プロローグ 「心の準備ぐらいさせて欲しい」
志門 稲豊は、準備に余念がなかった。
「包丁にトングと、菜箸。塩と砂糖に、オリーブオイル。こんなもんかな?」
二階の自室で、鞄に入った調理器具を指差し確認する稲豊。彼は黒髪短髪の中肉中背、十七歳の高校二年生。所属している料理研究会の活動の為に、着々と準備を進めている最中だった。
稲豊は道具や調味料を詰め込んだ鞄を乱暴に閉じ、掛け時計を見上げる。
「やばっ!? もうこんな時間かよ! 急がねぇと!」
階段を駆け下り、急いで厨房を目指す。
その途中で、稲豊に声が掛かった。
「おう、どこ行くんだ稲豊?」
カウンターの奥からそう声を掛けたのは、ベーシックなコックコートを着た中年男だ。彼はこの小さな洋食屋の店主兼コック、つまりは稲豊の父だった。
「昨日、言っただろ? これから特別な部活だよ」
稲豊は時間が迫っていることもあって、慌てた様子で厨房の冷蔵庫を開ける。そこには昨日のうちに作った料理が、三品ほどタッパーに収められていた。それをすべて取り出し、急いで鞄の空きスペースに詰め込んでいく。
「じゃあ俺、行ってくるから。晩飯は部活で食うんで今日はいいや」
「ちょっと待てって。“コレ”、持ってけ」
父親がなにかを投げ、稲豊は驚きながらもそれを受け取る。
視線を落とせば、手の平サイズのプラスチック容器に入った味噌だった。
「俺の最高傑作。その名も『最強味噌』だ! 隠し味に入れても良いし、そのまま食っても美味い。持ってけ」
「今日の料理テーマは決まってるから、使い道ないと思うんだけど……」
「まあまあ、この味噌をつければコンクリートでも食える。万能味噌だ、持ってて損はないって!」
「わ、わかったって」
父がしつこく押しつけてくる味噌を、稲豊は鞄の中に無造作に放り込んだ。もしかしたら、なにかの役には立つかもしれない。稲豊は父の腕が確かなのも知っていた。
「そんじゃあ、行って来い。頑張れよ、稲豊」
珍しく真面目な父に背中を押された稲豊は、握り込んだ右拳を突き出して元気いっぱいに答えた。
「ああ! 行って来る!!」
回れ右をし、稲豊は意気揚々と玄関の扉をくぐった。
そして一歩、二歩と、学園を目指して歩き始める。
そのときだった――――――
「あ?」
突如、地面に幾何学的な紋様が浮かび上がる。
「なんだ……これ?」
次の瞬間、見たこともない円形の模様は、発光しながら回転を始めた。
「は? ちょ? ええッ……!?」
狼狽する稲豊が誰かに助けを求める間もなく、世界のすべては白一色に染まる。そして稲豊の世界は…………消失した。
小説家になろうを見つけて、発作のように書いた人生初めての小説。
お暇なときにでも、目を通していただければ幸いでございます。
※料理をする描写もそれなりに出ますが、主人公も作者も料理に関しては素人同然です。乏しい知識にお見苦しい部分が出て来るかと思いますが、「馬鹿がなにかやってるな?」ぐらいに軽く考えて頂ければ幸いです。あくまでメインテーマは『食糧改革』ですので、そこをご理解のうえでお楽しみ頂ければ、感謝しかございません。




