最終話 2人のルール
ガラス張りのシャワー室に湯気が立ち込め始めると、非現実的な空間が出来上がった。佐伯がシャワーの温度を手で確かめながら、彩乃の方へ向ける。温かいお湯が肩から背中へと伝い落ちていく。
彩乃は思わず視線を下に落とした。佐伯の股間には、初めて見る男性の象徴がすでに大きくそそり立っていた。経験のない彩乃であっても、それが興奮を示しているのだということは容易に理解できた。
「…大きい」
思わず漏れたつぶやきに、佐伯は苦笑いを浮かべた。
「コレが標準サイズだよ。大きくなって14センチくらい。日本人の平均だって」
「そ、そうですか…」彩乃は熱くなる顔を隠すように、片手で乳房を、もう片方の手で股間を覆って立ち尽くしていた。
佐伯がシャワーヘッドを操作しながら、彼女の背中にお湯をかける。温かい水流が緊張した筋肉を解きほぐしていくが、彩乃はどうしても手をどけることができなかった。恥ずかしい。さっきの覚悟はどこへやら、無防備に全裸を晒すことなどできそうになかった。
「彩乃さん」佐伯の低い声が耳元で響いた。「キレイだよ」
その言葉とともに、乳房を隠していた手がそっとどかされた。抵抗する間もなく、ボディシャンプーをたっぷりと含んだ佐伯の手のひらが、白磁のような肌の上を滑り始める。泡の感触と男の荒い掌のざらつきが、強烈なコントラストを描いて神経を逆撫でする。
そして、佐伯の指が彩乃の淡い桜色の乳首に触れた瞬間だ。
「っ!…あぁっ!」
電流が全身を駆け抜けたかのような衝撃に、彩乃は悲鳴に近い喘ぎ声を上げてしまった。膝がカクンと崩れそうになるのを、佐伯が支える。
「感じやすいんだね」耳元で囁かれ、彩乃は羞恥で顔から火が出そうだった。自分で触れる時とは違う、圧倒的な快感。まるで1人でしている時の反応を見透かされたようで、たまらなく恥ずかしい。
佐伯の泡のついた手が、するりと下へと伸びてくる。彩乃は目をきつく閉じ、足をガクガクと震わせながら必死で太ももを閉じた。しかし、濡れた体は抵抗むなしく、佐伯の手を拒むことはできなかった。
太ももの内側を撫で上げられ、秘所に指が滑り込んだ瞬間、ものすごい快感が脳髄を支配した。
(すごい…想像してたより、気持ちいい…)
自分の指では決して届かない深淵を、佐伯の指が的確に刺激していく。彩乃は声も出せず、ただ彼の腕の中で波のように押し寄せる快楽に身を委ねるしかなかった。
互いの身体を洗い終え、バスタオルで簡易的に水気を拭き取ると、二人はベッドへと戻った。
「俺に任せて」
佐伯は優しく彩乃をシーツに押し倒した。彼女の足の間に自分の体を滑り込ませると、秘められた花園がさらされる形になる。
「いやっ! そんなところ…見ないでください!」彩乃は慌てて身をよじったが、佐伯の大きな手が太ももを掴み、逃げ場を封じた。
「ダメだよ。全部見たいんだ」
そして、佐伯の熱い舌が彩乃の割れ目をゆっくりと下から上へとなぞり上げた。
「ひあぁぁっ!?」
嬌声が部屋中に響き渡る。舐められるなど想像したこともなかった場所が、熱く濡れた舌で愛撫される感覚に、思考が真っ白に弾け飛んだ。舌で舐めながら、佐伯の手は這い上がり、ふっくらとした両方の乳房の先端を同時に摘み上げる。
前からも下からも同時に攻め立てられ、彩乃は人生初めての快感の奔流に飲み込まれた。腰が浮き、シーツを握りしめる指先が白くなる。何もできない。ただ感じるままに声を漏らすだけだ。
十分に彼女が潤い、体が開かれたのを見計らって、佐伯は身を起こした。いつの間にか装着したゴムの感触が彼女の太ももに当たる。
「行くよ」
「はい…」
彩乃は潤んだ瞳で彼を見つめ返し、小さく頷いた。
破瓜の痛みは確かにあった。身を切り裂くような鋭い感覚に息を呑み、眉を寄せる。しかし、それ以上に彼と一つになっているという事実が、圧倒的な幸福感となって胸を満たしていった。ゆっくりと動き始めるにつれ、痛みは熱帯びた快感へと変わり、二人の吐息が重なり合っていく。
事が終わり、汗ばむ体を寄せ合ってベッドに横たわる二人。静かな呼吸音だけが響く部屋で、彩乃はそっと口を開いた。
「あの…佐伯さん」
「うん?」
「相性は…どうでしたか?」
その問いに、佐伯は目を丸くしてから、破顔した。
「とても良かったよ。最高だった」
彩乃は安堵と喜びで胸をいっぱいにさせながら、彼の胸に顔を埋めた。
「私も…佐伯さんとの相性はバッチリでした」
その言葉に二人は顔を見合わせ、声を上げて笑い合った。雑誌の情報なんてどうでもいい。自分たちがお互いを求め合い、満たし合えることこそが真実なのだと身をもって知った。
翌日、会社での二人は明らかに以前とは違う空気を纏っていた。
始業時間直前、営業事務課のデスクに佐伯が現れた。皆が見守る中、彼は彩乃の手をしっかりと握りしめ、澄んだ声で宣言した。
「皆さんにご報告があります。僕たち、婚約しました」
一瞬の静寂の後、フロアは騒然となった。
男性社員たちは一斉に肩を落とした。「あんな冴えないオヤジと…」「俺の方が絶対いいのに…」と呻き声が漏れる。彼らにとって高嶺の花であり、最後の希望だった朝倉彩乃が、完全に他人のものになってしまった事実はあまりにも残酷だった。
一方、女性社員たちは意外な反応を見せた。
「まさか本当に佐伯とくっつくなんてねぇ」と呆れつつも、「でもまあいいじゃない。これであんな視線から解放されるでしょ?」と奈緒がウィンクした。「コレで男性社員たちは彩乃を見なくなるし、やっと私たちの方へ流れてきてくれるかもしれないわよ」
彼女たちはしたたかに計算していたのだ。彩乃という巨大な壁が消えたことで、自分たちにチャンスが巡ってくると信じて疑わない。表面上は「おめでとう」と言いながらも、その裏では早速ターゲットを見定める視線が交錯していた。
騒動の渦中にありながらも、彩乃の心は穏やかだった。誰に何と言われようと、隣に佐伯がいる。それだけで世界は輝いて見えたからだ。
週末、二人は互いの両親への挨拶に向かった。
佐伯の実家では、「まさかお前がこんな綺麗な奥さんをもらえるなんて!」と涙ぐむ母と、「大切にしろよ」と目を赤くする父が出迎えてくれた。彼らにとって、長年独身を貫いてきた息子の結婚は何よりの喜びだった。
彩乃の実家でも同様だ。「佐伯さんなら安心して娘を任せられる」と、厳格な父も満面の笑みで二人の手を握りしめた。二人がお互いを想い合っていることが、その真剣な眼差しから伝わってきたのだ。
季節は巡り、二人は小さなアパートから一緒に選んだ新居へと引っ越した。
ある夜食卓を囲みながら、彩乃はふと思い出したように雑誌のページをめくった。
「ねえ、大人の恋愛のルールってあるけど…」
「ん? 何?」
「やっぱりね…」彩乃はパタンと雑誌を閉じると、最高の笑顔で言った。「私たちがこれから作っていくルールが1番だよね」
「そうだな」佐伯も温かい味噌汁を啜りながら笑う。「これからもずっと隣にいて、一緒にルールを作っていこう」
窓の外には静かに星が瞬いていた。不安と嫉妬に翻弄された日々は終わりを告げ、穏やかで確かな愛という名の物語がここから始まっていた。
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