↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
没落令嬢ミレイユの想定外な逆転婚 〜過保護すぎる侯爵様と始める戦略的な溺愛生活〜  作者: ミズメ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
19/19

18 結界石

(お父様も、付与術に理解がある方だって言っていた)


 ただ、言葉までは交わしたことがなかった。認識されていたことに驚き、ミレイユは慌てて居住まいを正す。


「ミレイユ・リーヴェルです。研究所でお見かけしておりましたが、ご挨拶もできず、失礼しました」


「ああ、堅苦しくしなくていいよ。君のことはテオールからよく話を聞いていたんだ」


「お父様からですか……?」


「うん。とっても優秀な娘だって褒めていたよ。僕のことはエリオスって呼んでね。よろしく、ミレイユ」


 エリオスは手にしていた革のケースをテーブルにそっと置くと、気さくに右手を差し出してくる。


「は、はい」


 困惑するミレイユの背後で、レオナルドが小さく咳払いをした。

 ちらりと見ると、その眉間にはうっすらと険しい影が落ちていて、何も言わずにエリオスのほうを見据えている。


(そうよ。王族の方だもの、早急に従わないといけない!)


 躊躇をしていては、レオナルドや父に迷惑がかかってしまう。握手を急かされていると受け取ったミレイユは、差し出された手を取って、勢いよく両手で握り返した。


「よろしくお願いします、エリオス殿下!」


「わあ、情熱的な歓迎だね〜」


 心底楽しそうに目を細めて、エリオスは片眉を上げる。


「よし、じゃあ早速だけど――」


 エリオスはにっこりと笑って、テーブルに置いたケースの留め金を外す。なかには深い藍色の絹布に包まれた小さなものが、ことりと収まっていた。布の包みを解くと、現れたのは、握りこぶしほどの大きさの結界石だった。


「実は折り入って相談があってね。この結界石を見てもらえるかな。レオに聞いたら、君が詳しいだろうって言うから、押しかけたんだ」


 ミレイユはちらりとレオナルドを見上げる。


「君の思うままにやっていい。この前術式を読み解いたように」


 短く、確かな声で、レオナルドはそう告げてくれた。


「……わかりました」


 ミレイユは小さく頷いて、結界石をそっと両手で包み込むようにして手に取った。

 淡い乳白色の表面は滑らかで、外から見ただけでは何の変哲もない丸石だ。だが、触れてみればほのかに魔力を帯びている。

 ミレイユは指先に、ほんのわずかな魔力を流してみる。


「展開(アペリーレ)」


 声と同時に、結界石から淡い光の鎖が走った。文字と記号で組まれた術式が空中に立体的に広がり、幾層にも重なった内部の構造が一望できる形で浮かび上がる。

 ミレイユは目を細める。

 古代の組み式の流れの上に、新しい層が無理に継ぎ足されていて、文字の癖が明らかに別の人の手によるものになっている。


(古い結界陣を無理に継ぎ足してる。だから各所で干渉が起きているのね)


 その境目のあちこちで、魔力の流れが衝突している。これでは、有事の際に結界がうまく作動しないか、逆に事故になる可能性もある。


「……どうしてこんなに無駄のある式なんだろう」


 思わず呟いてから、ミレイユははっと顔を上げた。


「あ、すみません。つい……!」


「いや、いいよ。そのまま続けて」


 エリオスの声が、いっそう真剣な色を帯びる。


「わかりました。では」


 ミレイユは小さく頷くと、空中に展開された術式に視線を戻した。指先で不要な符号をひと筋ずつ弾いていく。継ぎ足しの層が外れて、その下の古代の流れがあらわになる。

 そこへ、新しい簡略化された構造をていねいに書き直していった。展開された術式の線が、すっと滑らかに光を走らせて、流れがひとつに整っていく。


(あの日広場で暴走した魔導具と、同じ感覚だ。このちぐはぐな術式に、覚えがある)


 ミレイユは深く息を吐いてから、仕上げの呪文を唱える。


「固定(フィクサ)」


 空中に展開されていた術式が、ふっと結界石へと収束していく。淡い乳白色の表面が、内側にほのかな光をたたえはじめる。古い層と、書き直された新しい層が、ようやく同じ流れを共有しはじめた合図だった。


「これなら、安定するはずです」


「素晴らしいね」


 エリオスが感嘆するように、深く頷いた。

 その視線が、ふっとミレイユからレオナルドのほうへ流れる。何かを確かめるような、それでいてどこか面白がるような色を一瞬だけ宿してから、エリオスはまたミレイユへ視線を戻した。


「彼女は才ある付与術師だからな」


 後方で腕を組むレオナルドは、さも当然と言った様子で誇らしげにそう言う。


(侯爵様に、認めてもらえているんだ)


 レオナルドのその言葉に、ミレイユの胸の奥がじんわりと温かくなる。顔が緩みそうになるのを堪えて、ミレイユはふたたび結界石へと視線を落とした。


「この結界石、わたしが書き換えてしまっても良かったんでしょうか」


 好きなようにしていいと言われて思わず直してしまったが、これは一体なんなのだろうか。そう思って尋ねると、エリオスがぽつりと続ける。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
★★★他の連載作品もよかったら!!!★★★
『没落させられた家の再興のため、訳あり侯爵様と手を組みました。形だけの婚約のはずが、過保護が止まりません!?』
・陰謀に巻き込まれた令嬢がやけに過保護な訳あり侯爵様と共に事件を解決するお話
『ボロボロの仔竜に懐かれたので、おいしいごはんでふくふくにします!〜異世界転移した先で、かわいい仔竜と一緒に暮らすことになりました〜』
・異世界転移した女の子が、仔竜と一緒に自分の居場所を見つけていくお話
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。