1話 ワタルのおもてなし計画
しっかり来訪した男爵様を型に嵌め、その父親の伯爵様とも交渉してトヨウミ商会南の大陸支店とヨーテボリの町に便宜を図ってもらえることになった。メアさん達の生活環境もしっかり整えられたので、心置きなく帰還の決断ができた。そして、ヨーテボリの沢山の人達に見送られながら港を出港する。
「色々と大変でしたが、なんだかんだ充実した日々でしたね」
自発的に沢山の人達に見送られることなんてなかなかないことだから、自分の頑張り、まあ、ほぼ荷運びだけど、頑張りが報われたようで幸せな気分になる。
「あら? でも、ご主人様、メアを置いてきて良かったの? あの様子だと言えばついて来てくれたわよ? メアの部下も頼れそうだったしね」
「イネス……分かっていて言っているでしょ?」
たしかに言えばついて来てくれそうだったけど、僕がそんなメアさんに若干引いていたのも理解しているはずだ。まあ、それでもメアさんは魅力的な女性で度々ドキッとさせられていたので、その辺りを踏まえたツッコミなんだろうな。
惜しい気持ちがないわけではないが、メアさんに関してはサイモンさんにお任せしたい。
「ふふ、ごめんなさい」
僕の予想通りだったようで、イネスが軽く笑って謝る。僕は根に持つタイプだからな、キャッスル号に行ったら、ベラさんにイネスのあれやこれやを言いつけることにしよう。
特にカジノで負けまくっていることはしっかりと伝えておかないとな。
サポラビの意識を解放してから、そのサポラビに上手に転がされまくっているらしく負けが込んでいる。
今回のヨーテボリ関連でみんなにはかなりお世話になったので、ジラソーレは当然としてイネスとフェリシアにも特別報酬を出す予定だが、おそらくイネスはこの航海の間にその特別報酬も全部溶かすと思う。
「さて、では自由行動にしましょうか。ヨーテボリでは忙しかったので、久しぶりののんびりした時間を楽しみましょう」
毎日の荷運びやら街の復興やら店舗営業やらが地味にプレッシャーだったからね。
そのプレッシャーから解放されて、北の大陸までの間、豪華客船の素晴らしい環境でのんびりできるのは最高の幸せだ。
北の大陸に戻ったら定期航路のこともあるし獣人の町のこともある。ダークエルフの島にもよる予定だし、また忙しくなりそうだからしっかりと英気を養わないとな。
まあ、僕は数日休んだら、光の神様方を出迎える準備に動き出すんだけどね。でも、これはお仕事ではなく、デートのプランを考えるようなものだから、全然苦じゃない。
でも、とりあえず今は後に仕事が控えていない解放感をしっかりと楽しむことにしよう。
***
「今回は少し長く……おそらく八日ほどかかりますので、後のことはお願いします。リムもペントもごめんね。でも、イネスとフェリシアの言うことを聞いてちゃんと良い子にしているんだよ?」
女神様方との逢瀬……とまでは言えないがデートくらいのイベントだと信じている僕としては八日だろうが十日だろうが一ヶ月だろうがドンと来いなのだが、リムやペント、そして女性陣と離れることになるのだけは残念だ。
僕の両手にスリスリと体をこすりつけるリムとペントをみると、とても後ろ髪が引かれる。
「リムちゃん、ペントちゃん、ご主人様は大切なお仕事に向かわれるのですから、あんまり困らせてはいけませんよ。さあ、こちらに」
僕が後ろ髪が引かれまくっていることを察したフェリシアが、リムとペントを優しく引き取ってくれる。
フェリシアは無論、イネスとジラソーレの面々は僕が何をしに行くか察しているので、八日もの長期間の海上停泊を文句も言わずに受け入れてくれる。
唯一ドナテッラさんだけは少し戸惑っていたが、長く付き合えばいずれ彼女も事情を察する機会もあるだろう。
ただ、フェリシアが言ったように女性陣の認識は大切なお仕事、無論大切じゃないなんて口が裂けても言えないイベントだし、創造神様や他の神々を接待する時などは本気で大変なのだが、今回は御褒美でしかないんだよね。
そこだけは少し申し訳なく思う。まあ、言わないんだけどね。
家族に仕事に行くと言って、仕事関係の仲が良い人と遊びに行く感じだろうか?
全部が嘘ではないけど……的な……まあ、就職もしたことがないし結婚もしていないから想像でしかないが、リムとペントを我が子と考えたら妙にシックリと来たのでそれほど間違ってはいないのだろう。
すまない我が子達よ、パパはお仕事というには微妙なお仕事に行ってくるよ。
最後にリムとペントを一撫でして、女性陣に後のことを頼んでルト号に乗り込み、シャトー号から離れて更に外海に向かう。
今回はシャトー号をこの場に残して、女神様方はクリス号でおもてなしするつもりだ。
派手なシャトー号でお出迎えも考えたが、今回は三女神様限定の招待だし、クリス号のラグジュアリークラスだからこそもつ高級で落ち着いた雰囲気でおもてなししようと思っている。
そして女神様方の滞在は七日の予定なのに滞在期間を八日に設定。つまり、一日前乗りしてしっかり準備をしようということだ。
気合が入りすぎかもしれないが、招待する方々が方々なので、準備に一日しか掛けないのは駄目なんじゃないかと思わなくもない。
「この辺りでいいかな?」
あんまり走り続けると、外海の魔物が集まってきてしまう。レベル上げや素材回収の為に散々狩りまくった海の魔物だが、僕一人の時に集まってこられても対処に困る。
ここまでも何度か魔物が集まってきて、その都度、全力で振り切ってきたので、魔物が集まらないうちにクリス号を召喚してしまおう。
そして次から一人で外海に出る時は魔物を振り切りやすいガレット号で移動することにしようかな?
前にも同じことで悩んだ気がするが、一人でパワーボートに乗るのも地味に怖いんだよね。だって僕、スピード狂じゃないし……。
自分の持ち船なのに使いこなせていない悲哀を感じながら、クリス号が召喚される魔法陣に飛び乗る。
乗船する場所は移動しやすいロビー、見慣れたこの場所に出現するとサポラビ達が出迎えてくれる。
相変わらず苦手意識は拭えないが、こうやって出迎えなどの自己判断をする姿を見ると意識解放のメリットをひしひしと感じる。
これまでも問題を起こしたりしなかったし、可愛らしい外見を活かして人気者だったが、ホスピタリティを考えると意識解放状態に分があるのは間違いない。あくまでも僕の内心を無視したらの話だけどね。
「みんなおはよう。今回は特別なお客様を三名お出迎えすることになるから、みんなも気合を入れて仕事に励んでほしい」
内心は複雑だが、光の神様方に喜んでいただくためなら僕の内心なんてくそくらえだし、引け目があるサポラビ相手だろうとも全力で使い倒す覚悟だ。
僕の言葉を聞いてコクコクと頷くサポラビ達。
召喚した時点で新品同然なので掃除の必要がないから、ここからは女神様方に合わせてクリス号をカスタムしていく。
「お客様方が使用するのは当然最高級のペントハウス。一室には僕が用意するお酒を満載にしておくこと。もう一室は観葉植物を船内の至る所から集めて飾っておくこと。最後の一室は……こちらも僕が用意する雑誌を綺麗に並べておいてほしい」
最初は光の神様の部屋。
光の神様は日本のビールがお気に入りだし、温泉を用意しておけば仕事を忘れて楽しんでくれるのである意味とても楽なお客様だ。
ただ、一人でのんびり楽しむ方だから、あまり接触すると邪魔になるし、接触しないと僕がとても寂しいのでそのあたりのバランスが難しい方でもある。
次の部屋は森の女神様の部屋。
森の女神様だけあって、部屋に植物が多い方が喜んでもらえる。無論、やり過ぎてジャングルのようにしてしまうと……意外と喜んでもらえそうな気がしないでもないが、豪華な部屋が台無しなのでこちらもその辺りのバランスが難しい。
まあ、サポラビに配置を任せて、僕が確認、駄目だったら再配置を繰り返せばなんとかなるだろう。
そしてある意味一番難しいのが最後の部屋に美食神様。
美食神様って基本的に部屋にいないんだよね。船内の様々なキッチンで料理に夢中になってしまうし、料理をしていない時は光の神様や森の女神様の部屋に行き、作った料理でのんびりお酒を酌み交わすのがデフォルトだ。
だからまあ、部屋には料理関係の書籍を並べて、サービスは他の部分で頑張らなければならない。
だがしかし、今回は大丈夫。
新しく作った料理道具とアンコウなどの特殊な食材。そして新しく増えた屋形船。これらがあれば美食神様の興味を引けるのは間違いない。
調理する場所は……広いしメインダイニングの厨房を利用すれば良いか。
そこに調理器具を綺麗に並べておいて……食材は鮮度が大切だから、ギリギリまでゴムボートに保管だな。
そうだ、提供する食材は一つのゴムボートにまとめておいた方が効率的だな。
えーっと、主に海鮮だけど人魚の国で手に入れた魚介類は外せないな。野菜は鮮度が良い物をこの世界の物と他の豪華客船やフェリーから手に入れた物も用意しよう。
それに、これは当初の予定にはなかったのだが、古竜のお肉も準備しておくべきだろう。
……ん? この一週間の中で美食神様を含めた三女神の方々にふぐの美味しさを堪能していただくつもりなのだが、この世界のふぐも用意しておいた方が良いのでは?
でも、地球のふぐを捌く知識があったとしても、この世界のふぐに適用できるかどうか微妙だよね。
……でも、まあ一応用意しておくか。
たぶんふぐは強烈な毒を持つ魚だから、最初から調理の対象になっていなかった可能性が高い。
なら美食神様なら必ずこの世界のふぐの調理に挑戦してみたくなるはずだ。そこに僕が用意しておいたこの世界のふぐを差し出せば……いける!
よし! ……ふぐってどうやって捕獲すればいいんだ?
畜生、まだお出迎えの準備すら始まっていないのに時間が足りないかも。前乗りではなく前々乗りにするべきだったか?
読んでいただきありがとうございます。




