悪ー弐拾ー
「そういえばカナデ。今日の“ソロカリ”は大丈夫なの?」
唐突に話されたサヤさんの言葉に僕は動きを止める。
「んーとね…。うん、今日は大丈夫。入ってないよ♪多分」
「いや、多分って…」
サヤさんが呆れたように溜め息をしながら飲み物のジュースに挿したストローをかき混ぜる。
「あなた、この前もそう言ってソロカリサボってたでしょ?」
「あははー…。そうだっけ?」
カナデさんがとぼけるようにジュースを飲みだす。
「あ、ちょ、ちょっと待ってください」
そこで僕は制止の手を入れた。
「え?なにサッキー♪もしかして私が飲んだジュース欲しいとか言わないよねー?」
「“ソロカリ”ってなんですか?」
「え?スルーなの?」
カナデさんを度外視し、サヤさんの方を見る。
「え、何って…」
一瞬困惑するような表情をするも、すぐに何かに気づいたのかハッとした表情になる。
「そうかサツキくん、まだココに入って一ヶ月だから“ソロカリキュラム”のこと知らないんだ」
「ソロカリキュラム?」
聞いたこともないので復唱した。
「うん。ソロカリキュラム。個人教科で略してソロカリ」
「はあっ…」
この溜め息は納得のための感嘆を表す溜め息だが、サヤさんにはまだ分かっていないと思われたのか、続けて説明してくれた。
「サツキくん、ユニアドのキャッチコピーって知ってる?」
しばしの想起の時間の末、答えに至る。
「確か、『よりよい技術と街の革新を』…でしたっけ?」
「うん、正解」
パチパチと音の鳴らない拍手をされる。
「で、そのキャッチコピーの中にもある技術の革新にユニアド学園は協力しているのよ」
それは知っていた。この街に住む前にあらかたのことは調べていたのでユニアドという街がどういうために全国から秀でた者を集めているのかは知っていた。が。
「まさか生徒まで巻き込んでいたとは…」
あまりの事実に椅子に寄りかかる。
「うん、まぁ、巻き込むって表現はどうかと思うけどね」
そのために私たちがいるわけだし。とサヤさんはつき加えて言った。
「もちろん強制じゃないよ?したくない人はしなくてもいいし、やりたい人だけがやってる感じ」
「へぇ。でもそうなるとサヤさんもカナデさんも協力してるようですね」
チラッとカナデさんの方を見ると先ほどのスルーでなのか、未だにいじけていた。どうりでさっきから静かだったわけだ。
「ほら、ユニアド学園って少し変わった組み分けをするでしょ?P組、A組、S組って」
「そういえばそうですね。最初見たとき一体なんの順番なんだろうって考えてましたよ」
「私も」
ウフフッとサヤさんが笑う。
「実はアレ、それぞれの突出した才能の頭を取っているのよ。Pは身体、Aは芸術、Sは頭脳って具合に」
「なるほどー」
と、今知ったような反応をするも、サヤさんには申し訳ないがそのことは転校直後に知っていた。というのも、教室の組を表すプレートに彫られていたからだ。
「そうやって組み分けすることでそれぞれの伸ばしたい分野を効率良く伸ばしているのよ。うちは」
そういえばユニアド学園に入学する際、何故か体力テストをされたのを思い出した。アレはそういうことだったのか。
ユニアドは事前にどこが秀でているのかの確認をしていたというわけだ。
「あれ?でもおかしくないですか?」
「え?何が?」
「サヤさんがP組であること」
「………」
的を射た質問だったのか、サヤさんは黙ってしまった。
なぜならサヤさんはP組、いやもしかしたら学園一に、体力が無いのだ。
同じクラスだから知っていることなのだが、体育の時間に持久走をした時。
まだ始まって五分も経っていないというのにサヤさんはすでにグロッキーとなっていた。
最初はどこか調子が悪いのかと思われたが、どうやら元々らしい。
それ故にサヤさんが身体能力に優れた者が集うP組に属するのはおかしい。
「ま、まぁ」
サヤさんの口が開く。
「確かに私の体力はハッキリ言って壊滅的にないですけども」
平静を装っているが、明らかに動揺しているのが分かる。
正直見ているのが辛い。
「で、でも体力だけがP組じゃありませんし…」
ダメだ、もう彼女は限界だ。その証拠に目のダムが今にも決壊しようとしているのが見えた。
「カ、カナデさんは確か“A組”でしたよね?一体どういうことに優れているんですか?」
話題を変えるためにカナデさんに話を振った。
「え?あ!わ、私はね〜♪」
すぐさま状況を理解してくれたようで、すぐさま喋り出す。
「私は“声”が普通の人より綺麗なんだってさー♪」
「こ、声?」
なんだろう。周波数とかそういうのを言っているのだろうか?
「正確には“歌声”だねー♪なんでも私の歌声は尋常じゃないほどに人の心に影響を与えることが出来るんだってさー♪」
「そうなんですか?」
と、すでに落ち着いたサヤさんの方へ聞いてみる。
「うん、カナデの歌はなんでも通常の波長とは少し異なる音の出し方をしているみたいなの。その波長が人間の、もっと言うと生物をリラックスさせるモノなんじゃないかって学者の人達が言っていたわ」
おぉ、なんだか凄そうだ。人は見た目によらないと言うがカナデさんはその最たる代表であろう。
「まぁ、でもでもー、まだまだ未知の部分が多すぎるってことで芸術組に振り分けられたんだけどねー♪」
不満そうに自分のジュースをブクブクとさせる。行儀が悪い。
「本当はサヤと一緒が良かったのになー」
「仕方ないわよ。そういう決まりなんだから」
カラカラッと空になったグラスをかき混ぜる。
「大分話が逸れちゃったけど、ソロカリキュラムは要はその人の秀でた部分、優れた能力を研究、向上することなのよ」
と、サヤさんは主題の締めの言葉を言った。
「研究…ですか」
「と言っても基本的に私達は何もしないからどちらかというとソロカリは向こうの人達の為のものね」
最後にそう付き加えて。
向こうの人達、というのはおそらく研究者や学者などのユニアドが集めたスタッフのことだろう。
“ ユニアド学園都市化計画”によって集められた。
その背後には、多く者失業者を生んだと言われている。
ユニアドという街を発展させるため。
技術の向上をするため。
僕たちは集められ、研究され、教育されている。
この店の店長もまた、その一人である。
今こうして三人でケーキを楽しく食べるために。
一体どれほど多くの人を不幸にしたことなのだろうか…。




