祭りのあと
文化祭の展示は成功だったと言ってもいいと思う。
近年の文芸部誌の在庫はほとんどが捌けてしまった。
これはもちろん足立くんの絵のおかげ。そして公平くんの展示で先輩のホラー小説への興味を引いたおかげである。
文芸部と美術部を行き交ってもらえたし、それだけでなく管理棟の文芸部と特別教室棟の美術部を行き交うことで、見学者が循環したみたい。他の文化部もいつもより見学者が多かったと聞いた。
来年は文化部全体で何か出来ないかと1年生たちが話している。
彬良くんは橘先輩に声を掛けられていた。告白は無事に出来たのだろうか?
火曜日の読書会では報告がなかったけれど。
例年よりも少しだけ人出が増えた文化祭は無事に終わり、寂しさを感じないままに私たちは日常へと戻った。
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「告白した」
金曜日の読書会で真っ赤な顔をした彬良くんが、私たちにそう報告した。
「え?知らなかった…」
クラスでの彬良くんはいつも通りに見えていたので、既に告白しただなんて私は少しも気づかなかった。
「…だって…こんな報告何回もしたくないじゃないか…」
美術部との突然のコラボ企画を推し進める代わりに、告白の報告をすることを約束していた彬良くんが拗ねたように言う。
そして咳払いして続けた。
「大学に合格したら考えるって言われた」
「…それは…彬良が?」
彰吾くんが聞いた。
「…え?」
彬良くんがそれを聞いて瞬いた。
「僕…が?…橘先輩が合格したらじゃなくって…?」
「あ、橘先輩がか。てっきり彬良が大学合格したらかと思った」
彬良くんが思い出すように視線を上げ、そしてぼそりと声を出した。
「確認してない…てっきり橘先輩が合格したらかと…」
「…」
私たちは沈黙を守った。
「あー…でも彬良には悪いけどちょっと安心したかも。俺だけ相手がいないんじゃ辛いもんな」
彰吾くんが彬良くんに軽口を叩くように言う。
彰吾くんなりに慰めているのかもしれない。だけど彰吾くんだけ相手がいないも何も私たちは誰にも恋人なんかいない…まあ公平くんと美月ちゃんをどちらに入れるかは検討の余地があるかもしれないけれど。
そんな風に思って首を傾げた私に、彰吾くんが眇めた目を向けた。
「何、自分には恋人なんかいませんけど…みたいな顔してるんだよ」
「何ってだって実際いないから」
「あんなに足立くんといちゃいちゃしてたくせに?」
「い…いちゃいちゃ!?」
「最近、毎日一緒に昼飯食ってるらしいじゃん」
「え!なんで知って…彬良くん!?」
「僕じゃないよ!?…っていうか足立くんとお昼食べてたの?最近昼に教室にいないなとは思ってたけど」
「やっぱりそうかー」
「…!」
にやにや笑う彰吾くんを見て、私はカマを掛けられたことに気づいた。
彰吾くんを睨むけれど彰吾くんにダメージは加えられそうにない。
「なんて、まあ冗談だ」
彰吾くんが舌を出して笑った。
「いちゃいちゃしてんなとは思うんだけど。お前ら甘すぎとも思うんだけど。砂吐きそうにはなるんだけど。でもなー…うーん」
「うん。心春ちゃんと足立くんは…なんていうか…お互い好きすぎだとは思うんだけど…なんていうか、うーん…そういう感じじゃないと言うか…」
彰吾くんと彬良くんが何でか考え込み始めた。
公平くんと美月ちゃんは彬良くんの報告を聞くと頷いてから、既にいつも通りの読書を始めようとしている。ただ公平くんはいつもより機嫌が良さそうだ。美月ちゃんが自分にも相手がいないとは言わなかったからかもしれない。
明日は足立くんと美術館に行く予定だ。
私の小説のイメージに近い絵があるらしいので楽しみだ。
そろそろ文芸部誌冬号の原稿も書き始めなければならない。
そこには新しい登場人物を加えてもいいのではないかと思っている。
彰吾くんと彬良くんが謎の悩み事に頭を捻っているのを溜息を吐きつつ眺め、私も読書を始めるべく鞄の中から本を取り出した。
完結です。最終話までお付き合い、いいね、ブックマーク、評価ありがとうございました。




