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私の見たかった世界

私はそれを見て、驚きの余り動きを止めてしまった。

その男子生徒が自習コーナーに座って描いているのは、どう見ても私が小説で書いたペンダントだった。

小説から取り出したような夜空のペンダントに私は釘付けになった。


小説から取り出したような、と言っても実のところ小説を書いている時には、具体的な形状は思い浮かべられてはいなかった。

ペンダントに夜空を宿せたら素敵だな。いつでも北極星を纏っていたいな。星空をこの手で振るってみたいな。

そんな漠然とした気持ちを、形にならないままに文字にしたのだ。

だからそれは読むたびに自分の中で形を変えたし、どんな形であってもそれは矛盾なく物語の中に存在し得ることが出来た。


だけどその絵を見て。

私はあれが本物のあのペンダントだ、と思った。


 *


今日は図書委員の貸し出し当番だった。

だから放課後は図書室に行った。


図書委員は1、2年生の各クラス男女1名ずつ。A組の図書委員の当番は月曜日で、担当するのは2名以上と決まっている。2名いれば組み合わせは好きにして良い。本日の当番は1-Aの女の子と私。私たちは二人とも文芸部員でもあるので他の人との当番よりも気楽にやることが出来る。


私は貸し出しカウンターを1年生に任せて、返却された本を棚へ戻す作業をすることにした。

本を乗せたワゴンを押しながら図書室の手前から奥へと、本を棚へ戻しながら進んでいく。

本を棚に戻す作業は実は結構好き。

本が知っているものならば読んだ人は楽しんだかな?と想像し、知らない本ならばその内容を想像する。気になる本はちょっとだけ捲って読んでみたり、よく読まれている本や、あまり読まれない本を知るのもとても楽しい。本を棚に並べるのもウキウキする。自分の本棚でもないのに本を並べる機会はそんなにあるものではない。本の感触を堪能しながら本を棚へと戻す。


自習コーナーに近づく頃にはワゴンの上に残る本は2冊だけだった。

ワゴンを隅に置いて、私は2冊の本を手に自習コーナーの奥の棚へ行こうとした。自習コーナーで本を読む人の邪魔にならないようにしなければ。私は音を立てないようにと気をつけながら自習コーナーを通り過ぎようとした。そこで彼が机に開いていたクロッキー帳の絵を目にしたのだ。



私の心臓はうるさいくらいに耳に響いた。

静かにしなければならないのに、こんなに響いて彼の耳に届かないだろうか。


もっとその絵が見たかった。

彼がクロッキー帳を捲る。そこにはドラゴンと少女がいた。


「…!」

思わず息を呑んだ。

あのクロッキー帳には私の小説の世界がある。

私が見たかった世界を見つけたような心地がした。

私が知りたくて触れたくて文字で綴った世界があそこにある?



私はこの時、彼に話しかけたら良かったのかもしれない。

だけどこの時、自習コーナーに女子生徒がやってきて、私は棚の奥へと逃げてしまった。

そしてもう一度戻って、彼のクロッキー帳を覗くきっかけを、私は掴むことが出来なかった。

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