進化したゴブリン、異国に潜入す。第5話
獣人はどの檻に居るんだろう?
軽く見廻す程度じゃあ、識別なんて出来っこない。
だから、檻に近付いては覗き込んでみる。
檻の中の人たちは、俺の方をちらっと見ては虚ろな瞳を顕にする。
まさに希望が感じられない、そんな感じの表情だ。
こうやって見ると、外見で判断しちゃあいけないんだろうけど、いかにも犯罪者って感じの人が多い。
ミレイ王に叱られ?たのが、なんか、納得って感じがするな。
犯罪者を効率良く労働力に還元するのは、奴隷にする以外に思い付かないもんな。
一応、鑑定してみるか。
俺の鑑定って能力は、人の犯罪歴とかも見ることが出来る。
う、うわぁ……
強姦とか殺人とか、わんさか出てくる……
これは奴隷で管理しねえと怖いよな。少なくとも俺はこいつらが野放しにされた国に住みたくない。
ん?
犯罪歴がないのが居るな。こいつは……
年は10歳、種族は虎獣人、外見は虎系の魔物の耳が着いているだけの人間で、性別は女、もしかして話に出てたのってこいつか?
試しに話し掛けてみるか。
「話せるか?」
言葉は何か知らんが絶対に伝わるから、理解出来ねえってことはねえだろ。
話してる言語が違くても意思疎通が取れるのは、俺が持ってる何らかの能力が作用してるんだろうけど、何が作用してるかまではわからん。
「……」
怯えた瞳を向けて、けれども、何も口を開かない。
「話せるなら頷いてくれ」
そう言うと、恐る恐る頷いた。
「どうしてここに居るんだ?」
「……知らない」
「元々はどんな所に居たんだ?」
「……森の中」
「街って知ってるか?」
「……知らない」
「知らない人に連れて来られたのか?」
「……うん」
ビンゴ、見っけた。
「ここから連れ出してやるから、叫ぶなよ?」
「……?」
剣で檻を斬り裂いた。
「ひゃっ」
「静かにな」
女の子を樽の様に抱えて、さっさとずらかる事にした。
バックヤードから出ようとしたら、人の声がして本当に寸前で立ち止まった。
「黙ってたら、親の所に返してやるから、お願いだから黙っててくれよ」
そう言うと女の子は口に手を当てて、コクコクと頷いた。
話し声的に一人、二人、か?
殺っちまうか。
「口より目を隠しとけ」
バックヤードに入った瞬間を狙って、一気に大の大人を二人斬り伏せる。
良かった。この場に居たのは二人だけみたいだ。
首と胴を切り離したから即死、指輪に死骸を仕舞って証拠を隠す。
侵入する際に叩き割った窓ガラスと、その時に使った経路を戻るように走る。
あっぷねっ!?
人影が見えて咄嗟に曲がり角に隠れた。
大人しく通り過ぎるのを待つか。それとも、近くに来たら殺っちまうか。
見つかって叫ばれたらダルいしな。殺っちまえ。
ちょうど通り過ぎた所で、後ろからザックリ斬り裂いた。
トドメとして首にも剣を刺しとく。そのまま死骸を指輪に仕舞って、気休め程度の証拠隠滅を図る。
よっし、辿り着いた。
侵入した時に叩き割った窓に辿り着いた。
「口塞いどけよ」
ぐっと屈んで、近くの屋根にジャンプする。距離的には一メートルあるかないか、って所だ。
片手で屋根を掴んで、そのまま、懸垂の要領で片手逆上がりをする。
屋根の上に登ることが出来た。
「大丈夫か?」
コクコク
大丈夫そうだな。そのまま屋根伝いに俺は宿に向かって走った。
クレアが起きてれば、誰にも見つからずに窓から帰れるんだけどな……
宿の屋根の上に辿り着いた。確か、俺たちの部屋はここだから……
屋根からぶら下がって、窓の前に身体を寄せる。けど、片手は獣人の女の子で塞がっててノックが出来ない。
「窓、叩いてくれねえか?」
そう言ってお願いすると、獣人の女の子は凄い勢いで窓をガンガンと叩いた。
すると、中に居るクレアが飛び起きたのが、何となく気配でわかった。
「ミリシャ!?」
「わり。開けてくれて助かった」
こうして宿に生き証人を連れ帰る事に成功した。
「……で、説明してくれるか?」
俺と女の子の前で、クレアが仁王立ちする。何故か少しだけ怒っている気すらする。
「証人になりそうな人を攫ってきた」
「奴隷商から?」
「おう」
「おう、じゃない……」
右手で頭を抑えて、本当に困ったような顔をした。
「証拠は極力消してきたし、大丈夫だろ」
「大丈夫じゃないだろう…… それに、その子はどうするつもりなんだ?」
「今からミレイ王に連絡を入れるよ」
「よ、夜だぞ?」
「今連れてって貰わないと困る。ここに置きっぱなしはあぶねぇだろ」
アストレアに頭の中で話しかける。ミレイ王に代わってもらうように言うと、ミレイ王には代われないって言われた。
『リョウさんでも良いんだけど』
『わかりました。少し待っていてください』
『何の用だ?』
少しして、戦闘の師匠であるリョウさんに会話が繋がった。
『獣人の女の子をそちらで保護して欲しくて』
『そっちに置きっぱじゃ駄目なのか?』
『はい。奴隷商から盗んで来た子なので』
『……王様が起きたらこっ酷く叱られるんだろうな』
『その、悪いことばかりじゃないと思ってるので……』
『まあいいや。そっちにアストレアを向かわせるから、アストレアに獣人の女の子を預けてくれ』
『承知しました』
取り敢えず身柄の保護はやってくれるらしい。
『という訳で、私が来ました』
アストレアは俺の大切な人で、言葉を発する事が出来ないけど念話は出来るというちょっと特殊な存在だ。
また、空間魔法という空間に関連した魔法の使い手で、魂の盟約を結んでいる俺の場所への転移は朝飯前だ。
「なんか、ちょっとボロボロじゃないか?」
『ええ、今、ちょっと大変なのです』
「だから、王様に代われなかったのか?」
『はい。で、お話にあったのは……』
「この子だ。先ずは連れて帰ってくれ。やって欲しいことは、ミレイ王に直接話すから」
アストレアから獣人の女の子に向き直る。
「必ず迎えに行くから、ちょっとだけお別れだ。向こうの人は優しい人ばかりだから、安心してな」
「?」
獣人の女の子は首を傾げた。あんまり状況が飲み込めてないんだと思う。とは言え、長々と説明してもあんまり意味は無い。
「じゃあ、任せた」
『では』
アストレアは獣人の女の子を連れて、宿の部屋の中から姿を消した。
「ふーっ、一旦は一件落着だな」
結構身体を酷使して、ベッドに飛び込んだらドッと疲れが押し寄せてきた。
「何が一件落着なんだ……」
それを見たクレアに迷った視線を向けられる。
「そのままの意味だけど?」
「明日は街が騒がしくなりそうだな」
「たかが奴隷商のトラブルで?」
「違う。獣人が逃げたという事実にだ」
「……どういう事だ?」
思わずクレアの言葉に首を傾げた。
「簡単に言えば、街中に魔物が放たれた時の街の様子を想像して欲しい」
「パニックになるな」
街中に猛獣が現れたら、一般市民であれば恐怖に慄く事になる。
「それと同じだ。この国の人たちにとって、立場の無い異種族は猛獣と同じ扱いだからな」
「……まじかよ」
「失踪した獣人が見つかるまで、永遠と衛兵が街を探し続けることになる」
「へー……」
「へー、じゃないっ! 私たちも動きづらくなるんだぞっ!?」
「別に怪しまれる行動をしなきゃ良いんだろ? 今までと変わんねえよ」
そんな変な行動を日中にしてる訳でもないし、今回も人目に付かないように行動してたし、衛兵の監視の目が増えた所で大きく何かが変わるとは思えなかった。




