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第19話 初仕事と名言と羞恥心

宿屋に到着!


今日から冒険者としての初仕事だ! ←今ここ!

 新しい朝が来たとは某ラジオで流れているフレーズだったな。ちょっと前までは夏休みには毎朝近所の公園でスタンプカード持って通っていたよ。


 この世界の朝はどうやら鐘の音で活動を開始するらしい。


 武御雷のスマホの時間が朝五時を経過したあたりで鐘の音が鳴り響き、街中が一斉に動き出したのだ。


 夜中にバイブ機能で起こされて若干寝不足感がある身の上としては鐘の音が聞こえてきたときはイラついたものだが、それがこの世界の標準だというなら慣れるしかないのだろう。


 飯なしで宿泊しているため、食堂で朝飯を食べることなどしない。


 ファルシナからは肉体を取り戻した時に違和感を感じないために食事や生身で行っていたことはなるべく続けるように言われているが、まずは衣食住の要素のうち住を確保したので、今日は衣と食を確保しに行く。


 正確には美味いもの食いたい、良い服着たい。


 この世界の衣服は縫製や生地の品質、また手間賃などから古着を着まわしていることが国に入る前に露店で調べたところわかっている。


所々補修がしてあったり当て布を施してデザインを変えるなどとごまかしていた。


 無論着古しているものが味が出て良いという人もいるだろうが、異世界の、しかも恐らく風呂という文化のない国の人間が長期間着まわしていた古着を好んで着たいとは思わないのだ。


 それに下着類も買い揃えたい、


 今まで洗濯はマッパの状態になって生活魔法で洗浄した衣類を同じく生活魔法で創り出した温風(風と火の生活魔法の複合技)で乾かしてきたが、いい加減着回せる衣類がないと辛い。


 食事類もこの世界の食べ物がまずいわけではないけどなるべくなら美味しいものを食べたいし、できることなら自炊して生活したい。


 この国に来るまでたおした動物や魔獣の肉を焼いて塩振って食べるか作り置きした干し肉で我慢してきたが、今日からは国の中を見て回って美味しい店を見つけて味を盗みつつ旅先でも美味しいものが食べられるように努力しよう。


 しばらくは金策に励むので、これらのことに時間を割けるようになるのは一人暮らし用の拠点を確保できてからだろう。


 故に当面この宿屋に宿泊し、一人暮らしの費用ができるまでひたすらクエスト受けて金を稼ぐ。


 この肉体ならそうそう危険なクエストでもヘマはしないだろうし、世の中を知るためにもまずは低クラスのクエストで世間を知ることが必要だと考える。


 服は今来ている一張羅しかないため、とりあえずギルドでクエストを受注、その報酬で新規に買い揃えるとしよう。


 武御雷からもらった宝石や金塊は出来るだけ使用しないようにして自分で稼いだ金で生活をする。


 まだ中学生だというのに世間の親がこの考えを聞いたら何と言うだろうか?


 きっと出来た子だくらいにしか思わんだろうな。


 宿屋の主人に挨拶をして店の外へ、向かう先はギルド本部だ。


 途中、昨日突っかかってきたチンピラ三人がいた路地を抜けたが、特に何事もなくわずかに焦げたらしい炭の跡が地面に付着していた。


 生まれて初めて人を殺したというのにあまりにも感慨がないのはこれもファルシナと武御雷が弄ったからなのだろうか?


 しばらく炭の跡を見つめていたが、よくよく考えれば初めての殺人は自分自身だということを思い出して軽く自嘲してしまう。


 そして一別もせずにギルド本部へと足を進めていく。


 炭の跡はいずれ雨が洗い流し、そして消えた三人を知る者もいずれは消える。


 それでいいじゃないか。


 

 ギルド本部にはまだ早朝だというのにある程度の数の人間の出入りが見て取れた。目の前にいる人全てが冒険者だとすると冒険者ギルドの規模がどれだけデカイかわかるというものだ。


 自分も昨日付でその一員になったのだと思い、気圧されることなくその人ごみの中へと足を踏み入れるのであった。


「おはようございます。あら? 昨日のリュート君ですね。今日から活動開始ですか?」

 

 中に入ってクエストボードと呼ばれる発注されているクエストの中から今の自分のランクでできるクエストをいくつか見繕っていると、背後から声をかけられた。


 振り返れば手に数枚の紙を(おそらくは新たに発注されたクエストであろう)抱えた狐耳の受付嬢であるコノカがこちらを少し見下ろす形で覗き込んでいる。


 身長的にも隆一自身が背が平均より低いのもあるが、現在大人数が押しかけているクエストボードから自分のランクのクエストをはがして持ち出したばかりで少し近場の柱に寄りかかって選別している体勢だったからだ。決して背が低いわけではない!


 視線を前に向けるとちょうど胸に視線が行ってしまうのは男のサガ等ではなく不可抗力なのだ。


 視線を目線に強引に合わせてクエストから意識をコノカに向けて挨拶をする。


「おはようございます。はい、今日から焦らずにゆっくりとでいいので活動していきたいと思います。その手に持っているのは新規クエストですか?」


 コノカの胸に視線が行っていた訳ではないという言い訳ができるようにその手に視線を移して質問をする。


「そうですね。急遽ですが討伐系の依頼が何件か、でもリュート君にはまだ少し早い内容ですね」


 まだ早いというのは年齢的にか、それともランク的にか。おそらくは後者であろうがコノカの口調からすると両方かもしれない。


「ちなみにどんな内容のクエストなんですか?」


 興味本位で話を振ると、コノカは手にしていたクエストをこちらへと見せてくれた。


 見せてくれたクエストは全部で五枚、内容はコノカが教えてくれたとおり全て討伐系のクエストで金額の低い順からレッサーバジリスクの討伐、フォレストドッグの群れの討伐、番のダークパンサーの討伐、オーク種15体討伐、ジェノグリズリー亜種の討伐となっている。


 なにげにバジリスクとか石化持ちではなかろうか?そうだとしたら犬よりも報酬が安いのがげせない。


 バジリスクって蛇ですよね?毒とか石化とか持ってるんじゃないですか?


 不思議に思って聞いてみると、今回のバジリスクは劣化レッサーと名の付くだけあって毒以外は全てにおいて軒並み退化しておりそこらの毒蛇と大差がないそうだ。


 しかし、毒についてはバジリスクの名に恥じない強いものを持っているために討伐系のクエストでもある程度ベテランが担当することが多いのだという。


 報酬こそ安いが、レッサーとはいえバジリスク。その牙の毒には使い道が多々あるため人気が高い討伐クエストらしい。


 フォレストドッグの群れは、文字通り群れをなして行動する犬が一定以上の規模の群れを形成したため間引きの意味を込めて発注されたそうだ。


 フォレストドッグ自体は大した相手ではないのだが、群れることにより集団戦術を覚えられると下手したら門前を守る兵士隊だけでは対処しきれない可能性があるために定期的に間引きをするのだという。


 基本は討伐されて放置された魔物や獣の死骸を食べる森の掃除屋的ポジションだということだ。


 ダークパンサーの番の討伐は、正確にはその番の幼生体の捕獲が主目的らしく、金持ちの道楽者が発注したようだ。


 オーク種の討伐について訊いてみるとオークというのはよく地球にいた頃の小説に登場するような豚顔の醜い姿よりもより猪に近い体躯の二足獣だという。魔獣という分類でもゴブリンと並んでメジャーなのは異世界共通事項らしく、繁殖力に優れ獰猛、性欲及び食欲旺盛であり小説のオークと違い知恵の回る個体がリーダーとなって群れを統率する。


 さらに鈍足と思いきや蓄えているのは意外にも脂肪ではなく筋肉という予想外の展開。


 要は猪顔の毛深い賢そうな頭のマッチョが同じようなマッチョの群れを連れて近隣を荒らしているというのだ。




うん。気持ち悪いね?




 無論、討伐の上位に入るだけあって筋肉や連携も並の魔獣や魔物、動物とは比べ物にならず、下手な私兵の軍団よりも強い場合があるとのこと。


 それだけ聞いてもオーク種のすごさがわかると言うものだが、それよりも上位のジェノグリズリー亜種はそれらを片手間に相手取れるほどに強敵だという。


「本来ならジェノグリズリーだけでもCランクの冒険者が3パーティーほどフル装備で討伐に向かうレベルなんです。しかしこの時期の、それに亜種ともなると本来なら王国の近衛騎士団の最精鋭と王宮魔術師の軍団が出動するレベルのクエストになります」


 ならばなぜそのクエストをクエストボードに貼るのだろうか?


「本来なら貴重な上級冒険者を危険に晒すのは遠慮したいのですが、冒険者側の要望でもあり、貴重な素材を手に入れるチャンスをもらえる。俺らの頑張り次第で魔獣の弱体化も図れる。騎士団の消耗も魔術師連中の消耗も抑えることができる、かもしれない。と言われまして、さすがに賛成派が多くいたこともあり、クエストを貼ることになった次第です」


 見れば受注にあたりギルドランクB以上、パーティのみ、死んでも文句言わない。などといった注意書きが書かれていた。


「ああ、これですか。以前クエストに書いてないからという理由で難癖をつけてきた冒険者がおりまして、それをなくすために大抵の討伐系のクエストには記載するように義務付けています」


 冒険者着ギルドも大変なんだな。


「ありがとうございます。まだ自分には分不相応なので身近にランク上げに励みます」


 コノカに感謝の言葉を述べて手に持ったクエストを受注処理するべくその場を後にする。


 隆一の後ろ姿を見ながらコノカは目を細めて手元のクエストに視線を落とす。


 確かにジェノグリズリー亜種の討伐あたりは彼にはまだ早いのかもしれないが、彼女自身昨日ギルドに運び込まれたジェノグリズリーやダークパンサーの毛皮を見てからリューイチという少年に目をつけていた。


 彼が手にしていたのは最初のランクにふさわしく薬草の採取や街中でできる配達系のクエストが主だった。


 少しばかり受注数が多い気がしたが、薬草類の採取クエストは常時張り出しのクエストなので納期期限というのは設けられていない。薬草の特性上出掛けがてら見かけたら採取する程度の小遣いクエストとして知られている。


 街の配達クエストはその時その時で内容が違うので流石に把握しきれていないが中には重量物運搬の内容も存在するので体力が必要になってくる。しかし街の地理を知ることもできるので、この国に来て冒険者になった者はむしろ率先してクエストを受注していく。街の人も新米冒険者には優しく、穴場の店やおすすめのスポットなど何気なく過ごしていたら見落としてしまう情報を提供してくれたりもする。


 彼もそれらを見越して受けているのだろうか?


 それとも単純にランク上げの要素の一つとして認識しているのだろうか?


 コノカは知らない。


 隆一の背負っていた折れた大剣が『知識ある武具インテリジェンス・ウエポン』だということを。


 大剣の知識にこの街の地理は既に存在してどこに何があるか網羅しているなど知る由もない。


 コノカはクエストボードに討伐クエストを張り出していく。


 新規クエストに群がる冒険者たちは、貼られた難易度の高いクエストに渋い顔をして他のクエストに目線を変えていく。


 当然だ。この難易度のクエストを受けられる冒険者など今現在王国内に4パーティーもいないはずだ。


 その4パーティーとて現在半分が別件のクエストで国を空けている。


 受注条件がパーティーなため、上位ランク者の冒険者も舌打ちしてクエストボードから離れていく。


 仕方がない。皆命は惜しいのだから。


 コノカはクエストボードを一瞥して身を翻す。


 再び受付嬢としての勤務に戻り日々の暮らしを始める。


 冒険者ギルドは今日も平常運転である。




 つつがなく受付で受注処理を行い、隆一は3つのクエストを受注した。


 初期のクエストということでまずは街の地理を知るための配達系クエスト。そして国の外へ出ての採取系クエストが二つだ。


 採取クエストは納品日時が決まっていない常時張り出しのクエストのようで、なるべく新鮮なうちに納品とだけ注意書きで記載されていた。


 よってまずは配達を行うためにギルド本部裏の宅配所と呼ばれる場所に足を運ぶ。


 ギルドはクエストの受注処理などの他にいろんな場所に荷物を送り届けるための宅配業務を行う部署もあるらしい。


ようはク○猫だな。ペリカ○便とかでもいいな。


 宅配所について従業員に初めてだと告げると街の地図を取り出してギルド本部から宅配場所までのルートを指でなぞって指し示してくれた。


 なるほど、このやり方なら物忘れしない限り大丈夫だな。最悪メモを残せばいいわけだし。


 なのでさっそく渡された荷物を持って宅配所を出て走り出す。


 今回の配達物はレストランへ果物の配達だ。木箱に積まれた果実を荷車に乗せてそれを押していく作業だ。


 最初は従業員も手伝うつもりだったのだろうが、割と楽そうに押していく隆一の姿を見てあっけにとられた顔をしていた。


 筋力なら魔力をまとわせれば強化できるし、なるべく早く終わらせてゆっくりと街を見学したい。


 なので果実が痛まないようにゆっくりと早く振動に気をつけて荷車を引いていく。


 周囲の人間は小さな子供が楽々と荷車を引いている光景を見て驚いているようだが、隆一は気にせずに周囲を見渡しながら荷車を引いていく。


 やがて目的地のレストランまで到着すると、そのまま裏口まで荷車を引いていき、扉をノックする。


「冒険者ギルドからきました。依頼の果実をお届けに来たのですが誰かいらっしゃいますか?」


 丁寧な口調で声をかけると中から「ちょっと待っててくれ」と声が聞こえてきた。


 少し慌ただしい音がするのは果実を置くスペースでも確保しているのだろうか?


 扉が開き、依頼人と思われる背の高い男の人が出てきた。


 まさにシェフとしか言い様がないほどエプロンがよく似合う風体をしている。コック帽に隠れて見えないがおそらくは髪は剃っているのだろう。


「今日の朝頼んで恐らく夕方くらいだと思っていたのに随分と早かったね。注文した量も多かったから複数人で来ると予想していたのだが、君一人かい?」


 シェフの言葉に頷くと、シェフは驚いた顔で額に手を当てた。


「それはすごい。よほど力持ちなんだね?それであと何往復くらいするのかな?」


 おそらく俺が木箱を一つずつ運んで渡すのだと思い込んでいるらしい。


「荷車で引いてきたので今回だけで完了のはずです。一応数の確認と異常がなければクエスト完了の証明印をお願いします」


 宅配所で貰った果実の数と木箱の数、そしてクエスト完了の証となる確認証をシェフに手渡す。


「あれだけの数を一人で……? いやすまない。余計な詮索は無しだな。いま数を確認するからしばらく待っていてくれ」


 そう告げるとクエストの書類一式を受け取って果実の搭載されている荷車に近寄り中身をあらため始める。


 数分ほど経過してからシェフは軽く頷いて確認証にサインする。


「確かに異常ないね。果実も新鮮だし数もあってる。これからもたまにお願いしたいくらいだよ。ありがとう、これは早く仕事を済ませてくれたお礼だよ。ひとつで悪いが食べてくれ」


 そう言って確認証と一緒に積まれていた果実をひとつ手に取りこちらに手渡してくれた。


「ありがとうございます。しばらくはランク上げのために冒険者ギルドに通うつもりなのでまた機会がありましたらお願いします」


 隆一の言葉に「今時珍しい丁寧な言葉遣いのいい子だな」とシェフは機嫌よく頷いてくれた。


「こちらこそこれからは指名依頼を出すことにするよ。僕の名前はシェルフ。レストラン『フューリエ』を営んでいる店長兼コック長さ」


 龍ケ崎隆一です。とこちらも答えて握手を交わす。


「他にも配達が残っているので戻ります。ではまた」


 そう告げて隆一は軽くなった荷車を引いて街中の雑踏へと消えていく。


 その後ろ姿を見ながらシェルフはすごい少年だなと改めて感じるのであった。


 続く配達はフューリエから少し離れた工業区画に店を構えている武具屋への鉄鉱石運搬業務だった。


 袋三つ分の加工用の鉄鉱石の原石を見せてもらい「おおー!」と驚いている隆一を見て、今度こそ手伝ってやろうと袋の片方を持ってやろうとしたところ


「よっこいしょ」


 ありえねぇ。と開いた口が塞がらない状態で目の前から三つあるうちの二つの袋が荷車に積まれていく。


「意外と重いですね。原石なら製鉄処理する場所も工業区画にあるんでしょうか?」


 隆一は従業員が手伝おうとしていた袋も軽々と荷車に詰め込みながら気軽そうな顔で質問をしてくる。


「あ、あぁそうだな。確かに火事場と製錬場は隣り合わせの建物だよ。君の背負っている折れた大剣も頼めば修理してくれるだろう」


 隆一の背負っている大剣は刀身が半ばから折れているせいで隆一の背丈からするとちょうどいいと思われるサイズに収まっている。


 あんなに大事にしているってことはきっと家族の形見とかなんだろうなぁ。


 現実逃避気味の従業員の暖かい視線に気づかず、袋が荷車から落ちないようにしっかりと縄で固定していく隆一。少しして満足がいったのかよしとつぶやいて先程の果実と同じで一人で荷車を押し始めた。


「大丈夫か一人で?」


 宅配所の従業員の言葉に何かを思い出したのかしばらく考え込み


「大丈夫だ。問題ない」


 なぜか声色を変えてそう返してきた。


 しばらく二人の間に得も言えぬ空気が流れたが、隆一は空咳を一つすると「いってきます」と小声でつぶやいて逃げるように荷車を引いていった。


「なんだったんだいったい?」




「(/ω\)ハズカシーィ」




久々更新なので少し文章が多めです。


ようやく休暇に入れたのもあるので時間がある時にでもチマチマとでも更新していきたいと思います。


頑張れ俺!夏の暑さには素麺だ!

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