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めざせ豪華客船!!  作者: たむたむ
第十七章
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11話 無駄ゾーン

 グレートワームの体内でカーラさんと合流し、地上に脱出するための行動を開始した。体内にハイダウェイ号を召喚し船を固定、その後、痛みによる誘導を一時間以上積み重ね、ついにグレートワームを地上に誘導することに成功した。




 グレートワームが地上に飛び出し僕の体も上を向く。ロープで体を縛り付けていなければ、真っ逆さまに落ちてしまっただろう。


 マリーナさんの殺すのよ! という悲鳴のような珍しい指示にビックリして変なスイッチが入ったのか、なぜか走馬灯のように周囲の状況がスローになった。


 いきなりのことで驚いたが、もしかしてこれがスポーツ漫画で切り札扱いされるゾーンというやつなのだろうか? たしか極限の集中力がどうたらこうたらってやつだったはず。


 ビックリしてゾーンに入るというのに違和感があるが、非常事態の最中だしレベルアップで強くなってはいるのだから、凡人の僕でもゾーンに入れたのかもしれない。


 それにしても凄い。これが極一部の天才にしか見ることができない世界なのか。


 スローになったおかげで、今まで早すぎてよく分からなかった女性陣の技術がハッキリと見える。


 イネスとフェリシアが素早く杖を振ると、複雑で緻密で美しい魔法陣が描かれ、そこから炎や雷が飛び出していく。


 僕が落とさないようにしっかり抱っこしているリムから、ホーリースピアが発射される。


 マリーナさんが腰に付けたナイフを引き抜き、なにやら力を込めた後に素早く投擲する。


 素晴らしい技術で投擲されたナイフはグレートワームの内壁に突き刺さる。でも、怪獣のような巨体のグレートワームにナイフって、ダメージが小さすぎるだろうと思ったら、突き刺さったナイフが激しく爆発した。


 初めて見る技だし、もしかしたら切り札的なナイフだったのかもしれない。


 切り札を使うほどグレートワームの体内に居るのが嫌だったのか、慣れないリーダーポジションにストレスが溜まっていたのか、どっちなんだろう?


 ……知らない方が幸せな気がする。


 変なことに注意が逸れていると、カーラさんが大楯を構えて、むーん、といった様子で力を込め始めた。何をしているのかは分からないが、一生懸命頑張っている感じがとっても可愛らしい。


 でもカーラさんって海上の魔物討伐の時って、遠距離攻撃は投擲で対処していたはずだ。ここで力んでどうするつもりなんだろう?


「……て……や!」


 なんだかゆっくり聞こえる声と同時にカーラさんが大楯を勢いよく前に突き出した。


 普通なら突き出しただけで終わるはずなのに、なぜか大楯が分裂……というか大楯の形をした魔力のようなものが飛び出す。


 その大楯を模した魔力のような物が内壁にぶち当たり、貫いてそのまま外に飛び出した。


 あぁ、空が青いなー。


 ……今は空の青さに感激している場合じゃないな。


 あの大楯が飛ぶ奴はカーラさんの必殺技かな? 凄い威力だ。


 さて体に穴が開いたわけなのだけど、これでグレートワームは死んでくれるんだろうか?


 あっ、頂点に達したのかハイダウェイ号の角度が正常に戻り、そこから今度は下に向かって落下し始めた。


 このまま地面に到着する前に殺せれば問題ないのだけど、ちょっと難しそうな気がする。


 よく考えたらミミズって体を半分にちぎられても、しばらく生きていたりするよね?


 今更だけど穴が開いたくらいでは死にそうにないし、体を真っ二つにしたとしても殺しきるのは間に合わない気がする。


 下手をしたらグレートワームは落下の勢いを利用して、また地下深くまで潜ってしまう。


 それは嫌だなー。脱出が面倒になる。


 あっ、地上に出ているんだから、ここで豪華客船を召喚しちゃえばいいんじゃないかな?


 砂の中での召喚はどんなことが起こるか分からないから怖かったけど、空中ならリスクはそれほど高くない。


 グレートワームの体内でハイダウェイ号も召喚できたし、いける気がする。


 さすがゾーン、極限の集中力と言われるだけあって、僕にしては状況判断が的確な気がする。


 よし、頑張っちゃうぞ。ん? マリーナさんが何か叫んだ?


「ふへ?」


 機転が利くところを見せるために、シャトー号を召喚しようとしていると、突然マリーナさんが叫び、なぜかイネスが僕に剣を向けている。


 どういうこと? 僕の力でピンチを切り抜けるカッコいい活躍を想像していたから、状況が呑み込めない。


 イネスが剣を振る。攻撃かと思ったが、剣の軌道は僕に当たらないコースをたどっているように見える。


 イネスの剣が僕とハイダウェイ号を結び付けていたロープを断ち切った。なんで?


 そのままイネスが僕を抱え込む。なんで?


 えっ、ちょっと待って。今落ちている途中だよ? なんでハイダウェイ号から外に出ようとしているの?


 うわ、飛び出しちゃった。


 あっ、分かった。でも分かりたくなかった。


 僕の目線の先には先頭を飛ぶマリーナさん、続いてフェリシアがグレートワームに空いた穴から飛び出していく。


 そして僕を抱えたイネスが飛ぶ。視線の先には先ほど見たまばゆいばかりの青空が目に飛び込んでくる。


 たぶん僕達の後からはカーラさんが飛び出してくるのだろう。


 そうですね、グレートワームを殺しきるのを諦めて、穴が開いたから脱出を選択したんですね。


 状況は理解できたんですが、できれば僕にも事前に説明してほしかった。


 ……そういえば、イネスが剣を振る前にマリーナさんが何か言っていたな。あの時に説明していたのかもしれない。


 うん、話を聞いていなかった僕が悪い。


 現実逃避したいが悲しいことに極限の集中力が仕事を休んでくれず、自分の現状を明確すぎるくらいに教えてくれる。


 空を飛んでいます。というか落ちています。


 偶然かタイミングを見計らったのか分からないが、おそらく三階建ての建物の屋上くらいの高さ。


 普通なら大怪我だが高レベルで下が砂地なので、この高さから落ちても大丈夫っぽいのは安心材料だ。


 でも高いところからゆっくり落ちていくのが、意味が分からな過ぎて怖い。本当なら一瞬で地面に到着するはずなのに、なんで集中力が解けてくれないの?


 ゆっくりと近づいてくる地面、なんだか砂の一粒一粒まで認識できている気がする。



 ……ようやく地面に到着した。イネスが僕をギュッと抱きしめてくれるのが分かる。イネスはそのまま足を着き膝をクッションにして勢いを殺し、そのままゴロゴロ回転するように砂漠に転がる。


 凄いぞ僕の集中力、無駄に細かいところまで……あっ、地面が僕の顔面に近づいてくる。


「うぷっ」


「ご主人様、大丈夫!」


「ぷへっ、ゲホ、うん、大丈夫、イネスは?」


 どうやら砂に顔面がめり込んだ影響でゾーンが解けたらしく、世界が日常に戻る。


 あはは、ゾーンというスペシャルタイムに突入したのに、仲間の技の観察で終わってしまった。


 ちょっと泣いてもいいですか?


「私も大丈夫よ。じゃあご主人様、走るわよ」


「へ?」


 精神的にひどく疲れたから休憩したいのだが、イネスが僕の手を引っ張って走り始めた。


 あっ、そういえばグレートワーム、そう思って走りながら振り返ると、ハイダウェイ号で膨らんだお腹が見事につっかえ棒になって、体が地面に潜り込めずに止まっている。


 そして、地中に潜り込めなかった部分が、こちらに向かって倒れ込んできている。


 流石に船を召喚している時間はないな。よし、全力でダッシュだ。



「これ、どうしましょう」


 なんとかグレートワームの下半身の襲撃からは逃れられた。


 問題はその後、グレートワームはしぶとく生きているが、どうやら妙なぐあいにハイダウェイ号のふくらみが引っかかったらしく、上手に地中に潜り込めなくなっている。


 あの膨らみのままでも地中を移動できていたはずなのだが、地中で移動するのと地中に潜り込むのでは、かかる負担が違うのだろうか?


 ……まあそれはいい。問題は地中に潜り込めなくてパニックを起こしているのか、下半身を扇風機のように振り回して近寄れないことだ。


 砂埃も酷いし暑いしで環境は最悪だ。とりあえずパル号を召喚しよう。


 パル号を召喚し、エアコンをガンガンに効かせて一息つく。


「ハイダウェイ号を送還しますか?」


 送還すれば再び地中に潜れるようになるから、この場の惨状はおさまるはずだ。


「うーん、まだこの危険地帯を旅するから、アレを放置するのは心配。この場で始末する」


 マリーナさんは始末に一票。たしかに旅の間にまた呑み込まれたら最悪だよね。イネス、フェリシア、カーラさんも同意見なようで、グレートワームの討伐が決定した。


 巨体だけど身動きは取れないんだから、どうにでもなるよね。




 ***




 グレートワーム、めちゃくちゃしぶとかった。


 下半身を穴だらけにしても死なないし、体を半分に千切っても死なない。どうしたものかと困っていたら、グレートワームが頭を地面からだしたので頭を潰してようやく死亡。


 どういう理屈かは分からないが、グレートワームは頭を潰さないとなかなか殺せないらしい。


 グレートワームと戦う時は頭がどうなっているかが重要ということを、僕は身をもって体験した。 


「この巨体、どうします? というかグレートワームってお金になるんですか?」


 もし確保するとしたら、ゴムボートが何艘ひつようになるんだろう? というか砂漠の灼熱の暑さの中で、この巨体の解体作業とか地獄だよね。考えるだけでやる気が削がれる。


「皮は丈夫だから鎧やテントにも使える。体液も何かの薬に利用できるらしい。あと、肉も食べられるけど……食べたい?」


 ……食べたくない。サソリやトカゲ以上に難易度が高いのは無理だ。


「ちょっと食べてみたい」


『……りむ、たべる……』


 僕、イネス、フェリシアは首を横に振るが、食いしん坊なカーラさんとリムは食べる気満々の返事をする。


「え? ふうちゃんも食べたいの?」 


 マリーナさんの胸の谷間からポヨンとふうちゃんが飛び出してきて、マリーナさんが焦っている。どうやらふうちゃんもグレートワームのお肉が食べたいらしい。


 それにしても、ふうちゃんがどこにいるのかと思っていたが、あんな素敵な場所に収納されていたのか。普通に羨ましいい。


「魔石とお肉を少しだけ……ゴムボート一艘分だけ確保しましょう」


 マリーナさんがふうちゃんに負けた。


 まあ僕もリムとカーラさんが望むのなら拒否できないし、しょうがないよね。肉体労働、頑張ろう。


読んでくださってありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] そうだね。最優先事項が討伐じゃなくて脱出なのに、せっかくゾーンに入ってて船を召喚する手前だったのに着地前に船召喚できなかったり、タイトル通り無駄ゾーンでしたね。
[良い点] こういうすごいことしているけど 主人公目線だとうまくいえないってのは面白いなー [一言] タイトルで笑ったわ
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