった。
「何ですか!?」
「アレはっ!」
竜目掛け、無数の槍が放たれる。馬を駆り颯爽と現れたのは、竜に奪われた財宝を探す為に近隣を駆けていた騎兵隊だった。熟練の騎士達は竜に怯える事無く果敢に責め立てる。
その槍の一つが、竜の胸を貫いた。それがこの竜の逆鱗だったらしく、竜は一声嘶くと、ゆっくりと地面に倒れ込んだ。
そして、竜の巨体は煙の如く掻き消え、現れたのは鎧を槍で貫かれ倒れる一人の騎士だった。
「え、ドラゴンはどうしたんですか? 何処に? コレは、人間?」
「ハイ・ファンタジーにはこういった意外な結末もまたつきものなのよ」
騎兵隊は語る。
この者はエルフの姫君に恋した騎士だった。
しかし友好関係にあるとはいえ、種族の差と、そして身分の差に苦しんだ騎士は、エルフの王国の秘宝、幻竜の鎧に手を出し、その身を竜へと変え姫君に駆け落ちを迫る。しかいs、竜となった騎士に姫君は気づかず、騎士は拒絶されたと思い竜の姿のまま彷徨う事になったのだと言う。
「悲しい話ですね」
「そうね、儚い物語なのよ」
「コレが幻想(ファンタジーなんですね」
「ええ、まったく……黄金も全部王国が没収だなんて、くたびれもうけだわ! これは涙なしには語れないわよ!」
「え、悲しんでるの其処ですか!?」
[続く]




