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文芸部定例読書会

文芸部の部室では金曜定例の読書会が行われていた。


読書会といっても、集まった部員がそれぞれ好きな本を好きなように読んでいるだけである。

創部当初は課題図書など決めて感想会を行ったりしていたらしいが、現在は課題もなく感想を言うも言わないも自由。どうしても感想を言いたいという部員が布教シートを作り込んで演説することもあるけれど、大体は集まってそれぞれが自由に好きな本を読んでいる。

読書会は週2回。今年度は火曜日と金曜日。新年度に新入生が入ると、読書会を何曜日にするか話し合って決めることになっている。参加必須というわけではないので来ない部員もいるけれど、ほとんどの部員はなんとなく集まってそれぞれ本を読む。知らない本を見つけることも出来るし、本の貸し借りもしやすい。本好きばかりだから読む邪魔をする人もいない。

先週新しい文芸部誌が配布されたので、火曜日には感想を話す部員もいたけれど、私は早めに帰ってしまった。

今日はきっといつも通りの本を読むだけの時間になるだろう。そう思って部室で本を読んでいた私は、公平くんの発言で息を止めた。

「はぁ!?」

文芸部長が叫び声を上げた。

叫んだ部長は直後に自分の口を手で塞ぐと窓と扉に目を走らせる。どちらも閉まっていることを確認すると、ほっと息を吐く。

「だからこれを書いたのは足立だろう。本人に聞いたが白状しないんだ」

公平くんが文芸部長にそう言うのを聞いて、部員たちも怪訝な表情を二人へ向ける。

美月みつきちゃんだけはヘッドホンをしたまま顔を上げずに本を読んでいる。おそらく聞こえていないのであろう。ヘッドホンが優秀なのか集中力が優れているのか、またはその両方。


ホンニンニキイタ?ホンニンってナニ?


「えーと…。足立ってどこの足立?」

「2-Cの足立和人(かずと)

「ああ、足立くんか。1年の時同じクラスだった」

「知り合いか!じゃあやっぱり足立なんだな!」

「違うよ!?っていうかなんで突然!?なんで足立くん?意味が分からない」

部長は声を抑えながらも叫ぶように言う。

私も公平くんが何を言っているのか分からないし、出来ることなら分かりたくない。

「だからさ、お前は書いたのが誰か教えてくれなかったから、考えたんだよ」

部長は顔を引き攣らせると、

「匿名っていうのはさ、誰々は違うって否定するのも結果として特定に繋がるから、正否は答えちゃ駄目だと思うんだ。思うんだけど…」どうしたらいいのこれ…小さく呻いている。


「ええと…前も言ったけど…」

部長は公平くんを見ると、考えるように声を出した。

「あの小説は彰吾くんの原稿の穴を埋めるために、僕が無理を言って匿名ならって載せさせてもらったものだから、誰が書いたか教えることは出来ない。…だからそれが足立くんじゃないと公言することも出来ない。出来ないんだけど…」

部長は眉を下げて続けた。

「とりあえず、公平くんがどうして足立くんだと思ったのか教えて…」

途方に暮れるというのは、こういうことなんだなと部長を見て思った。部長はきっと解決しなければという意識があるから、途方に暮れることが出来るのだ。私は途方に暮れたりなど出来ない。出来ることなら今すぐ全力で逃げたい気持ちでいっぱいだ。やっぱり断るべきだった。どうして部長に説得されてしまったんだろう。

後悔に目が潤みそうだったけれど、そんな態度を出すわけにはいかない。


逃げることも出来ない私は…ただ二人の会話に耳を傾けるよりほかなかった。

※布教シート=推しの魅力を広く知らしめるために図解して説明するためのもの

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