タバコを買いに来る客
高校生のころ、私は地元の駅前のコンビニで夜勤のアルバイトをしていました。
その店には、毎日のように同じ銘柄のタバコを買いに来るおじさんがいました。
年齢は50歳くらいでしょうか。
白髪交じりの髪に、いつも同じような紺色のジャンパー。
無口な人で、レジに商品を置くと「いつもの」とだけ言って、タバコを受け取って帰っていきます。
店員の間では、いつしか「タバコのおじさん」と呼ばれるようになっていました。
ある日の夕方、同じ時間帯に入っていた女性アルバイトの佐藤さんが、休憩室で突然こんな話を始めました。
「ねえ、ちょっと聞いてほしいんだけど……私、この前プロポーズされたんだよね」
突然の告白に、私は思わず聞き返しました。
「えっ、彼氏できたの? いつの間に?」
「違う違う! あのおじさん!」
話を聞くと、数日前のことだったそうです。
いつものようにタバコを買いに来たおじさんが、レジを担当していた佐藤さんに突然、「君はいつも笑顔でいいね」と声をかけてきたそうです。
普段はほとんど話さない人だったので、佐藤さんも驚きながら「ありがとうございます」と返しました。
すると、おじさんは少し照れたように笑い、こう言ったそうです。
「実はね、毎日ここに来るのが楽しみなんだ。君に会えるから」
佐藤さんは接客用の笑顔で「そうなんですね」と返したそうですが。
おじさんはさらに真剣な顔になり、「もしよかったら、僕と結婚してくれないか」と言い出したらしいのです。
「いや、私、まだ二十歳なんだけど! って、頭の中が真っ白になっちゃって……」
佐藤さんは苦笑していましたが、かなり困惑した様子でした。
私は思わず、「それ、断ったの?」と聞きました。
「もちろん! 丁寧にお断りしたよ。でも、意外とあっさり引き下がってくれたんだよね」
その日の夜、私がレジに立っていると、おじさんがいつものタバコを買いに来ました。
少し気まずかったのですが、おじさんは普段どおり無口で、会計を済ませると小さく頭を下げました。
翌日からも、おじさんは毎日タバコを買いに来ました。
ただ、佐藤さんがレジにいるときだけは、以前より少し離れた場所に並ぶようになったそうです。
それを見た佐藤さんは、「なんか逆に申し訳なくなっちゃうよね」と苦笑いしていました。
コンビニには毎日いろんな人が来ます。
怒る人もいれば、変わったことを言う人もいます。
でも、毎日タバコを買いに来る常連客が、同僚にプロポーズしていたとは思いませんでした。
今でも、あのおじさんの「いつもの」という声を思い出すのです。




