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悪殺し -悪に殺される話-  作者: 皆口 光成
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悪ー拾九ー


ユニアド外周部。廃墟街。




正確にはここもユニアドではあるのだが、誰も住んでいないことと、荒廃した惨状の街故にいつしか人々にそう呼ばれた。




一般市民は当然のようにおらず、いるのは皆家を失った者かゴロツキばかりである。




もしここに知らず知らずの内に迷い込んでしまえば、彼らの格好の標的となることであろう。




ここには法律などは通じない、無法地帯でもあるのだから。

しかしそんな彼らでも関わり合いになりたくない存在というものはある。




ユニアドに復讐せんがため、闇の者から襲撃し、奪い取った武装をしているホームレス、つまり我々の事だ。




現在は五人全員が各々の使いやすい武装でユニアド中心部に向かっている。




目的はもちろん──。




「おい。そろそろ教えろよ」




後ろのゴツい奴が話しかけてくる。




「何をだ」




半ば苛立ちながらに聞く。

こいつは見た目通りに頭まで筋肉のような奴だ。自分の命令に従順なのはいいのだが、要は自分では何も考えられない馬鹿である。




「今日襲撃するところだよ」




「確かに、俺も聞いておきたいな」




別の奴も呼応するように言ってくる。馬鹿は伝染するという逸話はもしかしたら本当なのかと思ってしまう。




「お前ら、どうせ聞いたってやることは変わらないんだからどうでもいいだろ」




さらに別の奴が二人に向かって中傷な言葉を投げかける。




「てめぇ…。それどういう意味だ!」




ゴツい奴が叫ぶ。本当に頭の中が単細胞な奴だ。




「そのまんまの意味だよ。違うのか?」


「………!!やろうってのか?あぁっ!?」


「おいやめろって」




そうこうしているうちに、仲間割れが始まる。これだから頭の悪い奴は嫌いなんだ。




「いい加減にしろ」




今にも武装している武器で争う、というところで間に入る。




「でもよ!こいつが」




それでも収まりきれそうに無かったので、喉元にナイフを突き立てる。




「…………!!」




ようやく静かになった。やはり、馬鹿でも恐怖というのは分かるのだろう。




「仲良くしろとは言わない。だが、俺たちの敵は“ユニアド”だ。それを間違えるな」




ゴツい奴と、その他の二人にも睨みつける。




「あ、あぁ…」




「わ、分かった…」




下らない事柄が終わったことを確認し、ナイフを懐にしまう。




こいつらは実に単純な思考回路で動いている。

職を失い、住む家も失い、家族を失い、全てを失って残ったのはユニアドへの行きどころのない怨恨。




復讐したくても何もできない奴らに手段を与え、力を与え、そして恐怖を植え付けた。




この三人はもはや従順なるコマだ。自分で考えることもできない哀れな従僕だ。

だが俺ならこいつらを最大限利用できる。武器として扱うことができる。




あの街に、攻め入るための兵として。




俺には頭脳がある。誰にも負けないぐらいの頭脳が。

だがあの街はこの俺を切り捨てた。俺よりも明らかに劣っている連中を集め、この俺を追放した。



許せない。許さない。許してたまるものか。




いかに俺があいつらより優れているか。そしていかにお前らが、ユニアドが間違えているか。




それを俺の手で知らしめてやる…。




今に見てろ。今は少数だが後に兵力は増加させ、軍隊並みにして攻め入ってやる。




なに、コマならあちらこちらに転がっている。すぐにでも計画は実行できるだろう。




そのためにも──。




「行くぞ」




四人の先頭に立ち、街に向かう。




計画を進行させるにはまず金が必要だ。ある程度の軍事資金が必要となるだろう。




金を奪うところはユニアドが絡んでいる店がいいだろう。あそこは国からの援助金を受けているからそこそこの金額がある。




それを繰り返せばそのうち…。




クックックッ…と不適にも笑う。

その様を不気味に思う後ろの三人が見なくても分かる。




「ねぇ」

と、また呼ばれる。しかしあの三人の声ではない。




先ほどから三人のやり取りをただ傍観していた一人。




寡黙なこいつは普段は滅多に喋らないのだが、こういう荒事を起こす時だけはやたら話しかけてくる。




ただ、気になるのはその寡黙ぶりよりも、背が小さく女のような声の方だが。




「結局、今日はどこに行くの?」




気づけば寡黙なそいつは横に並んでいた。

他三人なら普通にあり得ない行動ではある。なにせ、俺に対しては畏怖の感情を持っているのだから。

だがこいつは違う。初めて会った時もこいつだけは俺に恐れなかった。




腕っ節も誰よりも強く、もしかしたら俺よりも強いのかもしれない。

だが、どういうわけか俺の命令には従う。よくわからない奴だ。




「…黙ってついて来い」




俺はただただ、そう返事だけをした。


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