追放と出会い
深夜
高い城壁に囲まれた王都を追い出されたライトとホリーは、森の中を一心不乱に馬車を走らせていた。
「兄上。少し休めば?」
ホリーがそう勧めてくるが、ライトは首を振った。
「一刻も早く国外に出ないと。もしかしたら国境を封鎖されて捕えられ、ひそかに処刑されるかもしれない」
「まさか。陛下がそこまで……?」
「グローリー王国は信用できない。王都からの通達が国境警備の兵士に伝わる前じゃないと……危ない!」
突然、馬がいなないて転倒する。いつの間にかその首に矢が刺さっていた。
「そこの馬車!とまれ!。我らは宰相直属の騎士隊『月光の豹』である。おとなしく投降し、勇者の装備品を差し出すのだ!」
森から出てきた騎士隊に、馬車は取り囲まれる。ライトは袋から勇者の装備品を取り出し、必死に考えた。
「くっ。戦うしかないのか……?だけど、俺は戦闘の修行をしたことがない。今更武器を使おうとしたって無理だ。どうすれば……何か使えそうなものはないか?」
必死になって探すと、小さな指輪を見つけた。
「たしかこれは、『光化の指輪』だったな。この使い方は……よし!」
悩んだ末、鎧や剣を身に着けるのをあきらめ、指輪を装着する。小さなナイフやアクセサリーは袋にしまい、目立ちそうな大きなものだけを宝箱にいれた。
「所有者コード認証。『雷人』を新所有者と認めます」
脳内にそんな声が響き渡たり、使い方が伝わってきた。
「わ、わかった!投降する」
ライトは震えるホリーを伴い、素直に馬車を降りて宝箱を差し出した。
「ふふ……これが勇者の装備か。貴様たちのような餓鬼にはもったいない。これは俺が有効に使ってやる」
騎士を指揮していたロックウェル宰相の息子、パーシバルが宝箱を開けてニヤニヤと笑う。その中には光り輝く剣や鎧が入っていた。
「大人しく勇者の装備品を渡す。これで見逃してくれ」
ライトはそう哀願するが、パーシバルは首を振る。
「そうだなぁ……お前たちなんてどうでもいいんだが、そっちの女をよこすなら、お前だけは見逃してやってもいいぞ」
笑いながらホリーを指さす。ホリーは嫌悪の表情を浮かべて、ライトにしがみついた。
「いや。気持ち悪い」
「妹は渡さない」
ライトがきっぱりと断ると、パーシバルは勇者の剣を抜いて振りかざした。
「なら、二人ともこの剣の試し切りにしてやるよ!」
大きく振りかぶって真っ二つに切断しようとする寸前、ライトの指輪が輝いた。
「よし。『光化』」
ライトとホリーの姿が拡散し、光の霧となっていく。
「な、なんだこれは!」
慌てたパーシバルが切りつけるも、剣は空を切った。
次の瞬間、光の霧が超スピードで動き出す。
なすすべもなく立ち尽くす騎士たちをすり抜け、光の霧ははるか遠くの山に移動するのだった。
「うまくいったな」
「兄上。すごい」
二人の姿が実体化する。彼らは傷一つ負う事なく逃走に成功していた。
「この『光化の指輪』を身に着けていて正解だったな。魔力チャージ満タン状態で自分たちを光の幻体に変換できるアイテムだ。でも、他の大部分の装備品は取られてしまったな」
「問題ない。お金は持ち出している」
ホリーはちゃっかりと身に着けていた勇者の袋を掲げて胸を張る。
「そうか。よし、先に進むぞ」
二人は暗い山の中を進んでいった。
しばらく進むと、川の音が聞こえてくる。
「兄上、喉が渇いた」
「よし。水を補給しておこう」
警戒しながら川に近づいていくと、何か動物の鳴き声が聞こえていた。
「何かいる。『光明』」
ホリーの手から光の玉が現れ、上空に浮かぶ。オレンジ色の光に辺り一帯が照らされた。
「きゅい!きゅい!」
瓦を見ると、真っ白い子狐が黒い大ネズミの集団に襲われている。
「あれは、ホワイトキツネとダークラット!このままだと死んじゃう」
止める間もなく、ホリーが駆け出していく。慌ててライトも続いた。
「あっちへいけ!」
ホリーは傷付いた子狐を抱き上げ、ラットたちを睨みつけた。
「キイッ!」
邪魔されたラットたちは一度はホリーに追い払われるも、牙をむきだして威嚇してくる。そして一斉にとびかかろうとしてきた。
「やめろ!『極光明』
とっさにライトはホリーをかばって、全身から強い光を放つ。
「ギャッ!」
目をやられたラットたちは、退散していった。
「兄上。ありがとう」
「ああ。それより、そいつは大丈夫か?」
ライトはホリーにだかれている子狐を見る。あちこちで出血しており、噛まれたところが黒く染まっていた。
「ダークラットって弱いけど危険な魔物。牙には「うぃるす」がいて、感染すると致命的な病気になる」
「やばいな……助けるぞ。協力してくれ。UV波長260の光を放つんだ」
「うん」
二人が協力して目に見えない光ー紫外線を放つ。黒くなっていた部分は、みるみるうちに元の白さを取り戻していった。
「きゅい?」
ぐったりとしていたホワイトキツネは、目をあけて一声鳴く。
「よし。あとは傷薬を塗れば回復するだろう」
傷口に薬を塗りこみ、絆創膏を貼る。キツネは大人しくなすがままになっていた。
「これで大丈夫だけど、どうするかなぁ。ここに放置しておいたら危険だし」
「私が面倒を看る」
ホリーは子狐をしっかり抱いて、離そうとしない。キツネのほうも大人しくしていた。
「しょうがない。連れていくか」
「うん。この子の名前はイズナ」
こうして、旅の仲間にイズナが加わった。
「そうか。奴らには逃げられたのか……」
息子パーシバルから報告を受けたロックウェルは残念そうな顔になる。
「父上。ですが勇者の装備品は回収できました。屋敷の接収もすでに済んでおります」
パーシバルは光り輝く剣や鎧などを並べてみせる。
「おお、これが勇者の装備品。これさえあれば、我らが新たな勇者の一族として、グローリー王国で覇権を握ることができる」
ロックウェルは感慨深そうに装備品をみつめる。
「伝説によれば、勇者の使った光魔法はどんなに遠くの敵でも打ち倒したり、集団の敵を昏倒させたり、一瞬で遠く離れた場所にも移動できたらしい。それらの力を身に着ければ、グローリー王国をのっとる事も可能。息子よ、さっそく装備してみるのだ」
「お任せください」
パーシバルは勇者の装備品を装着する。
「どうだ。何か感じるか?」
「いえ、特に何も」
首を振るパーシバルに、ロックウェルは眉をしかめた。
「ぬう……まだ修行が足りぬということか。息子よ。新たな勇者として認められるように、精進するのだ」
「お任せください」
パーシバルは自信たっぷりに胸を叩くのだった
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