公平くんの推理
部長に、足立くんが小説の作者だと思った経緯を聞かれた公平くんは、
「お前は教えてくれないからさ、とりあえず彰吾に聞いてみたんだ」
と話し出した。
「あ、彰吾、部誌の穴埋まって良かったって喜んでた。今月中には退院出来るみたい」
「それは良かった」
とても喜ばしい話だけれど、今は申し訳ないがそれどころではない。
「退院したら原稿のバックアップが残ってないか探してみるって言ってた。あったら冬号に載せたいってさ」
「残ってるといいね。怪我よりも原稿のデータが壊れた方がショックだったみたいだからね」
彰吾くんの気持ちはすごく分かる。分かるけど今はそれより気になることが大きすぎる。
「で。彰吾も知らなかったから、もう一度読み直したんだよ」
「うん…もう一度読み直した」
「中庭が出てくるだろ。だから中庭に行ってみた。中庭が見える教室は2-Cだって確認して、で2-Cは美月ちゃんのクラスだからやっぱりか!と思って2-C行って。窓際の一番後ろの席って誰?って聞いたら足立和人だって」
「ぐっ…」
部長が呻いた。
「だけど、それだけで足立だって決めつけたわけじゃないからな!席は足立の席かもしれないけど、もしかしたら昼だけ別のヤツが座ってたってこともあり得るだろ?だから落ち着いて考えようと思って、考えてみた」
「絶対落ち着いてない…」
私も部長に心から同意したい。
「美月ちゃんは出席番号2番だろ。『あだち』だったら『あんどう』の前だから出席番号1番ってことになる。当然一緒に日直になるよな」腹立つけど、と公平くんは顔を顰めて続ける。
「授業の片付けとかって日直がやるから、美月ちゃんと一緒にやるのは足立だろ?」
「あー、まーそれはそうかもしれないけど…」
部長の声が弱々しい。
「これで確定だ!と思ったから、クラスで2-Cの足立和人って知ってるか?って聞いてみたんだ。どんなヤツかと思って」
「うん」
相槌を打つ部長の目が虚だ。
「そしたら佐藤がさ、昨年同じクラスだったらしくて」
「ああ佐藤くん」
「足立にスマホの充電器借りたことがあるんだって。なんか彼女からの連絡待ってないといけなかったのに充電切れそうで困ってたら、足立が家が近所だからって充電器、家から持ってきて貸してくれたんだってさ。佐藤が『俺の恩人、めちゃくちゃ良いヤツ』って言ってた」
「うん、足立くんはいい人だと僕も思う」
「で!家が近所らしいってことはもう間違いないってことだ」
「は?あ…っ、う…うわぁ…」
「美月ちゃんに悪いヤツが近づくのは許せないけど、良いヤツにもあんまり近づいて欲しくないなと思って、釘刺しに行った」
公平くんが笑顔で言い切った。
それを聞いた部長は頭を抱えている。しばらくそのまま動けずにいた文芸部長だったが、溜息を吐くと顔を上げた。
「…びっくりして足立くんに申し訳なさすぎて泣きそうだけど、それより前に…前も言ったけど、あれ小説だからね。フィクション。実際の人には関係ないの。何で公平くんは実話だと思うの?」
「いや別に俺、実話だと思ってるわけじゃないよ…」
公平くんはバツが悪そうに頭を掻いて続けた。
「でもさ、読んだら分かるだろ。どう見てもあれ美月ちゃんじゃん?」
「僕だって読んだよ。でも美月ちゃんだって断言出来る描写はないよね」
「でも美月ちゃんの可愛さに反しているところがひとつもないだろ」
「は?」
「何で分かんねーかな」公平くんは唇を尖らせた。




