最後の反逆
「ガアアアアアアッッッッ!!」
「がーっ、暴れるなー! 錦戸さんもっと締めろ! とりあえず佐藤さんの乳搾ってる時より強めに締めろー!!」
「シャアァッ!」
俺の声に反応して錦戸さんらしき蛇が巻きついてる虎の体を思いっきり締め上げる。すると先ほどまで大暴れしていた虎は口から大量の泡をふきながら倒れた。目を確認すると白目むいてるけど……死んではないな。
虎から離れた錦戸さん(仮)が心配そうにこちらを見つめる。俺はOKサインを出した後、さっき研究室みたいなところで手に入れた半獣化解除薬(仮名)を小分けにした物をそばに置いた。
蛇がストローに口をつけたのを見た俺は、開けっ放しになった虎の口に薬を流し込んだ。すると虎の体はみるみる小さくなり、可愛い少女へとその姿を変えた。
「……小学生まで捕らえられてたんだ、ここ」
声がした方を見ると、さっきまで蛇がいた場所に錦戸さんがしゃがんでいた。ぱっと見は普通の人間姿だが、手足に鱗のような模様がびっしりと残っていた。
「お2人とも、大丈夫でしたか?」
声をかけられて振り返ると犬の耳と尻尾を残した裸の女性が立っていた。……高校生男子には刺激が強すぎるよ。
「……大丈夫です」
見続けてたらなんか自分の中で壊れそうな気がしたので、俺は犬の女性から視線をそらした。
「悠貴さーん、ここにいる人は全員戻りましたー」
服部さんの声がした方を見ると、体の一部分に自分がされていた動物の欠片を残してはいるが、ほとんど人間の姿に戻った見覚えの無い人々がいた。みんな気絶して倒れてるまんまだけど。
ちなみに皆藤さんと佐藤さん、そしてキメラ改め池谷さんは立石さん救出のために外に出ている。
「さて、俺らはさっさとここから脱出しますか……。もうそろそろ倉木のやつが助けを呼んできてく……」
と、言いながら立ち上がった瞬間、顔の横を何かが通過した。壁に何かが当たった音がすると同時に、俺の右頬に痛みがはしった。
「……全く。安部さんの計画は完璧だと思っていたのに、残念だよ。まさか最後の最後で失敗におわるなんてね」
この部屋に繋がる唯一の扉から白衣の男が猟銃を持って現れた。銃口からは白煙がのぼっている。頬をこすると手に赤い物がついた。
「……やっぱり実弾だったか」
「個人的には人を獣に出来る薬のレシピがもらえて、お金も大量にもらえて、しかも世界制服までできちゃうかもしれなかったんだから、こっちには得だけだと思ったんだけど」
白衣の男は下衆な笑みを浮かべながら独り言をつぶやき、俺を見た。
「でも君のせいでむちゃくちゃになっちゃったよ、兎くん」
「なんで俺のせいなんだよ」
「君が僕の研究室に勝手に入って、失敗作の獣化薬を盗んだばかりか、馬の子を外に逃がしたせいで、この場所がバレちゃったんだよ」
失敗作……なるほど、だから半人半獣の姿に戻れたのか。それにこいつがそう言うってことは倉木はうまく警察とかに合流できたみたいだ。
「……僕にはまだ姿を隠すためのお札もあるし、逃走資金だって豊富にある。でもね、一つ問題があるんだよ」
白衣の男は猟銃を構えると俺に照準を合わせながら言った。
「君たちには僕の顔がバレてるんだよね。似顔絵捜査って物は全然意味が無いことが真理教の件で分かっているけど、万が一のこともあるから……」
死んでくれない? と白衣の男は気軽そうに言った。
「させません!」
即座に犬の女性が飛びかかる。
「邪魔だ! 犬のおまわりさん風情が!」
しかし白衣の男も即座に俺から犬の女性に目標を変え、弾を放った。
「いったいなぁ……」
犬の女性は男の手から猟銃を落とすことには成功したが、その代償で脚に銃弾を受けてしまっていた。犬の女性の顔が激痛にゆがんでいる。
「畜生に堕ちたんだから、畜生らしくあっさりと死んでくれよ」
白衣の男がイラついたようにつぶやきながら壁まで滑った猟銃を取りに行こうとする。しかしその時にはすでに錦戸さんが猟銃を手にしていた。
「さっきから困るなぁ。人の物を勝手に取らないでくれよ」
「うるさい。立派な正当防衛だよ」
「返せ!」
「断る!」
そういうと錦戸さんは服部さんに向かって猟銃を投げた。
「うわっ! なんで私に投げるんですか!? ……悠貴さん!」
服部さんはあわあわと猟銃をお手玉した後、こっちに投げてきた。
「甘い!」
しかし白衣の男がその猟銃をカットしてしまった。そしてそのまま構える。
「全く、手こずらせやがって……! まずは君からだ!」
白衣の男が大声をあげながら服部さんにむけて引き金を引いた。……しかし弾はいくら経っても撃ちだされない。白衣の男が訝しげに銃口を覗き見る。
「弾ならもう抜かせていただきました。……叔父さんに猟銃の使い方教えてもらってて良かった……」
服部さんがホッとしたように言いながら手の中で銃弾を転がして見せる。白衣の男がそれを見て忌々しげに舌打ちしながら猟銃を捨てた瞬間、部屋に飛び込んできた茶色い何かが白衣の男を突き飛ばした。
「い……」
「よくも今まで色々やってくれましたね! お返しです!」
茶色い何か……もとい池谷さんが勢いそのままに白衣の男に馬乗りになり、その顔面を殴りまくる。続けて部屋に入ってきたスーツ姿の男性が白衣の男の手首に手錠をかけた。
「銃刀法違反と監禁の現行犯で逮捕する!」
そう告げられた瞬間、白衣の男は力尽きたように気を失った。
「先輩! 大丈夫でしたか!?」
続いて制服姿の警官達と倉木が部屋にぞろぞろと入ってきた。
「ん、俺は大丈夫だけど、犬の人が」
と、視線をうつした頃には犬の女性は警官達によって持ち込まれた担架に乗せられていた。スーツ姿の男性が犬の女性に声をかけている。
「犬飼、足大丈夫か?」
「大丈夫です、単なるかすり……痛っ」
「強がり言ってんじゃねぇぞ。ほら、さっさと服着て搬送されろ」
「はーい……」
そうか、犬の女性は犬飼さん、って言うんだ。でも警官と知り合いってことは、彼女も警官なのかな。
「あ、そうです! 先輩も早く服着てください! 裸で外に出る気ですか?」
「……それ着るのか?」
倉木の手に握られていたのは俗にいうおもしろTシャツだった。ちなみに倉木の着ているやつには「まえで」と書いてある。
「仕方ないじゃないですか、これしか借りれなかったんですから……」
周りを見ると錦戸さんも服部さんも一応手にはとったけど反応に困っている。気絶組は……あ、もう着せられて担架で搬送されてる。
「ほ、ほら、早くしないと刑事さん達待たせちゃいますよ」
倉木が持っているTシャツに書かれている文字は「飛翔」。耳が羽みたいに見えるから、というむちゃくちゃな理由で1羽2羽と数えられているウサギの俺にピッタリ、というかなんというか、非常に反応に困る。けど、警察の皆さんを待たすわけにもいかないし、今の体を見ず知らずの人達に晒す勇気も無い。
俺が選べる道は一つしかそもそもなかった。
「……分かったよ。さっさとよこせ」




