第9話 新たなる可能性
ヒャッハー! (*∀*)お宝発見!!
大剣に名前つけてスライムがプルプル!
この女神嘘の味がする! ← 今ココ!
今のファルシナの眼は俺が以前、夏祭りの時にテキ屋のおっちゃんに当たりは入っているのか確認した時と同じ目をしている。
その時おっちゃんは「間違いなく1等からハズレまで満遍なく入っているよ」とこちらを見ずに話していたが、眼は盛大に泳ぎまくっていた。
当時言葉の真偽は分からなかったが、大人の事情というやつだと後で父さんに教えてもらった。
漫画で汗の味で嘘がわかるというのを知っているが、それがなくても今のファルシナの眼は俺でもわかる。
こいつ、なにか隠してやがる!
「さぁ言え! 俺の体はどこに隠している? 恐らく別の神工神に妨害されたというのも嘘だな。お前が手を回したかそれとも武御雷もグルなのかは分からないが何を企んでいる?」
百面相とでも言うべきだろうか。石像なのにここまで表情豊かになるのも面白いものだと、余裕があれば感じるだろう。
だが俺はファルシナの自白と今の表情で体が手に入る可能性が高まったのだと確信している。
ファルシナはブツブツと呟きながら視線をさまよわせている。この期に及んでしらばくれようとしているのか?
「…過去へ、創造主の御心のままに私に力を、あと少しこの世界を元の姿に命ある姿に…」
聞こえてくる断片的なワードじゃファルシナが何を言ってるのか理解できない。
「願ふ願ふ、願い奉らん。…」
不意に沈黙していた大剣が騒ぎ出す。
「マスター、あの口を封じろ! あれは願い唄。このフレーズは時渡りの詠唱だ!」
大剣の言葉に不意を突かれ、呆気に取られていると、女神がこちらを見据えて微笑みかける。
それは優しい笑みではなく、どこか虚ろで無機質で、何より背筋が凍るような笑だった。
女神の両手が不意に光り、次の瞬間その腕の中に忘れもしない俺自身の肉体が横たわっていた。
肉体が現れると同時、抱かれている俺の体と俺自身の胸から、紅い紐みたいな線が一本動脈のように蠢きながらつながった。
「やはりラインはまだ貴方に繋がれたままの状態のようね。武御雷に迫られて嫌々転生なんて引き受けたけど、タダで世界渡りは見れたし、時渡り用にとても良いバッテリーも手に入ったし言うことないわね。バレたのは計算外だったけど過去に戻れば貴方はこの時代まで生きられない。体は返してあげられないけど武御雷が改造した貴方の体は私が有効に活用させてもらいます」
そこにはもう最初に見たあの悲しそうな表情はなく、落ちた相手をただひたすらに蔑む悪女としか言い様のない女がいるだけだった。
この女は敵だ。
本能がそう告げる。過去何回俺を過去に送ったかなんて知らない。神工神とか創造主とかもう関係ない。
勝てるとか勝てないとかそういう問題ですらない。
今まで過去に行った俺には申し訳ないし、なんでこんな結末になったのかもわからない。最初からファルシナは俺という体が欲しかったのか、それとも純粋にこの世界をどうにかしたかったのか、それはもうわからないけど。
現状を打破するために一番必要なのはまず俺の体。
その後ファルシナの依頼だったはずだ。俺の体を取り戻す前提でここまで来たんじゃないのか?
だったら話は早い。
目的の体はそこにある。手を伸ばして手に入れろ。邪魔者はどかして障害は排除してただ目的を成し遂げろ。
「返してもらうぞ俺の体」
たった一言のシンプルな答えだ。そして俺は走り出す。女神は石像に体を移して体はでかいが動作は鈍いはず。そこを狙って俺の体を取り戻す。
どうやれば俺の体に戻れるのかなんてあとで考えればいい。
背中に抱えた草薙を両手で突き出すように持ち、全力で前へと突進する。
俺の体を抱えているファルシナは両手が使えない。足を使用して距離をとるか牽制を放ってくるはず。
「荒御魂の加護よあれ。まったくおとなしく見物してればいいものを!」
詠唱中でもこちらへの牽制を忘れずに行い、礼拝堂内の長椅子を蹴り飛ばしてくる。
距離を取りながらの攻撃なのにこちら当ててくるあたり相当に面倒で足癖の悪い女神のようだ。
避けきれない椅子は手に持った草薙で文字通り薙ぎ払う。
刀身半ばから折れているもののその切れ味は恐らくそこらの量産品を遥かに凌ぐのであろう。
下から掬い上げるように剣を走らせ二つに分かれた長椅子が自分を避けるように左右に分かれて消えていく。
剣道なんて習ったこともないし型すら知らない素人が振るってこれである。達人級の剣士が使ったら恐らく鉄をも斬るのではないだろうか?
過去の自分が作った作品だというのに中々にブッ飛んだ性能品だ。
「だけど、今はありがたい!」
足は止めない、視線は自分の体から逸らさない。
体は女神に抱かれて礼拝堂の一番奥にいる。そして自分の立ち位置はようやく半分を超えたところだ。
女神は笑いながら俺の体から伸びている赤いラインを指で弄る仕草をする。
「私は過去を変えていく。創造主が私を見てくださるように今度こそ、例え他の世界から人を連れてきても、力を与えても、貴方はこちらに振り向いてくれなかった」
愛おしむように隆一の生身を撫でる。しかし時折爪を立てるのか肌に血が滲む。それはすぐに治癒され健康体の体に戻る。
強力な自己回復力だ。だけどそれを草薙を振り続けて前進している隆一は知ることはできない。
すでに元の体とは言い難いほどに武御雷とファルシナによって弄られた体は、ファルシナの願い唄と呼んでいた言葉と共に発光を始める。
草薙のアシストと幽体の状態でも生身の肉体とラインが繋がったことによる身体機能の強制的な上限開放によって今やファルシナの放つ牽制は形になっていない。
遠距離から殺到する長椅子は眼前で二つに切られ、四方から追撃してくる燭台は最小限の体の動きで見切って回避する。
おおよそ人間のできる動きではない。それを隆一は草薙のアシスト有りとはいえ若干13歳の身空で体現する。
ファルシナの笑が濃くなる。
「寄り代は君、揺蕩うは常世、願わくば過去、飛べ、跳べ、翔べ! 神代の国の子が願う。遡ること千と五百、縁の歴史を遡り、幾星霜と遡れ、我は過去を願う者。時代の橋を駆ける者なり!」
草薙が「遅かった」と呟くのが聞こえた。
全ての妨害を乗り越えてファルシナの前へ立った時、ファルシナの背後には巨大な扉が鎮座し、すでに開き始めていた。
ファルシナの抱いていた俺の肉体は、光が薄くなるに従い少しずつ形が崩れていく。
「やっぱり今回も失敗か、因果律をねじ曲げようとすると必ずこの肉体が不可に耐え切れなくなる。これでまた千五百年間力を溜め込まなくちゃ」
ファルシナの言葉には悲壮感などない。ただ結果を見て言葉だけの無念さを表現するだけ。
隆一は光の中崩れていく自分の体を見る。そしてそこから伸びている赤いラインは未だ繋がっていて、力強く波打っている事を感じている。
ならばやることは一つだ。
隆一が、この状態でもなお戦意を失っていないことにファルシナは目を見張るが、それをおクビにも出さずに隆一の肉体を自身の盾にするように強く抱きしめる。
「残念だけどこの体はもうもたないわ。だけど返すわけにもいかないの。大事な大事な過去への渡船たる寄り代だもの」
ファルシナは肉体を離さないように力強く抱きしめる。
隆一はそれを見て覚悟を決め、草薙を突き出し全力で前へと突っ込む。その姿は完全に自分の体を傷つける動きだが、もはや隆一に躊躇いはない。
「誰かに利用されて終わる体なら、最後に俺の役に立って消えてくれ」
以前に過去の俺の歴史を聞いたとき思った言葉
『肉体を諦めてこの世界でよろしくやればいい』
その通りだ。紆余曲折、自業自得に誤解云々色々と内情が入り混じっている歴史だが、それに俺が振り回される筋合いはないのだ。
そっちがその気なら『俺は自由にやる』までだ。
ファルシナは躊躇いなく大剣を突き刺してきた隆一の姿を見て驚き、そして少しホッとしていた。
こちらの都合に巻き込んで、人生を操作して、身体を弄って弄んで、そして今回、ようやく別の歴史に向かいそうなのだ。
なんとしてでも過去へと向かってもらわなければならない。
例え私自身が悪役になったとしても
目の前の隆一の肉体は、世界渡りの後武御雷が探し当てた一部に過ぎない。それをファルシナ本人の力を上乗せして強制的に力を持たせた。しかし本人の身体を一部とはいえ使用しているため、やはり力のラインは通じてしまうようだ。もっとも、最初から最後は隆一に己の力の全てを渡す予定だったのだが。
本来何度となく時渡りや世界渡りを行える体が、一回の時渡りにすら耐えられないのはおかしい。
テンパっているであろう隆一だが、もしも彼の持っている大剣に指摘されたら予定が狂ってしまうかもしれない。
だから適当な理由を述べて出力過多による肉体の自壊を演出する必要があった。
全ては隆一を吹っ切れさせるため。
肉体の一部が見つかったのは運が良かった。
本来の歴史では、武御雷がその連絡をよこすのは私たちが過去へ旅立つ瀬戸際だからだ。
故に言い出せず、私は後ろめたい気持ちで幾度となく彼を欺き別の可能性を模索しながら歴史を改変しようとしてきたのだ。
でも今回はもういいだろう。
すべてを教えて私はこの世界軸からいなくなろう。
創造主のご命令であるこの世界の調整はもうできないけど。
隆一の生身の肉体に大剣が突き刺さり、その肉体の光が幽体の隆一に流れ込んでくる。それを維持したまま更に剣を押し進め石像のファルシナを貫通させる。
女神が受肉している石像だとしても、ダメージなどあるのだろうか?と最初こそ隆一は疑問に思ったが、次の瞬間隆一の肉体とは別に赤い光が幽体の隆一に流れ込んでくる。
恐らくファルシナの力ではなかろうか?
スライムが置いてかれるとばかりに震えながら来るのを尻目に、勢いのまま隆一の肉体はファルシナ達の欠片と残光と共に扉の向こう側へと消えていった。
後に残ったのは散乱する長椅子の残骸とボロボロになった女神像、そして気がつかぬうちに落としたのであろう過去の隆一が持っていたペンライトが落ちていた。
新年明けましておめでとうございます!
年越しそばの食い過ぎで気持ち悪くて消化待ちをしつつの執筆でした。
今年の抱負としましては『痩せる』であります!
インドア趣味だと指先しか動かさないからカロリー消費量がですね(((゜Д゜;)))
まぁ今年もよろしくお願いします!