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出自

 ローザを育ててくれたダメルの他に、駄目なダメルがいたと言う考えは、ローザの育てのダメル観を損なわないのだけれど、そうするとローザが望む可能性が潰える事になる。

 そもそも育てのダメルと目の前の自称母親と、ローザがどちらを信じるかと言う事なのだ。

 ダメルが手を出したのではなく、女性が手を出して無理矢理ダメルと関係を持った事だってあり得なくはない、と言うかあり得る。


「ダメルと関係があったのだとしたら」


 ローザは自分の言葉に胸が痛かったが、言いたい事はこの後だ。


「ダメルが本当の私の父親の可能性もありますよね?」

「ないわよ、そんなの」


 痛みを堪えながらのローザの言葉を女性は軽い調子で否定した。


「私がその様な失敗、いくら酔っていてもする筈がないでしょう?」


 同意を求められても困る。とにかくローザは反論をする。


「でも、ダメルは私がダメルの娘だって、認めたのですよね?」

「あなたの誕生日をずらして教えたから」

「え?」

「それで信じたのよ」

「ずらして?」

「ええ。あら?あなたは未熟児だったと、いえ、違うわよね?確か誕生日をずらしたのだったわ」

「でも、早く生まれたり遅く生まれたりする事も」

「あり得ないのよ。貴族にはね?避妊魔法と言うのがあるの。妊娠魔法もあるわ。それだから、望んだ相手としか子供は出来ないのよ」


 その様な魔法をローザは聞いた事がない。しかし目の前の女性は自信を持った表情でそう言い切っている。


「・・・それでは、その、御主人様と言う人とは、子供を望んだと言う事ですか?」

「もちろんよ。私が愛するのは御主人様だけですもの」

「その御主人様と言うのは、あなたの」

「お母様」

「お母様の夫なのですか?」

「・・・御主人様が愛しているのは私だけよ。でもね?貴族は愛しているだけでは夫婦になれないの」


 女性は御主人様との間には愛がある事を言いたかったのだけれど、ローザは違うところに引っ掛かった。


「貴族?御主人様は貴族なのですか?」

「ええ、もちろんよ。私が平民の子供を産む訳がないでしょう?」


 同意を求められても困るけれど、と言う事は。


「私は貴族の血を引くと言う事ですか?」

「ええ。この度御主人様があなたを認めると仰ったから、私が迎えに来たのよ」

「え?・・・認める?」

「ええ」

「私を?」

「そう言っているじゃないの」

「これまでは認められていなかったのですか?」

「・・・それは、あなたの為だったのよ、ローザ」


 そう言うと女性は、自分と御主人様の関係を話し始めた。


「御主人様はバラローズ侯爵家の跡取りだったの。一方で私は弱小男爵家の娘。本来ならお目に掛かる事も出来ない立場だったの。それでも二人は出会って惹かれ合って。だけど御主人様には婚約者がいたの。公爵令嬢だった婚約者に邪魔をされながら、それでも御主人様と私は愛を深めて行ったわ。そして二人の間に愛の結晶を授かったの」

「それが、私?」

「いいえ。あなたの、多分お兄様よ」

「多分?」

「ええ。生まれて直ぐに、私が抱かないうちに、取り上げられてしまったの。本当に御主人様の子か確かめると言われて。でも報されたのはその結果ではなくて、亡くなってしまったと言う事だった。亡くなったからもう、御主人様の子かどうか関係ないと言われて、お墓も教えて貰えないのよ」

「病気だったのですか?」

「殺されたのに決まっているでしょう?公爵家が手を回して殺したのよ。そうでなければお墓を教えないなんてあり得ないでしょう?」


 墓を教えない事と殺された事がローザには結び付かなかったけれど、自分の母親だと言う人が産んだと言う幼児が殺されたと言う話が、ローザにはとてもショックだった。

 ローザは幼い頃、母親の事も恋しく思っていたけれど、兄弟と言う存在にも憧れていたのだ。


「そして結婚前に相手が誰だか分からない子供を産んだとして、私は御主人様とは結婚出来なかったの」

「え?でも、その子は御主人様の子だったのですよね?」

「もちろんそうよ。だけれどそれを証明出来なかったから、認められないって言われて」

「証明って?」

「血の繋がりを証明する魔法があるでしょう?」


 その様な魔法もローザは知らない。


「でも、赤ちゃんは死んでしまって、その魔法では証明する事は出来なかった」

「でも御主人様は?味方をしてくれなかったのですか?」

「当時は御主人様はただの跡取り候補だったから、父親である当時の侯爵が認めないと言えばそれまでだったのよ。私も御主人様に侯爵家を出て欲しくはなかったし。ほら、私はどんな苦労も御主人様とだったら耐えられたけれど、御主人様にはそんな思いはさせたくないでしょう?」


 苦労と言うのがどんな苦労なのか、ローザには分からない。貴族家を出て平民になる事が苦労なのかも知れないけれど、ローザはずっとその平民の生活しかした事がない。苦労の理解が出来なくて、ローザの眉間が僅かに寄った。


「それにほら、御主人様も私に苦労はさせたくないと言うし、それなので次の子を守ろうと約束したのだけれど、御主人様の婚約者の実家の公爵家が手を回して、私の実家が犯罪の濡れ衣を着せられて、取り潰しになってしまったの。そうなったらさすがに、侯爵家の跡取りとただの平民の娘が結婚する訳にもいかないでしょう?でも御主人様は、私の実家の無実を晴らすまで待っていて欲しいと言ってくれて。だけど国外追放を言い渡されて国から出る時に、公爵家が手配した盗賊に襲われて、私は命からがら逃げたのよ」

「それも公爵家が?」

「もちろんそうよ。家財なんてほとんどなかったのだから、ただの盗賊があんなに大人数で襲う筈ないわ」


 盗賊の事情に詳しくないローザは、そう言うものかと小さく肯く。


「それで御主人様に連絡を取りたいけれど、取る手段がなくて、もちろん手紙は送ったけれど、それは御主人様の手許には届いてなくて、私は仕方なく一人で逃げ続けて、あの街に辿り着いて身を潜めていたの」


 ここまでの話では、ローザが御主人様の娘として生まれる事はなさそうだ。そう思うとローザの眉根がまた僅かに寄った。


「でもね?御主人様はずっと私の事を探してくれていたの。そしてこの国に視察に来た時にお忍びであの街を通り掛かって。私は馬車を見て直ぐに御主人様だと気が付いて、御主人様の後を追ったわ。御主人様も直ぐに私に気付いてくれて、それから私は御主人様の視察に同行して、その時に跡継ぎ様とローザを授かったのよ」

「跡継ぎ様?」

「ええ。御主人様は婚約者と結婚していて、婚約者が正妻になっていたのだけれど、正妻ったら女しか産めないのよ。私の赤ちゃんを殺した罰よね?私が妊娠した事を知った御主人様は、今度は子供が殺されない様にと匿って下さって、そして跡継ぎ様が無事に生まれたの。正妻は女しか産めないのに、私は男の子を産めたの。正妻も跡継ぎ様の事は認めるしかなくて、跡継ぎ様は正式にバラローズ侯爵家の跡取りになったの。凄いでしょう?」


 凄いのかも知れないけれど、自分はいつ生まれたのか、ローザは良く分からなかった。


「跡継ぎ様は跡継ぎとして必要で、その跡継ぎ様を産んだ私の事はさすがに無視できなくて、でも私の実家の冤罪がまだ晴れていないから、跡継ぎ様は正妻が産んだ子として届けられているの。いい気味よね。御主人様と愛し合っている私が産んだ跡継ぎ様を愛を知らない正妻が我が子として接しなければならないのだから。正妻の実家の公爵家にも跡継ぎが生まれなくて、養子を取ったのよ?本当にいい気味だわ」


 このままただ待っていても、自分やダメルの話にはなかなかならなそうだと思い、ローザは質問をする事にする。


「お母様は今は御主人様や跡継ぎ様と暮らしているのですか?」

「・・・同じ敷地では暮らしているけれど、御主人様も跡継ぎ様も領地や政治の事で忙しくて、滅多に会えないわ」

「お母様が今暮らしている場所で、私も生まれたのですか?」

「違うわよ。正妻に見付からない様に、御主人様が匿って下さったって言ったでしょう?」

「そうすると、私が生まれるまで跡継ぎ様も一緒に匿われていたと言うことですか?」

「違うじゃない。あなたと跡継ぎ様は双子だったのよ?」

「双子?私は双子だったのですか?」

「そうよ。それで跡継ぎは跡継ぎ様しかいないから殺されないけれど、正妻が何人も女だけは産んでいるから、あのままだとローザは殺されるでしょう?」

「え?私が殺されるのですか?」

「当たり前でしょう?跡継ぎ様を自分の子とする事は正妻を苦しめるのよ?その気持ちの捌け口になるのは当然ローザじゃない」


 そこはローザには分からない。しかし女性は疑い様もないとばかりに言い切っていた。


「ローザも御主人様と私の愛の証だもの。正妻になんか殺させたくないでしょう?だから御主人様はあなたを逃がそうとして下さったのよ。それで私はあの街にあなたを連れて戻って、見込みがあったダメルにあなたを育てさせたの」


 どう考えても自分勝手な非道い話にしか思えず、ローザはまた気分が悪くなった。

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