表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/42

Act.28 きっとまた会えますように


 それからずいぶん経った。

 練習は毎日続くけど、結界は張れない。

 その日はロランが校門から出てくるなり、僕を抱き締めた。

「ルイ、やっとしっぽを捕まえたぞ、結界の!」

 思わず話しそうになったけど、呑み込んだ。

「君のおかげだ。今日はおやつをたくさんご馳走するよ!」

 家に駆けて帰って、ロランと僕はおやつ。

「授業中にいろいろ考えてたんだ。それで試したら、5秒までなら白くなれた」

「5秒もあるの!?」

「まあ……まだ問題は山積なんだけど」

「すごいよ、進歩だよ、5秒も無でいられるなんて」

 おやつを舐めるのも忘れてしまう。

「その5秒の間に結界を張ればいいんだね」

「……そうはいかない。どうすればいいかがわからないから」

「うーん……」

「5秒単独では無になれるけど、結界のやり方を探ろうとすると無じゃなくなる」

「でもすごいよ! 5秒も無になれたんだから」

「心を穏やかにして、目を閉じて集中するんだ」

「——まさか、それを授業中にやってたの?」

「うん、ついうっかり。よけいな宿題が増えちゃった」

 ああ……こういうところがあるんだよね、ロラン。

 集中しすぎる。

 祝福かもなんて言わなくてよかった。

 そんなこと言ったら夜も寝ないで勉強しちゃうよ。

 その後もロランは手探りで断崖を登り続けた。

 ほんの少しずつ。進んでるのかどうかもわからないほど。

 でも着実に。

 校門の前までロランを送って、訓練所で動いて、学校に迎えに行って……夏は学校の人や学生が水をくれたり、日傘を差しかけてくれた。

 冬は足下に板を置いてくれたり、手作りの暖かいコートを着けてくれたり。

 板も暖かい。魔法がかかってる。

 猫は寒いのが苦手だから、本当にありがたいな。

 必ずおやつをくれる人もいて。

 季節が流れて、ロランは飛び級なく、15才で卒業かなって話になった。

 魔法結界に打ち込みすぎて、飛び級できるほどの成績が取れない。

 それでも普通は18才で卒業なんだから、すごすぎる。

 これはもう訓練じゃなくて研究だって、みんなが言ってる。

 手がかりがないんだもん、自分で全部調べて考えて試すしかない。

『魔術大学に行けそうだな』

 呆れた口調で、だらけて伏せたララが言った。

『上の学校があるの?』

『あるけど、学者になったって無駄じゃん』

『そう?』

『博士号なんか持ってても、それで魔物が降参するわけじゃねえ』

『確かに』

 何か、ロランって学者っぽいところ、あるから。

 クレアに似たのかな、ちょっと線が細い。

 でもたぶん現場に出るよね。

 頭の中に魔術学者っていう選択肢があるようにはみえない。

『ララの方はどうなの、バディ。ランク上がった?』

『親父に首根っこつかまれて、やっと魔物殴りに行ったよ、めっちゃレベル低い奴』

『戦果出た?!』

『2匹殴ったが、想定外の小妖精に遭遇して全速力で逃げてきたってよ』

『あー……討伐証明……』

『それ以前に数足りねえ。3匹獲らなきゃならなかったんだ』

 ララ、しおれてる。

『大丈夫、やってるうちに慣れるから』

『もう討伐なんて嫌だって半泣きだぜ。父ちゃん激おこ』

 戦闘に向かない人が戦闘に出たら死んじゃうな……。

 どうして卒業できたんだろう、戦闘科。

 よほどの努力家だったんだろうね。もったいない。

 その資質を活かしてあげればいいのに。

『めっちゃくちゃいい奴だったから契約したが……人格と能力は別なんだろうな』

『…………』

『あ、悪り。旦那は両方持ってた』

『そんなにいい人なら、必ず誰かのために強くなるよ』

『そうあっていただきたいね』

 そんな話をしてたら。ひどくしおれたカッカが近づいて来た。

『なんだおい、朝から死にそうじゃねえか』

『イーヴル・アイ……』

『あの一つ目玉の魔物? どうしたの?』

 真夜中、草むらの上に浮いて虫や小動物を食べるやつ。

『キャリーさんが……昨夜……』

 その先は必要なかった。

『バ、バディはキャリーさんが勝手に……勝手についてきて、魔物に突っ込んだと言っているんです』

 え–……そんなことする子じゃないよ。

『僕はウソだと思うんですっ!』

『——お前の主張はそれとして、キャリーが死んだ、今はそれだけが事実さ』

 朝からみんな、ひどく沈み込んでしまった。

 イーヴル・アイ。

 夜行性だから夜目が利く同じ夜行性の魔獣を連れていきたい。

 相性がいいのはキースみたいな夜行性猛禽。

 確かにキャリーは夜目が利くけど、相性は?

 彼女にはレザークローがあったから、相手が浮いてても攻撃できたかも。

 でもレベルは大丈夫だったのかな?

 僕がレッドバックに行った時は、特殊な条件があったから許可が出たけど。

 どのみち事実は明らかになるけど……。

 僕だってキャリーが勝手なことしたなんて絶対思わない。

 彼女はちゃんとした魔獣だったんだ。

 理由はレベルが合わなかった、相性が悪かった、どちらかだ。

 もうすぐ訓練課程が終わるところだったのに。

 レザークロー、強くなってきてたのに……!

 校門の脇でロランを待ってた。

 そしたらいつも通るおじさんが前にしゃがんで、頭をなでてくれた。

「なんだ坊主、元気がねえな。ハム食うか? ハム」

 食べやすくちぎったハムが小皿に載って出てきたから、頑張って食べた。

 優しい気持ちは大事にしなくちゃ。

「なんだいルイ、おやつをもらっていたのかい?」

 ロラン、学校終わり。

 そして、おじさんにご挨拶。

「ありがとうございます、いつも当家の魔獣を気にかけてくださって」

「ルイは可愛いからね、面倒みたくなるでしょ」

「本当にありがとうございます。この子を褒めていただいて嬉しいです」

 そう言うと、ロランはおじさんにお辞儀して、僕を抱き上げた。

 そして頬ずりするように顔を近くに寄せて、友達たちから離れて歩き出した。

 そしてとても小さな声で言った。

「何かあったでしょ、気配が重い」

「……訓練所の友達が死んだんだ……イーヴル・アイを討伐に行って」

「訓練所通いでイーヴル・アイ?」

「うん……とってもステキなアビシニアン」

「訓練課程は終わってる子?」

「ううん……もうすぐ修了だったけど」

「修了前? ダメだよそれは」

「ダメなの?」

 僕は訓練受ける前にデビューしちゃってたから、細かいルールがわからない。

「魔獣を討伐に出す時は必ずブリーダーギルドとショップ組合に申請が必要」

 そういえばマリスがいつも申請に行ってた。

 いろいろ書いてある紙にサインしてた。

 私とお前の名前を書くんだって。

「訓練中でイーヴル・アイなんて当然却下される」

 却下?

「訓練課程が終わってない子は、同行申請を出しても通らないことが多い。修了すればGランクになるけど、修了前ならランク外。万一連れて行けてもFランクまで。イーヴルアイはEランクだ」

 バディがルールを破ってた……?

「無申請で連れて行ったなら組合は強制退会、保護法違反で警察沙汰」

「じゃあ、彼女のバディは違反だってわかってて連れて行ったの?」

「討伐がうまくいけばばれないって思ったのかもね」

「そんなの、無責任だよ……」

「修了間近だって甘えもあったのかな。ちょっと現場を経験させようとか」

 もうすぐだったんだから、あと少し待ってくれたらよかったのに。

「これでまたショップの購入審査が厳しくなるかもね」

「キャリーが可哀想だよ……バディなのに、どうして……」

「キャリーっていうんだね。ベッドに入る前に一緒に祈りを捧げよう」

 可哀想だ、あんなに綺麗でしなやかな猫だったのに。

 夜目が利くからってだけで、資格がなかったのに。

 レザークローがまだ弱かったのかな。

 僕がもっとちゃんと教えてあげればよかったのかな。

 ロランがベッドでうずくまる僕の頭をなでた。

「いろいろ思うだろうけど、世の中にはどうしようもないことがあるよ」

「……うん」

「僕らにできるのは、彼女の魂がフレイヤ様の御許に届くよう祈ることだけ」

 ロランが言った通りだから、僕は懸命に祈った。

 キャリーの魂が生まれ変わってこの世界に戻って来ますように。

 そしてきっとまた会えますように。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ