2478.ルードリヒ王国の新宰相
ソフィ達が城の前に着くと、城を守る兵士達はソフィ達に気づいて声を掛けてきた。
どうやらソフィ達が姿を見せれば城に案内するように命令されていたのだろう。兵士達は直ぐにソフィ達を城の中に通してくれたのだった。
すでにソフィが城の前に姿を見せた時に兵士の一人が城の中に入っていくのが見えた為、すでにエイルたちには知らせが行っている事だろう。
流石に兵士達はソフィに声を掛けて来る程失礼な真似はしてこないが、先程からちらちらと何度か視線を向けてきていた。
それは物珍しさから視線を向けているというよりは、緊張しているといった様子の視線の部類であった。
だが、その緊張の視線というのもソフィに対してというよりは、粗相や失敗をしてしまわないかという緊張の類にソフィには見えた。
そしてこの視線の種類をソフィはよく知っていた。何故ならかつてのアレルバレルの世界では、彼が日常的に見る機会が多かった、まさに恐怖に支配された者が見せる視線だったからである。
(……この兵士達の怯えようは少し気になるな。我が先代ラルグ魔国王であったから案内に緊張しているという事であれば少しは理解は出来るが、そんな目で全く我を見てはおらぬようだ)
案内をしてくれている兵士達に意識を向け始めると、先程まで気にもしなかったところが、徐々にソフィの目に入ってくる。
首元に流れる汗、そして僅かだが歩を進める足に震えが走っている。
ここでもしソフィが少しでも声を掛けるような真似をすれば、少し大きめの驚いた声を上げて、頭の中を真っ白にさせて立ち止まるのは間違いないだろう。
ソフィはちらりと同行するヒノエや六阿狐に視線を送るが、彼女達もすでに異変を感じていたのだろう。直ぐにソフィの視線に対して頷きを見せるのだった。
(ふむ、ヒノエ殿や六阿狐達も察していたようだ。何をそんなに怯えているのだろうか……? 直接訊ければ話は早いが、ここで尋ねぬ方が良いと予感めいたものもある。エイルに会うまでは余計な詮索は控えた方が良いだろうな)
「君たち案内ご苦労様、ここからの案内は私が引き継ぎますよ」
ソフィ達が城の中を案内されていると、エイルの居る玉座に向かう道中の廊下で背が高い細身の男性が声を掛けてきた。どうやらその様子からここまでソフィ達が来るのを待っていたようであった。
その背の高さに反してあまりに痩せ細っている男の姿は、全く顔は似ていないというのに、どこかブラストを見ているような感覚をソフィには感じられたのだった。
ここまで案内してくれた兵士達は、慌てて目の前の男性に頭を下げると、そのまま一度もこちらを振り返ることなく元来た道を引き返していった。
「……何だ? 全く失礼な連中だな」
自分の城の人間には頭を下げて、ソフィに対しては一礼すら行わずに逃げるようにこの場を去って行った兵士達にヒノエは悪態をつくのだった。
「これは申し訳ありません。ここは彼らに代わって私が謝罪を行わせて頂きます」
そう言って細身の男は深々と頭を下げる。
「前回ここを訪れた時には、お主の姿はなかったように思うが……?」
ソフィは背恰好もブラストによく似ているその男にそう告げると、ゆっくりと男は下げていた頭を上げて口を開くのだった。
「お初にお目かかります、ソフィ様。私はこの国の宰相を務めさせて頂く事になった『レルピル・マーケルドア』でございます。これまで何度かヴェルマー大陸の方にも顔を出させて頂いておりましたが、中々ソフィ様にお会い出来る機会がなかったもので、ご挨拶が遅れてしまい誠に申し訳ありませんでした」
そう言って物腰柔らかく、ソフィに頭を下げる『レルピル・マーケルドア』であった。
「それはすまぬな、最近まで少し国を離れて遠出を行っていたところだったのでな。それにしてもお主がこの国の宰相なのか……。そのわりにお主はえらく若く見えるが……」
レルピルと名乗った背の高い細身の男は、まだどうみても二十代前半にしか見えず、下手をすれば十代と言われても信じられる程であり、一国の宰相の立場に居るとはとても思えなかった。まだ宰相の息子と紹介された方がしっくりきて納得が出来るぐらいである。
これがまだ『魔族』だというのであれば、ソフィも納得できるところなのだが、ソフィから見てもこのレルピルは生粋の『人間』だと感じられるのだった。
「ふふっ、褒めて頂けているのだと取らせて頂きます。さて、それではソフィ様、そろそろ国王がお待ちですので……」
「うむ、それでは案内を頼む」
ソフィがそう告げると恭しくソフィに礼を行った後、ゆっくりとソフィ達をエイルの居る玉座に案内してくれる宰相のレルピルだった。
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