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真相  作者: 紅煉
8/9

八話 解き放たれた苦しみ

渡辺

「先生!どこに行くんですか?」


「藤田先生の自宅です。双葉さんはあの子が家に帰ると言っていたと」


渡辺

「しかし相手は人を11人も殺しているんですよ!」


「そう、11人

しかし彼女の証言からは9人の殺害の真相だけで、若者二人の殺害については分からないままです!」


渡辺

「たしかに…

わかりました。行きましょう」


走る車の中、藤田先生の自宅へ向かう景色だけが心なしか止まっているように見えた

私は止まる景色の中で一葉と名付けられた子の事を考えていた


そしてついに扉の前まできた

この扉の向こうにあの子はいる

扉に手をかけあけた

薄暗い廊下を奥へと進んでいくとリビングに繋がっていた

ソファーが三つ並ぶ、その真ん中にあの子は座っていた


「君が一葉ちゃん?」


一葉

「ふーん…

私を知ってるんだ?貴方は誰?」


「ごめんごめん、私は倉田、精神科医です」


一葉

「ふーん、お医者さんなんだ。私のお父さんと同じだね、何処まで私の事知ってるの?」


「全て…知らないのは君の心の中だけかな」


一葉

「ふーん、それなら私がやった事全部知ってるんだ?」


「うん、人を11人も殺害してしまったんだね?」

一葉

「11人?そんなに人が居たかしら?

確か9人しか居なかったはずだけど…」


彼女はタートルネックのセーターを着ていたが、うなだれた時首が見えた

大きな縫合の跡がくっきりと残っていた


一葉

「私はあの日、お父さんに無理を言ってあの家に行ったの」


「出生の事は藤田先生から聞いていたんだよね?」

一葉

「うん、そう。

一葉は体が無いから本当の両親に会えないんだよって聞かされてたから…

だから嬉しかったんだー、やっと体が出来てこれで本当のお母さんとお父さんと一緒に暮らせるって…」


「それで?」


一葉

「家についた私の心は張り裂けそうなくらい高鳴っていた、でもそれはそう長くは続かなかったわ

私を見た両親の顔を見た時、私は望まれていないと悟ったの

でも一番驚いたのは両親の側には綺麗な化粧をした私が立っていた事だった」


「双葉ちゃんだね?」


一葉

「双葉っていうんだ?すぐいなくなっちゃったから…

それからは凄かった、お父さんとみんなが言い争ってた」


「そうだろうね、きっと私も言っていただろう」


一葉

「背徳の子、その言葉がお父さんを変えてしまった。

お父さんはみんなを…」


「それじゃあ、藤田先生が?」


謎が解けた

大人11人を十六歳の双葉ちゃん同様一葉ちゃんが殺したとは考えられない

そう真相を少しだけ知った今、自分が育てた子を背徳の子と侮辱された藤田先生が激高し人を殺害した

そう考えるのが自然だった

一葉

「私の胸の中で泣くお父さんを、とても可哀想に思った、でもその思いとは裏腹に私は…」


「お父さんを殺してしまったんだね?」


一葉

「ねぇ?先生、教えて

私は生まれてきてはいけなかったの?

私は何か悪い事をした?

何故両親は私を愛してくれないの?

体が一つだった、それだけの理由なのに私は愛されないの?」


「双葉ちゃんも殺害しようと思った?」


一葉

「うん、でも出来なかった。

あの子を見た時私は思ってしまったの

あの子は私

私もあの子も同じなんだもん、偶然選ばれ親に溺愛され、その愛すべき両親を私は

あの子の人生を狂わせてしまったのだから」


「確かに、君達は体が一つだった事で運命が少し変わってしまった。

でも知ってる?君も彼女も同じ願いを持って生きてきた、それは外に出たいだよ。

双葉ちゃんも偶然選ばれた為に外に出してもらえなかった、それは顔が男だったからだ」


一葉

「うそ…私は、私は…」


「本当。君にとっては彼女は愛されて育ったように見えただろうけど

彼女にとっては自分が籠の中に入れられた鳥のように感じていた

そして君に感謝していたよ、自分を解き放ってくれたと」


一葉は溢れる涙を抑える事が出来なかった


「君は背徳の子ではない」


一葉

「違う!私は背徳の子!

私のせいで一人の女の子が死んだ

多くの大人の運命を狂わせてしまったもん」


「君が清水美希という名前を忘れなければいい、君の体となった彼女の名前を

いくら自分を責めても清水美希は帰ってこない、ましてや死ぬ事は清水美希という子を二度殺したのと同じだ!忘れなければいい」


一葉は私の胸の中で泣きました

ただただ耐えていたものを解き放つように

しばらくして落ち着いた彼女を私と渡辺刑事は警察署へと連れていく事にした


一人の医師の実験によって創造された子は、素直な子どもに育っていたようだった

ただ耐え続け、自分を責め続けていたのだろう


そして、一人の医師の手術によって生まれた子も耐え続けていたのだろう


運命とは不思議なもので、また双子というのも不思議なものだ


体が一つだった事が二人を離れ離れにした、しかし背負う運命も同じだったのだから

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