追放される
看病の甲斐なく、サンダーは死去した。ひそやかな葬儀を済ませた後、ライトは国王に呼ばれた。
「ライトよ。そなたたちシャイン家の伯爵位をはく奪し、我が国から追放する」
そう怒鳴りつける国王の顔は、成人の儀の時とはうって変わって憎しみに溢れていた。
「な、なぜですか?我が家は初代勇者以降、常に誠実に王家に仕えておりましたのに」
そう反論するライトを、国王はつばでも吐きたそうな顔でにらみつけた。
「どの口でほざくか。この詐欺師め」
「詐欺とは……?」
訳が分からないという顔になるライトを、国王は軽蔑の視線で一瞥する。
「貴様たちは、自分たちが光のオーブを管理しているから魔物は王都に近づけず、この国の平和が維持されているとほざいた。夜は明るく、冬は暖かく、聖なる力で疫病も防がれているとな。しかし!」
つばを飛ばして、ライトを罵る。
「お前は一か月も父親の看病にかまけていて光のオーブを放置していたが、何事も起こらなかったではないか!」
「そ、それは、宰相様に止められていたのです。今はたまたま秋の時期で、日中に吸収する光の量と夜間に放出する光の量が釣り合っていただけで、冬になれば明りは弱まり、寒さでこごえるようになります!」
必死に弁解するが、国王は聞く耳を持たない。
「言い訳は良い。追放は、いままで勇者の功績に胡坐をかいて何も国家に貢献せず、高給をむさぼりつづけていた罰じゃ!」
「し、しかし、我々は勇者の子孫として、この国を守護する役目があります。明りとしての役割のほかにも、「光のオーブ」に光魔法を込める事で「細菌」という小さな生物を殺すということもやっております。そのおかげで、王都では、何百年も疫病に無縁で……」
それを聞いて、今度は宰相が嘲笑った。
「ふっ。勇者の言い伝えか。病気の原因は目に見えない小さな生物だとか。そんな戯言、今の時代に信じる者はおらん」
宰相は王の間に集った貴族たちを見渡す。彼らからも見下したよう視線が向けられた。
「ですが……」
「くどい!父を助けることもできなかった無能が何をほざくか。現にお前の光魔法でも、サンダーを治療できなかったではないか」
そう決め付けられて、ライトは何も言えなくなった。
「日が沈むまで時間をやる。その間に出ていかねば、罪人として処刑する。騎士ども、この詐欺師を城から追い出せ!」
騎士たちが駆け寄って、問答無用でライトを連れ出す。こうしてシャイン家は追放処分になるのだった。
シャイン家
家に戻ったライトは、ホリーに出迎えられた。
「兄上。どうだった?」
不安そうに聞いてくる妹に、ライトは力なく告げた。
「……残念だが、伯爵位ははく奪されることになった。それだけじゃなくて、追放だとさ」
「なら、すぐに逃げないと。セバスチャン」
「はっ。お嬢様」
忠実な執事がやってきて、小さな袋を差し出してきた。
「これは?」
「勇者マサヨシが使っていた『勇者の袋』でございます。このサイズで、家一軒分の物が収納できる、国宝クラスの宝物です」
袋の中に手を入れてみると、中にはいっている物の目録が脳裏に浮かぶ。中には、ライトとホリーが生活するのに困らないほどの金貨と食糧、服などが入っていた。
『所有者コード変換。ライト・シャイン、ホリー・シャインを新所有者として認識しました』
脳内にそんな声が響き渡り、袋にシャイン家の家紋が浮かぶ。
「他の勇者の装備品も中にいれております。お坊ちゃま、お嬢様。一刻も早く出立を」
「わかった。元気でな」
こうして、ライトとホリーは馬車にのって王都を旅立つのだった。
屋敷から外に出ると、大通りには国民が集まっていた。
「詐欺師め!長年にわたって高給を取りながら、何一つ国に貢献してこなかった非国民め!」
「勇者の名声を汚す恥知らずめ!グローリー王国から出ていけ。二度と戻ってくるな!」
今迄勇者の一族と持ち上げていた国民たちも、馬車に向かって石を投げてくる。
騎士たちによってシャイン家が長年にわたって詐欺を行っていたと周知され、国民たちは日頃たまった鬱憤をライトたちに向けて晴らしていた。
その様子を王宮のテラスから眺めていた王と宰相は会心の笑みを浮かべている。
「私が言った通り、奴らを追放しても何の問題もなかったでしょう」
宰相は頭上で輝く光のオーブを見上げながら勝ち誇る。オーブは相変わらず輝き続け、日光を吸収していた。
「ああ、宰相の進言に従ってよかった。あやうくあの詐欺師の一族に騙され続けるところだった。できることなら奴らを処刑したいところじゃが」
国王は憎々しげに吐き捨てるが、宰相は慌てて首を振った。
「さすがに、勇者の一族を処刑するのは他国に対して外聞が悪うございます」
「わかっておる。じゃが、長い年月を王都で過ごした結果、戦う力をなくしたとはいえ、腐っても勇者の一族じゃ。勇者の装備品も所持しておる。もし他国に亡命して、力を取り戻して我が国に侵攻してきたら……」
不安そうな顔になる国王に、宰相は自信満々の笑みを浮かべた。
「すでに手は打っております」
そういうと、宰相は不気味に笑うのだった。
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