進化したゴブリン、異国に潜入す。第8話
剣が肉を割く。
一人、二人、三人、黙々と緑色の身体を切り裂き続ける。
振るわれた剣に少しの肉が乗り、それが振り切られたと同時に飛び散る。
俺とクレア、それから、ダークエルフのヘルリーナの強襲によって、ゴブリンの集団は混乱状態に陥っていた。
それなのにも関わらず、俺たちを見つけるや否や、近くのゴブリンたちはほぼ反射的に飛び付いてくる。
それに対して、俺たちも反射的にゴブリンを切り裂いて迎撃する。早押し大会みたいな、そんなテンポで人を斬り裂いていく。
ヘルリーナは闇魔法を使っているからか、ゴブリンから補足されていない。乱戦の中を歩いているのに、飛びかかられる気配すらない。すげえな闇魔法、俺に使われないように契約しておいて良かった。
「クレア、大丈夫か?」
「問題ない」
「じゃあ、もうちょっと奥に行くぞ」
俺とクレアを先頭に群れの中枢に向かう。お互いの剣で道を切り拓く。
「ふっ!」
「邪魔だっ!」
斬り裂いたゴブリンを拾って、遠心力を使って投擲武器として敵に投げつける。
剣を使うよりも殲滅をするなら、こっちの方が楽だ。
「見た目は細いのに、相変わらず凄い怪力だな」
「ん? ああ、まあな」
それを見たクレアが呆れた表情をした。確かに筋肉はかなり発達してる方だけど、彼女の言う通りで俺の身体の線は細い。
魔法を使ってるんだよ。魔法使いになれない雑魚が使う超基本的な魔法をな。
「ゴブリンナイトだ」
「あれは私がやる」
「奥のゴブリンメイジはヘルリーナに任せる」
近距離には近距離を遠距離には遠距離をぶつける。流石と言うべきか、クレアはあっという間にゴブリンナイトを斬り捨てた。
ヘルリーナはクレアに比べて少しペースは落ちるけど、ゴブリンメイジの頭に矢を突き立てる。
じゃあ、俺はこのままゴブリンジェネラルとやらをぶっ潰すか。
ゴブリンを斬り捨てながら、道を切り拓き、更に奥へと走る。
ゴブリン程度で俺が一瞬でも足を止めさせられると思ったら、大間違いだ。
てか、ゴブリンたちの戦闘技術が杜撰過ぎて、こんなんじゃ足を止める必要も無いよなって感じ。
「見つけたぞ」
ゴブリンジェネラルの目前に俺は躍り出た。その巨漢に植え付けられた瞳も俺を捉える。
ゴブリンジェネラルは三メートルを超えそうな大剣を二本も持っていた。
それを軽々と振り回す。地上の俺を拐うかのように悠々とそれを振るった。
咄嗟に下にしゃがむ。
「っつ!?」
下にしゃがんで一振りを躱した直後、二振り目が俺の足元を持っていこうとする。
即座に空中で屈んで回避をする。若干足が擦って、剣に弾かれた勢いで俺の体は軽々と一回転する。
どしゃあっ!
何とか足で地面を掴んだ。けど、勢いを殺すと同時に地面が抉れて機動力を奪われる。
三振り目。
躱し切れない。
高度な動きが出来ないと判断した俺はゴブリンジェネラルが振るう大剣に対して、後ろに飛んで剣を合わせた。
があぁんっ!
ゴブリンの集団に俺の身体は無造作に叩き付けられる。
「がはっ」
やがて、俺の身体は木にぶつかって勢いを止めた。
いってえ……
なんつー、威力だよ。
剣術のレベルは低いけど、パワーが化け物過ぎる。いや、体躯に見合ったパワーではあるんだろうけどな。
鈍痛が走る背中を抱えながら、吹き飛んだ俺にワラワラと集まってくるゴブリンを斬り捨てる。
もう一度だ。
雑魚ゴブリンを斬り捨てて前進する。何度だって斬り裂いてやる。
そうして、もう一度ゴブリンジェネラルと邂逅する。
相手の間合いに入ったと思い込ませて全力で身体を引く。俺が居た場所を一本の剣が通った。
もう一度全力で踏み込む……振りをする。
二本目の剣は本当に顔をスレスレに通り過ぎて行った。振り抜いた後が肝心だ。振り抜いた後に防御姿勢が取れない事を確認して、一気に相手を肉薄にする。
剣の届く距離、首を刺すか、視界を斬るか。
俺は大事を取って視界を斬り裂いた。
ゴブリンジェネラルの大きな体躯に剣を刺して、簡単に殺せるとは思えなかったんだ。
視界を失ったゴブリンジェネラルは右往左往に無軌道に大剣を振るう。
それを一つ一つ丁寧に見極めて回避する。
どちらかの腕を無効化したい。二本も振り回されてると、一々躱して相手を肉薄にするのが面倒くさいから。
横振りされた剣を跳躍して躱す。と同時に、腕の筋を撫でるように剣で斬り裂いた。
よし、ちょっとだけ大剣の振られる速度が鈍くなった。
そのまま、ゴブリンジェネラルの足元に滑り込んで、右脚の筋を斬り裂いた。
これもゴブリンジェネラルはバランスを崩すだけで、倒れたりはしてくれない。
全力で斬りつけたら俺の剣は壊れるんだろうなぁって思いながら、力を抑えてる。
そんなに良い剣じゃないしな。
剣、使うの辞めるか。
今はまだ未完成だけど、刃物を使うよりはダメージは入るはず。
そう思って掌をゴブリンジェネラルの腹に叩きつけた。
浸透勁。
手応え的に、ゴブリンジェネラルの内臓にダメージが入った気はした。
だけど、大きい体躯が何か変化をする事もなければ、表情一つ変えることも……いや、怒ってるな。
効いてはいるらしい。いや、そもそも、目を潰した時点で怒ってた気もする。
いやぁ、わっかんね。
ちゃんと敵の観察はすべきだったな。
こうなったら仕方ねえ。どっちかが倒れるまでやり合おうや。
「はあ……
はあ……
はあ……」
目の前には息絶えた巨漢の姿があった。
「ミリシャ、大丈夫か?」
「なんとかな」
クレアは俺がゴブリンジェネラルと戦っている間、有象無象の敵を蹴散らしていた。
今回の依頼はゴブリンの討伐。つまり、討伐したゴブリンは多ければ多いほど報酬も上がる。
「ゴブリンジェネラルはどんな風に評価されるんだろうな」
「下手すると凱旋」
「え、マジで?」
「流石に余所者だから、そんなに賑わうとも思わないが」
ゴブリンジェネラルを倒したら、普通なら凱旋する程らしい。
「へー……、目立ちたくは無いんだけどな」
元々の目的と目立ってしまう事は相反している。
「こっちも終わったぜ」
後ろから急にヘルリーナが現れた。近付かれるまで気が付かなかった。
「弓って便利だな。助かったよ」
ゴブリンメイジを仕留めたのは彼女だ。
「それは別に良いんだけどな。にしても、この群れに怯む事無く突っ込むお前らの気持ちが俺にはわかんねえよ」
ヘルリーナは呆れたように言った。俺もクレアもその言葉に思わず顔を見合せた。
「そんなに変だったか?」
「いや、ゴブリンの集団って、一応ほら」
「そんなに多くなかったろ?」
「まあ、確かにめちゃくちゃ大きいって訳じゃねえけど……」
ヘルリーナはガックリと肩を下げた。彼女は一体何を言いたかったのやら。
「とりあえず、死骸を全部持って帰るか」
「どうやって?」
「こうするんだよ」
指輪にゴブリンジェネラルの死骸を仕舞う。
「おいおい、その装備ってもしかして、アイテムボックスか?」
身体は小さいけど、態度は大きい。そんなヘルリーナは肩を竦めてそう言った。
アイテムボックスって道具は知らねえな。何となく字面的に物を仕舞う箱なんだろうけど。
「アイテムボックスが何かを知らねえよ」
「物を仕舞う箱だよ」
「そのままじゃねえか。俺の指輪がそのアイテムボックスかどうかは知らねえよ」
王様から貰っただけの物だしな。出処とか知らねえ。
「どれくらい金になるかな?」
「さあ?」
当面の生活資金になってくれると嬉しいんだけど、ゴブリンの死骸ってどれくらいで売れるんだろうか?
「ミリシャ様、多過ぎます。相場が崩れます」
街に帰って冒険者ギルドで買取をして貰おうとした。受付の人にそう言われた。
「ゴブリンジェネラルは幾らだ?」
「ゴブリンの特殊個体の買値はそれなりにしますが、この現状でゴブリンの通常個体は数体重なってもあんまり……」
個体数が多過ぎて、俺が冒険者ギルドで一気に全部を売ると、ゴブリンの死骸の相場が爆下がりして価値が無くなるらしい。
「それから、ギルドマスターがお呼びです」
「んあ? わかった、何処に行けば良い?」
「今から案内しますね」
この国の人間に目を付けられるのは良くないんだけどな。なんて、そんな事を思いながらも特に反抗も反対もせずに、俺たちはギルドマスターに会うことにした。




