狂っていく歯車
国境の関所を「光化」で抜けたライトたちは、ひたすら旅を続ける。やがて雪がちらつく季節になったころ、隣のセントバーナード王国の王都にたどり着いていた
「ここまできたら安心だな」
ライトは、巨大な城壁を見てそう思う。ここに来るまで何度も魔物に襲われていた。『光化の指輪』が無かったら確実に全滅していただろう。
「大きな町。それに冒険者たちがいっぱい」
ホリーは町に溢れるムキムキの男女をみて歓声をあげる。人族や獣人族など、多くの種族が集まっていた。
「なんでも、ここには『漆黒の穴』というダンジョンがあって、冒険者は中のアイテム目当てに集まっているみたいだぞ」
「楽しみ。私も挑戦したい」
ホリーはうきうきした様子ではしゃぐ。
「残念だけどお前はまだ小さいから無理だな」
「ぶぅ」
膨れる様子の妹の頭を、ライトは優しくなでた。
「もし将来冒険者になるんなら、お前はどんな職業になりたい?」
「えっと……魔物テイマーかな?私には合っていると思う」
「きゅい!」
ホリーの肩に乗っているイズナが、同意するように鳴いた。
「なら、ちゃんと学べる学校に通わないといけないな。とりあえず、部屋を借りるか」
ホリーと一緒に住める部屋を借りようと不動産屋を回るが、彼らが無職だと聞くと難しい顔をされた。
「無職の方はちょっと……保証人とか勤務先とかがないとねぇ」
「そんな!お金はあるんです」
そういって金貨を差し出すが、従業員は首を振る。
「残念ですが無理ですね。どうしてもというなら、冒険者ギルドに行って、冒険者チームに入れてもらうなどされたらいかかでしょうか」
そういわれて、ライトはしぶしぶ冒険者ギルドに向かうのだった。
そのころ、グローリー王国では異変が起こっていた。
光のオーブから発せられる聖光が弱まってきたのである。
「これはどういうことじゃ!なぜ光が弱くなる!そのせいで夜が暗くなり、生活に支障がでておる」
国王から怒鳴られて、ロックウェル宰相は汗だくになって弁解する。
「そ、それは冬になって、日中に吸収する光の量が少なくなったからでしょう」
「ばかな!今まではそんな事はなかったではないか!」
それを聞いた官僚の一人が、おそるおそる口にする。
「そ、それはシャイン家が光の魔力を補充していたからでは……?」
「なんだと!貴様、あの詐欺師を擁護するつもりか!」
宰相からぎろりと睨みつけられ、その官僚は恐縮する。
「い、いや、なんでもございません」
「ロックウェル。そう責めるでない。おそらくはそれが正しいのじゃろう。ふん。あの詐欺師どもも、まったく何もしてこなかった訳ではなかったのか」
国王は玉座でひげをひねりながら、不快そうに吐き捨てた。
「ともかく、国中から光魔法が使える者を集めよ、オーブに魔力を注入するのじゃ」
王の命令により、さっそく魔術師たちがオーブの前に集められる。
「よいな。このオーブに光の魔力を注入するのじゃ」
魔術師たちは必死になってオーブに魔力を込めるが。なかなか光のオーブは明るくならなかった。
「ええい!何をしておるのじゃ!」
「わ、私たちに無理です。このオーブの魔術式は難しく、完全に太陽光と同じ波長の光を当てないといけないので……長年その技術を継承していたシャイン家でなければ」
魔術師たちは首をふる。
「いいから、なんとかしろ!」
宰相は焦って怒鳴り散らす。グローリー王国の苦難は始まったばかりだった。
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