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Act.42 終わりのない、この世界で


 ロランは2キロくらいの肉を持って帰った。

 うろこを丁寧に剥がして、ほんの一部分だけだけど。

 解体が済んだら改めてもらいに行くって。

 クレアは笑顔で普通に迎えてくれて、ティアマトをまったく平然と料理した。

「身がプリプリしてコクがあって、意外と美味しかったわ。また獲って来て頂戴」

 にっこり微笑んで。

「ざ、残念ながら獲れないんですが……ギルドで肉をキープしてありますから」

 ナイトメアの時もそうだったけど、クレア怖い。

 きっと魔物の本体を見ても、平気で料理しちゃうんだろうなあ。

 それどころか自分で解体しそう。

 クレアに任せた方が解体早そう。

「討伐前のサンドイッチ、本当に助かりました。ありがとうございました」

「ええ、久しぶりに腕によりをかけたわ」

 さすがSランク。防御力4割向上って。

 少しの食べ物にそれだけの魔力を込めるのは大変だったろうに。

 ご飯を済ませて寛いでお風呂に入り——僕らも無理やり洗われて——ヘトヘト。

 洗うロランの方が大変だと思うけど。

 僕はツヤツヤ、ケイはフサフサ。

 今夜はもうおやすみなさい。

 僕はロランと一緒に、ケイはベッドの脇に伏せて。

「それにしても、うちの魔獣は全然僕の話を聞いてくれない」

 ため息をついて、ロランは嘆く。

「危ないことばかりするから心配が絶えないよ」

『しょうがねえだろ、ああしなきゃフォワードがもたなかったぜ』

「——って言ってる」

「あまり危ないことはしてほしくないんだよな……」

「僕ら、戦闘魔術師の契約魔獣なんだけど」

「君たちは僕を魔獣保護法違反者にしたいのかな?」

「えー、っと……」

「ケイ、君は現場でケガをしたら、まず第一に自分を治すこと」

『そんなん状況次第だって』

『って言ってるけど』

「自分を守れないなら次の討伐から連れて行かない」

『え" ?』

「聞き分けのない子はお留守番だ」

『げっ、それねえわ旦那、絶対なし、連れてってくれよマジで!』

「君のリードをハープシコードの脚に括れば済むんだ」

『わかったよ、置いてきぼりにするなよ……』

「ルイ、君もだ。あんな無茶をして」

 お小言、僕に飛び火。

「だけど、みんな限界だったし……」

「君はどうだったの? 長い時間ティアマトを押さえてて」

「まあ、ちょっとは疲れてたけど」

「途中で魔力切れになったらどうするつもりだったの?」

 まあ、懸念はゼロじゃなかったんだけどね……。

 絶対言わない、最悪の場合はロランから魔力もらうつもりだったなんて。

「それこそ全滅するところだったんだよ」

「ごめんなさい……」

 そしてロランは苦笑して僕をなでた。

「でも実際みんな限界寸前だった……僕もだ」

 うん、本当にティアマトは強すぎた。

 君が頑張ったから、みんなで帰って来られたんだよ。

「とはいえ、結果論として君の判断は正しかった」

「でも本当に指示無視しちゃうし……バディ失格だよ」

 しおれた僕に、ロランがちょっと意地悪っぽく言った。

「明日あたりから大変なことになりそうだね、ルイ先生」

 あ……綺麗すぎる断面で犯人……犯猫がバレちゃう!

「みんなで倒した、じゃダメ?」

「あの断面じゃごまかせないよ」

「無理?」

「複数の刃物で切った傷じゃない。一刀両断、間違いなく魔法だ」

 ダメかあ。

 結局僕は……僕たちは1週間引きこもった。

 外に出ても何もできないんだもん。

 代わりにロランは〝これはクレアが適任!〟って用事を頼んだ。

 ギルドに解体をお願いしてた肉と皮とうろこ。

 それと、うろこの加工。

 丁寧に剥がさないと皮が傷むから、解体は大変みたい。まだ継続中。

 クレアももちろんマジックバッグを持ってるから、どれだけ量があっても平気。

 ロランがもらったのは、肉を30キロとうろこ30枚、背中の皮を少し。

 少しっていっても大きな魔物だったから、けっこうな大きさ。

 バッグ2つくらい余裕で作れるんじゃないかな。

 白くて淡く虹色に光って、ものすごく綺麗な皮。

 うろこには値段がつかなかったけど、最終的に王様が決めた。

 何たって希少価値の塊、すごく悩んだって。

 おとなの手のひら大、大きなうろこ1枚金貨50枚。

 そしてご自身もたくさん買ってくれたらしい。

 新しい栄誉勲章を定めて、勲章に加工して受章者にあげるって。

 最初の受章者はもちろんティアマトの討伐パーティだ。

 宝石と変わらない美しさと硬さ、それだけの価値があるみたい。

 他の地域からも、大勢の宝石商がギルドとの取引を打診してるって。

 しっぽに近い小さなうろこは金貨25枚。

 もちろんロランはタダ同然。ほんのちょっとの解体料だけ。

 討伐者の権利。

 皮もすごい高値がつきそう、革を扱う技術魔術師さんたちが虎視眈々。

 それからしばらくしたら、ミリアが家族でお茶会に来た。

「ミリア、これお土産」

 そう言ってロランはポケットから小さな箱を取り出した。

 中は可愛いサイズで綺麗な雫型に整った、うろこが2枚。

 ティアマトのイヤリングだ。クレアにお願いしてた品。

 傷みがある縁と表面を削って、本当に綺麗な中心だけで。

 ミリアは驚いて、それから笑顔になって、その場でイヤリングを着けた。

 可愛い。

 落ち着いた宝石だから、もう少し大人になったらもっと似合うよ。

「ありがとう、とっても嬉しい。すごく綺麗。でも……」

「何か不満?」

「視界の外だから、ペンダントみたいに見えない……」

「そう言われるかもしれないと母が申しまして」

 次にポケットから出てきたのは、女の子の手にちょうどいい大きさの、折りたたみ式の手鏡だ。

 上になる表面には細かいうろこが敷き詰められて、綺麗に研がれてキラキラして綺麗。

「これなら好きな時に見られるよ」

 ミリア、鏡を受け取って満面の笑顔。

 みんなの笑顔が絶えないお茶会、僕らも見ていて幸せ。

 実は出発前日に訪ねてきたミリア、家の中に入った途端、座り込んで大泣きしたんだってお父さんにバラされて、顔が真っ赤に。

 うん、いい感じ。

 きっといいカップルになれるね。僕はそう思うよ。

 その後もロランはゆっくり休みを満喫。

 らしくないことを真顔で言ったもん。

「もう当分仕事はしたくない。できることなら半年くらい働きたくない」

 本当に疲れきったんだ。

 絶対退けない死闘だったもん。休暇取ってもいいよね。

 なーんにも気にしないで、絵とハープシコードと読書。趣味三昧。

 もちろんクレアだってなんにも言わない。

 ヴァルターシュタイン家の当主としての大きな責任は果たしたから。

 それに、分割払だけど一生分というにはありあまる報酬も出るんだし。

 引退したって問題ないくらい。

 なんだけど……。

 3週間くらいしたらギルドマスターから手紙が来て。

〝前回のティアマトのつがいが出た。殺ってこい〟って。

 雄が先に巣作りに来てて、後発で雌がきたっぽい。

 そんな話、聞いてない。

 マスターは足手まといになるだろうからパーティいらん、君らだけでさっさと行け、と。

 中を読んで、ロランは「えーっ!!」て声を上げたけど。

 経験者のところにまず話が来るのは当然だよね……。

「ちょっと待って……僕はまだ16才の未成年なのに」

 そうだよね、成年までまだ1年以上残ってる。

「未成年にこんな依頼して、警察に知られたら……」

「警察ももう今さら動かないと思うよ」

 ロラン、額に手を置いて天を仰いだ。

「——きっと働き過ぎで身長が伸びないんだ」

 ……おや?

「討伐にばかりエネルギーが回ってるんだ」

 ビックリ。

「ああ天主様、ティアマトを2頭も討伐する僕に身長をお恵みください」

 ……なんか、緊張感ない。

「あと30……いえ、20でいいです、どうかお聞き届けください」

 ずいぶん切実。

 身長低いの気にしてたんだ……知らなかった。

 言わないけど150センチ弱だもんね。

 そんなこと言って嘆きながら、部屋で魔術師の服に着替えて。

 腰にカタナを差して、左腕にアームガード着けながら。

 装備が調って、優雅な休暇を満喫してたロラン少年から、戦闘魔術師ロラン・ヴァルターシュタインに切り替わった。

「行くよ君たち。愛しのティアマトが僕らを待ってる」

 今回こそは被害を最小限に抑えなくちゃ。

『任せろ! 今度も軽くヒネってやるぜ!』

 ケイは意気揚々とロランの前を歩いて行く。

「ケントだけでも呼べないかな、僕ひとりじゃバッグに入れられない」

「ギルドに寄ってみよう。いるかも」

 いつもどおりクレアが笑顔で見送ってくれる。

 僕はロランの左腕に乗って。

 今日も最強の魔術師のバディとして魔物と戦いに行く。

 ものすごく充実してる。きっと元の世界では得られなかった。

 フレイヤ様、この素晴らしい世界に僕を招いてくださって、本当にありがとうございます。

 心から祈りと感謝を捧げます。

 そして何があっても前だけを向いて生きていきます。

 終わりのない、この世界で。


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