第11話
「あ、おかえり〜」
「ただいま〜」
家に帰るとアマたんとアラティナさんが居た。アマたんが居るのは予想通りだけど、アラティナさんは帰ってると思ってた。
「急なんだけど、アマたんは何かして欲しいことある?」
「急だね?」
「色々とやってもらったしね」
「別に気にしなくて良いのに」
「流石に、このまま貰いっぱなしだとね」
あまりに一方通行過ぎるのは良くないよね。いや、うん、この世界に来た時から思ってたけど、貰い過ぎなんだよね。
「そうだね。今の所やって欲しいなーって思うのは、僕が送り込んだ人たちの住処を作って欲しい……とかかな。人以外も居るんだけどね」
「別に私は良いけど、私なんかに管理出来るかな?」
「りっくんに何とかして貰えば良いと思うよ」
「いや、うん、殺しちゃうかもよ?」
「そこは別に良いよ。従わない方が悪いしさ。だから、処理も含めてみっちゃんに任せたいなと」
生死も引っ括めて好きにして良いなら、むしろ、その程度でアマたんにお返しが出来るなら喜んで任されたいね。
「良いよ」
「そっか! 助かるよっ!! 早速連れてきても良いかな?」
「急だね?」
「ほら、さっき話した人だよ。天才技師の人だよ」
「あー、あれって、私の腕が無くなったから、紹介って意味もあると思ってたんだけど」
技師の件はアマたんが気を使ってくれたんだと思ってた。
「違う違う。その人は世界を傾ける程の技術を持ってる技師でね。だから、その技師が住んでる世界から疎まれてるんだよね」
「そういう人材って、アマたんは何処で集めてるの?」
「神々の間でも問題になるんだよね。英雄とかって常人から疎まれたり、時には神々から睨まれたりする。でも、英雄と呼ばれるだけあって、良い人だったりして殺したりしたくないんだけど、逃せる場所もなくて……とかね」
英雄は悲惨な死を迎える。かのジャンヌ・ダルクなんかは本当に良い一例だ。
「じゃあ、アマたんの知り合いから頼まれたり?」
「だね。英雄って大体が神のお気に入りだから、身柄を保護出来る場所を提供するだけで、大きな貸しを作れると思ってるよ」
「えっと、それは神々にってこと?」
「そうそう」
なるほどね。
そういう話なら余計に断る理由はない。なるべく穏やかな余生を過ごせたら良いね。
「良いよ。衣食住を提供するよ。もちろん、ある程度働いては貰うけど」
「うん、そこは好きにしてくれて良いよ。じゃあ、ちょっと待っててね」
アマたんは私たちの前から消えていった。そう言えば、アラティナさんは別世界から人を招く事に反対しないのかな? いつもなら結構ちゃんと文句を言うのにね。
「レイアは仕事に戻って大丈夫だよ」
「そう……ですね。私は私の仕事をします」
レイアは家から外に出て行った。
「陵はどうする?」
「俺は……うーん、暫く一緒に居るよ」
腕が無くなったばっかりで、心配になる気持ちはわかる。気にし過ぎだよって茶化せないのが辛いね。
「頼りにしてる」
「任せろ」
ほんとに、ちゃんと頼りにしてるよ。大切で一番の私のヒーローなんだから。
ホントは、真っ先に彼に頼るべきだったんだ。最近は単独行動ばかりで、正直に思い返せば頼る事を忘れていた。
絶対に私を助けてくれる人は、本当に身近に居たはずなのにね。
「暫くは陵のことを独占させて貰おうかな」
「んまあ、良いけど」
道場に割ける時間は減っちゃうかもだけど、陵は私の精神安定剤で最強の守り手だからね。少しくらい私が我儘を言っても罰は当たらないでしょ。
「実は結構弱ってるからね」
「んまあ、それは知ってる」
ちょっとした告白も、彼にとっては取るに足らないのか顔色一つ、いや、心一つ動いた気配もない。
「何も思わない?」
「まさか」
「そっか」
陵は良くも悪くも正直だから、心に傷が入らなければ、何も感じないと、何とも思わないと言うだろう。つまりは、顔に出ない程度の事なのか、顔に出さないようにしているのか、そのどちらかなんだろう。
「色々と気を遣わせるね」
「まあ良いんじゃないか? 王様も肩が凝るだろ」
「それは否定しない。ま、やりたい事をやってるだけなんだけどね」
「それでもだろ」
彼は肩を竦めた。
「肩の荷を多少は置いてみても良いんじゃないか?」
「腕だけに?」
「それは全然掛かってないからな?」
「そっかあ」
何気無い会話が私の心の調子を取り戻す。
「ただいまーっ!」
アマたんが部屋の中に現れた。消える時は一瞬で現れる時も突然だね。
「例の技師さんは?」
「もう少しで来るよ。例の人の神様と一緒に来る感じ」
「それ、何か準備とか要らないの?」
別世界の神様も来るんだ?
「要らないよ。そういうのが嫌いな人も居るしね」
アマたんがそう言うなら、それで良いのかもしれないね。神なのか人なのか知らないけど。
「ほら、噂をすれば影」
その一言を皮切りに、部屋の中には大きな存在感が現れる。後に二人の姿が出現した。
「初めまして、ミレイ王。私は機械神イゼルローン、隣に居るのがミゼルです」
イゼルローンにミゼルね。
「丁寧にどうも。先程、天照大御神からお話は伺いました。そちらのミゼルさんを保護すれば良いのですか?」
会釈を返して、軽い確認だけする。隣に居るのは機械神イゼルローンと同じ銀髪銀目の、けれど、なんというか、少しだけ違和感を感じる女性だった。
「はい」
話す事も話したい事も無いから、確認が終わったらそれまでなんだよね。
困ったなあって視線をアマたんに向けると、アマたんに苦笑された。
「イゼルローン、聞きたい事があるなら聞いたら?
みっちゃんに聞きたい事は無いみたいだから、何も聞かないとこれで終わるよ?」
アマたんが代わりに喋ってくれる。
神に聞きたい事とかわからないし、結局、その神の人柄ならぬ神柄も知らないわけで、世間話なんてしようがない。
「見たらわかりますよ。天照大御神が二人を気に掛ける理由も」
「あ、やっぱりわかっちゃう?」
「神々と争う事の出来る能力、ですか。これはまた稀有……というか、初めて見ました」
「それだけじゃないんだけどね」
「確かに、今のは少し言い方が悪いですね」
最後にイゼルローンは軽く会釈をした。
「ある意味、世界の英雄以上ですか」
「時代が違かったら、地球でもりっくんは現人神だったろうね」
「それはそれは。……で、そちらの方は?」
イゼルローンは視線をアラティナさんに向ける。
「この世界の最高神」
「……なるほど、だから、私がわからなかったのですか」
「君も研鑽が必要だね」
「というか、普通は国の王より先に世界の最高神を紹介するのでは?」
「んー、まあ、うん、そうだね」
神々の話題に出たのに、アラティナさん表情一つ動かさない。
ちょっと可笑しくない? アマたん、いったい何をしたの?
「後で説明するよ」
アマたんは視線を私に向けて呟いた。
「私はどうしたら良いんだろ?」
「さあ?」
私と陵は揃いも揃って肩を竦めた。神々の会話をずっと聞き続ける理由もないしね。
「ミゼルさん、言葉の意味は伝わってるかな?」
「はい、伝わっております」
「それなら良かった」
やることも無くて、今後とも関わっていくであろう人物に声をかけてみる。会話をする事に問題は無さそう。
機械神と自称する神々に特別扱いされる技師、か。
「大丈夫? 緊張してる?」
「特には」
「そっかあ」
結構特異な場面だと思うんだけど、彼女の顔色は変わらないし表情もピクリとも動かない。
ああ、さっき感じた違和感はこれか。人って、多かれ少なかれ表情は動くからね。
「どんな生活がしたいとかある?」
「いえ、特には」
「そっかあ」
これは、前途多難かもしれないね。




