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雨と少女とデジャブ

美術部室に入ると高坂先輩がパンを食べていた。

俺は架空彼女のことを思い出して、慌てて顔を逸らせる。


三上くんがあんなこと言うから!


顔が赤くなっていないか心配で高坂先輩の方を向けない。

俺は高坂先輩を見ないまま、昼飯を食べ始めた。


そんな挙動不審な俺を気にすることもなく高坂先輩は声を掛けてくれ、そして手早く食べ終えると絵を描き始める。

俺は高坂先輩を見ないままに適当に返事を返して、黙々と昼飯を食べる。


高坂先輩が好きなわけじゃない。どころか今まで意識したことすらない。

だけど考えてみれば、ここのところ俺は高坂先輩と二人で昼飯を食べていたと言えなくもない。

…一緒に食べているというよりも、同じ部屋でそれぞれ食べている程度が正確なところではあるが。


俺はこっそりと絵を描く高坂先輩を見る。


うん。やっぱり別にときめかない。


部屋に女子と二人で昼飯を食べていると気づいたら、急に架空彼女がオーバーラップしてどぎまぎしてしまったけれど、気の迷いだった。

俺は安心して息を吐いた。


彼女が欲しいと思っていないと言えば嘘になるけれど、積極的に彼女を作りたいと思っているわけではない。それなのに好きなわけでもない女子を意識し掛けるって…。俺はそんな自分に少しだけ呆れて、今日も城の続きを描くべく絵に向かった。




午後の授業を終えると俺は図書室に向かう。


昨日帰ってからクロッキー帳に方角を確認するペンダントを沢山描いた。それから火山とドラゴン、少女を庇うドラゴンを描いて、雨を見上げる少女とドラゴンを描いた。

だけどやっぱり小説を読みながらクロッキー帳を広げたいと思ったのだ。


だから今日は図書室に入ると校内資料棚に直行して文芸部誌5年度春号を手に取り、自習コーナーの隅に座るとクロッキー帳を広げて『火の山』を読み始める。


前にクロッキー帳に描いた時間を確認するアイテムを見ながら、小説の登場する箇所を追う。

うん、やっぱりこういうイメージだな。


続いて、火山とドラゴンの絵を見る。

この噴火の描写を自然現象と考えると疑問に思う点がないわけではない。けれど小説の中の光景を俺は美しいと思った。というか正解には小説を読んで俺の頭の中に浮かんだ光景が美しかった。

それをクロッキー帳に描き出せているとは言えないけれど、それを描こうと思ったらクロッキー帳なんかじゃなくて、もっと大きな紙に描かなくては難しいだろう。

『空を飛ぶ城』を描き終えたら描いてもいいかもしれない。


俺はクロッキー帳の雨を見上げる少女とドラゴンを描いたページを開き、そして雨が降る場面を読む。

昨日も感じたけれど、なんとなくデジャブのような感覚があった。

あーなるほど、雨か。


昨日は急いで最後まで読もうとしていてその感覚と向き合わなかった。

けれど昼に見掛けた1年生を思い出すと雨のデジャブの原因はすぐに分かった。

雨と少女といえばあの小説だな。


少女が雨を見つめているというので、無意識にあの小説の雨を見つめる女子を思い浮かべてしまっていたのだろう。


俺は内心で苦笑してクロッキー帳を捲る。

方角を確認するアイテムは、少女が胸元から取り出すと透明な石の中で光がサラサラと夜空のように広がる。そしてその光が石の中の北の位置に徐々に一つに集まる。

夜空を切り取ったようなペンダント。そして北極星を閉じ込めたようなアイテム。

『夜の街』に登場しなかったのは、夜の空には北極星があるからだろう。


クロッキー帳には、ペンダントの中でまるでスノードームのように星が広がったものから始まり、星々が徐々に集まって大きな一つの光となってペンダントの中で輝く様まで、光の様子が変わっていくペンダントの様を一つ一つ描き起こしてある。コマ送りで見たらきっと楽しいだろう。

クロッキー帳には新たにペンダントの金具の装飾が増えていっている。


存分に楽しんだ俺は時計を見る。思ったよりも早く時間が進んでいることに驚いた。

文芸部誌の他のバックナンバーも読みたいと思ったけれど、今からでは遅いな。


仕方なく俺は立ち上がる。文芸部誌を片付けて、新たに絵を増やしたクロッキー帳を鞄に入れ、そして来週まで待たなければ残りのバックナンバーを読めないことに後ろ髪を引かれながら、俺は帰ることにした。

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