2394.大魔王レキの怒りの神聖魔法
エグゼの案内でレキの側近達の死体が安置されている部屋に案内される『呪法師』達。
その安置所にはかつてレキ達の時代に活動を行っていた十数体の魔族達、それに加えてシェイディ達の世代や、イングラム達の世代の『魔神級』の魔族達の遺体も保管されていた。
この横たわる魔族達の姿を初めてみた『呪法師』達だが、流石に死体を目の当たりにして恐れを抱くような者達はこの中には居なかったようで、怯える様子を見せる者は誰も居らず、代わりに興味深そうに死体を眺めているものが大半であった。
レキはその中に全く死体に興味を持たずに、死体を一瞥した後はそっぽを向いている一体の魔族の『呪法師』に興味を抱き始めるのだった。
(アイツは玉座の間で俺が少しだけ力を解放した時も、全く驚く素振りも見せずに今と同様に興味なさそうな目を浮かべていやがったな)
その呪法師は初老に差し掛かろうかという年齢の男で、この集められた呪法師の中ではそれなりに齢が上の方の魔族であった。
玉座の間でレキが少しだけ力を解放した時、この集められた呪法師たちの反応は様々なものであった。
直ぐにレキの強さの変貌振りに気づいて視線を逸らした者、更には変化に気づいた上で視線を合わせ続けていた者、全く気付かずに莫大な報酬に目を輝かせ続けた者。そして今レキが注目している男は、今のように興味なさそうにしていたのだった。
多く居る呪法師達の中、早速レキに目を付けられた呪法師は、レキに視線を向けられても話し掛けられる期待をしている様子もなく、また自分から声をかけるような真似もしない。
レキはそんな呪法師の様子に声を掛けたくなったが、ぐっと堪えてまずは説明が先だとばかりに『エグゼ』に再び視線を向け直すのだった。
視線を向けられた『エグゼ』は軽くレキに頷いた後、説明の為に呪法師たちに口を開いた。
「お前達の『能力』に期待している事だが、我が主であるこのレキ様の身体を蝕んでいる『梗桎梏病』という面倒な病の消去が最優先に挙げられる。しかしそちらは簡単に行えないという事は、お前達の前に集められた『呪法師』達の経験から嫌という程に理解している。だからまず、この安置所に保管されている死体達をどのような形でも構わぬから、蘇らせられる者を求める。願わくば『魂』そのものを戻せる事が一番望ましいが、それに及ばずとも制約が有る上で一時的に魂を現世に呼び戻せるだけであっても、相応の報酬を支払うと約束しよう」
エグゼの説明を受けた呪法師たちは、玉座の間での喜びようとは裏腹に渋い表情を見せ始める。どうやら提示された条件のどれもが有り得ないものばかりで、解決に現実的ではないと判断した様子であった。
「どんな形であれ『魂』を呼び戻せるなら何でも良いと言ったな? それは本当に一時的でもいいのか?」
この場に居る者達の大半が諦めた様子の中、一体の若い『呪法師』が口を開いてそう告げるのだった。
その呪法師の言葉にエグゼ達だけではなく、先程の初老の呪法師を見ていたレキも発言した方の呪法師に視線を向けた。
「俺なら僅かな時間だけだが、魂がなくなった死体の意識を呼び戻す事が出来る。あくまで生き返らせるという目的には沿わないが、生前にそいつが言い残したかった事や、伝えたかった事を聞く事も出来るし、逆に故人の生前に伝えておきたかった事などを改めて話す事が可能だ。勿論強力な『呪法』故に、その制約の条件で一人につき一回だけとなる……。どうだ?」
「面白い能力だな。お前の名は?」
「俺は『エリューレ』だ」
「エリューレか。よし、やってみろ」
エリューレという男は、レキの言葉を受けて直ぐに安置されている一体の魔族の前まで歩を進めると、ゆっくりと手を翳して『能力』を発動させ始めるのだった。
これまでの『呪法師』達が使っていた『呪法』とは異なり、エリューレの使う『呪法』は詠唱などが一切行われずに、目を閉じたまま何やら身振り手振りを行うような、何やら儀式めいた動きをし始めた。
やがて最後に何かを一言だけ呟くと、エリューレの目が見開かれる。
次の瞬間、横たわっていたレキの側近だった仲間の男の目が、ゆっくりと開き始めるのだった。
「「おお……!」」
この場に集められた他の呪法師たちが、死人が目を覚ました事によって一様に驚きの声を上げ始めた。
レキやエグゼ、それにシェイディ達も目を覚ました仲間達の元に向かう。
「『イオム』、しっかりと俺を認識出来るか?」
「……」
レキに『イオム』と呼ばれたかつての側近は、虚ろな目を浮かべたまま無言だった。
そしてそれを見て術を施した『エリューレ』が、直ぐに何やらまた儀式的な動きを行うと、その『イオム』が虚ろなままではあるが、視線をしっかりとレキの方に向けた後に、その場に跪いて見せるのだった。
「「おお!!」」
再び呪法師たちが凄いとばかりに驚きの声を上げたが、仲間が蘇って一番嬉しい筈のレキやエグゼは、少しも嬉しそうな表情を見せずに、無言を貫いて何かを思案していた。
「どうだ? そのイオムという者の意識を見事に戻して見せたぞ? 約束の報酬はしっかりと支払ってもらうぞ!」
言われた通りの仕事は果たしたとばかりに、エリューレは口角を上げながらそう告げた。
「……待て、まだ確認は終わっていない。これだけではまだ、コイツの意識がしっかりと戻ったとは言えない」
「は、はぁ? 死人が目を覚まして、自分の意志で動き出したんだぞ!? これが意識を戻していないなら、何だって言うんだよ!」
エリューレの言い分は間違っていないとばかりに、他の呪法師たちもエリューレに同意するような声を上げるのだった。
「もう一度言うが、俺はお前にこいつの意識を戻せるかと訊いたんだ。こんな風に『お前』が操って強引に死体を動かすのは、意識を戻したとは言えねぇよ」
そのレキの確信めいた言葉に、エリューレは驚いた後に苦虫を噛み潰したかのような表情を浮かべた。
「お、俺がそいつを操っているだと? ば、馬鹿な事を言うなよ、そいつはしっかりと意識を取り戻していた! だからあんたに忠義を尽くすような真似をしたんだろうが!」
「イオム、お前は自分の意志で動けているか? 意識はしっかりとしてやがるのか?」
レキが再びイオムに尋ねるのを見て、エリューレはまた儀式的な動きを行おうとし始めたが、その瞬間にレキの横に並び立っていたエグゼの目が『金色』に輝き始める。
どうやらエリューレの動きを封じるのが、エグゼが魔瞳を使った理由のようである。
代替身体とはいっても、今でも少なくとも『魔神級』の最上位はある大魔王エグゼの『金色の目』に抗う耐魔力はなかったようで、エリューレは一切動く事が出来なくなった。
すると先程は反応を見せた死体のイオムは、再び虚ろな目を浮かべたままで、何も反応を示さなくなってしまった。
少しだけ反応を示すのを待ったレキだが、いつまで経っても反応を見せないイオムを見て、小さく溜息を吐いた後に視線をイオムからエグゼへと向ける。
エグゼはレキの視線にコクリと頷くと、放っていた魔瞳を解除する。すると、直ぐにエリューレは何事もなかったかのように動く事を可能とし始めるのだった。
「お前が動けなくなった瞬間、こいつは何も反応を示さなくなったぞ? これでは意識が戻ったとはとてもではないが言えないな。お前が死体のイオムを操っていたんだろう?」
「ち、違う! も、もう時間切れだったんだ。俺は最初に説明をしただろう! 俺の呪法は死者を蘇らせるような代物ではなく、大事な事を伝えきれなかった故人に、少しだけ意識を取り戻させて会話や言い残した事が出来る程度のものだと! その大事な時間をお前は俺を疑ってかかり、剰え無碍にしちまったんだよ! 残念だが、もう二度とそいつは目を覚まさねぇよ! 一人一回だけにしか俺の呪法は使えないからな! 大事な時間をお前自身が俺の能力を妨げて無駄にしちまったんだよ……、馬鹿な奴らめ!」
エリューレは先程の自分の動きこそが、意識を取り戻させる為に必要なものだったと言って、それを妨げるような真似をして、自分自身の手で大事な時間を無駄にしたんだと、レキ達に良い放つのだった。
「この俺様があれだけの時間を使って、しっかりと『魔』の技法のカラクリを観察していたというのに、お前がやっていた事を理解出来ないと思うか?」
「は、はぁ……?」
「お前の『呪法』の効果はさしずめ、対象の死体を操り、死体の持つ記憶の断片を強引に表面化させて、あたかも死体が意識を取り戻していると見せかけていただけだろ? 実際には死体を操り、沁みついていた死体達の身体の動きを操るくらいのものだ。後は死体に意識があるように喋らせるというのもまた今回とは異なる呪法だろうが、実際に意識を取り戻す類のものではなく、死体が喋っているように見せかけてお前が吹き込む言葉を無理やりに喋らせていただけだろう? まぁ、記憶の断片をある程度読み取る力があるのは認めてやるが、それに関しても俺が求めている『能力者』では決してないがな」
「クッ……!」
どうやらある程度レキの言い分は正しかった様子であり、悔しそうな声を出すエリューレだった。
「まぁ、面白いモンを見せてくれたお礼に殺さずにおいてやってもいい。今後は俺の為にせいぜい役に立つ努力をしろ」
「ふ、ふざけるなよ! 俺の能力を見せてやったんだ、約束した報酬を寄こせ!」
もうエリューレに興味を失くしたレキが彼から離れて歩き出していたが、その言葉にピタリと足を止めた。
「俺はお前を生かしてやると告げたぞ? それが今回の報酬の代わりだ。それ以上にお前に与える必要は何もねぇよ」
「ざ、けんじゃねぇぞっ!!」
呪法師エリューレが再び儀式めいた動きを行い始めた。どうやら『呪法』をレキに向けて放とうとしているのだろう。
「レキ様、私にお任せください」
エグゼは何一つ焦る様子もなく、エリューレの『呪法』の準備するところを見ながら静かにそう告げた。
――しかし。
「いや、お前は何もしなくても良い。アイツに苛ついているのは、お前だけじゃなく俺もだからな」
その言葉にエグゼは、分かりやすく動揺し始める。
どうやら自分の側近を軽い気持ちで操って好き勝手していたエリューレに、レキも怒りを覚えていたのだろう。
あくまでやらせたのは自分であり、それを考慮して何とか殺す事をせずに堪えていたレキは、そんな彼の気持ちを裏切るように攻撃を仕掛けてこようとし始めたエリューレに、もう我慢する必要はなくなったと判断したであろう。
――神聖魔法、『聖光波動撃』。
次の瞬間、空間が揺れ動くような衝撃をエリューレは味わい、その後直ぐに想像を絶する程の激痛が彼を襲うのだった。
「ぐぁぁああっっ!!」
この『神聖魔法』という『魔』の概念技法は、魔族に特効を齎す『大賢者』の魔法であり、レキの現在の身体の本来の持ち主である『ミラ』が使う事を可能としていた『エルシス』が編み出した『理』から生み出された魔法の一つであった。
単に殺傷能力が高いだけではなく、このエリューレのような魔族には、想像を絶する程の激痛が伴っている事だろう。
単純に死を迎えるよりも遥かに辛く苦しい、まさに地獄を味わわせる事を目的に大魔王レキは、エリューレに処刑をするつもりでこの『魔法』を選んで放ったようである。
長く叫び続けていたエリューレだが、その声もようやく止むのだった。
そしてその後、直ぐに紫色の光がエリューレの身体を包み込んだかと思えば、生前以上の『魔力』を宿したソレが、憎悪の塊になってレキに向かって襲い掛かってくる。
――死後に恨みを具現化して放つ、典型的な呪法師たちの『最終攻撃』である。
「クカカカッ! いい機会だ。お前達『呪法師』達に、本当の『呪法』というものを見せてやろう!」
自身に向かって放たれた『呪い』が迫ってくるのを見たレキは、少しも焦るどころかむしろいい機会だと告げた挙句に嬉しそうに自分もまた『呪法』を展開するのだった。
……
……
……
『ブックマークの登録』や『いいね』また、ページの一番下から『評価点』を付けていただけると作者のモチベーションが上がります。宜しければお願いします!




