25話 予想外の結末
新年明けましておめでとうございます
今年も更新を続けますのでどうぞよろしくお願い申し上げます
たむたむ
魔王四天王の一人、焔。噛ませ犬だと思っていたが、思いのほか実力者で少しビックリした。四天王で最初に出てくる相手は噛ませ犬なのがテンプレなのに、このダンジョンは空気が読めなくて困る。
焔を撃退し、更にダンジョンを煽るためにハイダウェイ号で大いに飲んで食べて騒ぎまくった。
たが、煽りに関しては効果がなかったようで、翌日も翌々日もその次の日も、平穏でただ楽しいだけの日常が繰り返された。
楽しいから問題はなかったのだが、ダンジョンの中なのになんの変化もないのはどうかということで、ダンジョンから出て様子を見ることにした。
それから一週間。焔を倒してから十日、僕達はある一つの問題に直面している。
「アレシアさん、どうでした?」
ダンジョンの様子を見に行っていたアレシアさん達が戻ってきたので、僅かな希望を込めて尋ねる。
まあ、アレシアさん達の表情が冴えない様子なので望み薄なのは理解しているが、そろそろ面倒になってきたから悪い方向でもいいから変わっていてほしい。
「駄目ね。今日も変わりなしよ」
「そうですか」
……駄目だったか。
これで約十日、ジェットコースターが壊れたまま修復されていない。
壊れたのがジェットコースターの試練ではなければ壊れたままでも問題はなかった。別の試練に挑戦すれば良いだけだからだ。
でも、ジェットコースターは違う。最終試練という位置づけで、これをクリアしないと先に進めない重要な試練だ。
その試練が復活しない。
ダンジョンの物が壊れた場合、早い時には数時間、遅くとも翌日にはいつの間にか修復されているのが普通らしい。
ただ、壊れた部分に人が居ると修復されないそうなので、煽るのを諦めた僕達はダンジョンの外に出た。
そろそろジェットコースターの試練が復活しただろうと、翌日にダンジョンに入るとまだ復活していなかった。
休眠明けのダンジョンだから時間が掛かるのかもしれないと、その日は諦めてダンジョンの外に出た。
その翌日もジェットコースターの試練は復活していなかった。翌々日もその次も……結局一週間経ってもジェットコースターは復活していない。
何か復活に別の条件があるのかもと、他の試練に挑戦しようとしたが、試練の度に現れていた道化のドラゴンも現れず、施設に侵入しても魔物一匹姿を現さなかった。
城に入ってみようとしても、どこも固く閉ざされていて無反応。
「なんか完璧にダンジョンから無視されていませんか? もしかして嫌がらせをし過ぎてダンジョンがスネたなんて……あはは、ありえませんよね、そんなこと……」
ダンジョンに意志があったとしても、子供じゃないんだからスネてダンジョンの施設を復活させないなんてあるはずがない。
「あたりまえよ、そんなふざけた理由で試練を復活させないなんてありえるはずないわ。ね、そうよねイルマ」
嫌がらせ計画の発案者であるアレシアさんが僕の言葉に同調し、すがるようにイルマさんに声をかける。
言葉では否定しているが、アレシアさんもやり過ぎたと思っているのかもしれない。
「ダンジョンはいまだに解明されていないことの方が多いわ。だからダンジョンがスネた可能性も否定できないわね」
マジで?
「ということは、もう僕達はこのダンジョンに挑戦できないということですか?」
出禁ってことですか?
あれ? 別にこのダンジョンが楽しい訳でもないんだし、それならそれで別に構わない……いや、そうなるとダークエルフの島に禍根を残すことになるから駄目だな。
このムカつくダンジョンはできれば再起不能にしておきたい。
「うーん、その可能性もあるけど、私は別の可能性の方が高いと思うわ」
「どういうことですか?」
亡ぼすチャンスがあるのなら大歓迎です。
「今は勝ち目がないとダンジョンが考えて、私達に勝てるように力を蓄え始めた。その力が溜まるまでは、先に進めないように施設を修復しないということじゃないかしら?」
「えっ? それってありなんですか? だったら誰もダンジョンを攻略できないじゃないですか」
負けそうになったら勝てるようになるまで我慢する。正しい選択ではあるけど、ダンジョンとしてそれはどうなの? チートじゃん。
「攻略されたダンジョンは存在するから全部に当てはまるとは思わないわ。でも、今回はそれが可能だと思うわ」
サッパリ意味が分からない。チートは駄目だよね? だってチートなんだもん。
「意味が分からないわ。イルマ、詳しく説明してちょうだい」
よかった、意味が分からないのは僕だけじゃなかったようだ。
「少し長くなるけど、構わない?」
「ええ、どうせやることもないのだし、詳しく聞かせてちょうだい」
アレシアさんの要請で、イルマさんのダンジョン講座が急遽開催されることになった。
久しぶりの授業、ちゃんと理解できるかが不安だ。
***
なんとか理解できた。
そして、イルマさんの仮説が正解のような気がする。
ダンジョンにも行動に制限がある。
これはほぼ間違いないと考えられているそうだ。
そう考えられている理由は、ダンジョンで無意味な破壊や大規模な破壊をおこなうとしっぺ返しが起こることから推測されている。
そのような行為が起こって初めてダンジョンは強烈な仕返しをするのだが、普通に攻略した場合は、滅ぼされると分かっているのに魔物の大群を送り込むようなことをダンジョンはしない。
そうすれば助かると分かっているのにだ。
だからダンジョンの攻略側が何かしらのルール違反を犯した時、ダンジョンの制限も緩和されるのではと推測されている。
なんとなく納得できる。
無差別に魔物を送り込めるのなら、誰もダンジョンを攻略なんてできないもんね。
そして今回のダンジョンが施設を修復しないという行為。
これに関してもイルマさんが仮説を立てた。
魔物の集団から僕達が生き残ったことで、更に制限が緩和されたのでは? ということらしい。
これは他に事例がないから本当にただの仮説だとイルマさんは念押ししていたが、たしかに可能性はあると思う。
他に事例がないのは微妙だが、ダンジョンのしっぺ返しから生き残ること自体が奇跡的なことらしいので事例がないのも当然といえる。
そして奇跡的に生き残ったとしても、怪我一つなく、何も失わずに余裕で脱出なんてことは、僕達みたいなチートがない限り奇跡に奇跡を重ねなければ不可能だ。
ほとんどが全滅。奇跡的に助かっても、大怪我や仲間の大半を失うなど、パーティとしての機能は壊滅状態。
そうなった時点でダンジョンの復讐は完遂になるとイルマさんは予想している。
僕達の場合は無傷な上にダンジョンを煽りまくり、魔物を大量虐殺して、四天王の一人まで討ち取った。
それに加えてダンジョンを脱出せずに、更なる煽りまで加える始末。
うん、制限があるとしたら緩和される可能性は十分に高い。というかほぼ確定じゃないだろうか?
「つまり次に施設が修復される時は、ダンジョンが僕達を殺す準備が整ったと判断した時ということですね?」
「仮説だけどね」
「えーっと、船召喚は防御面では洒落にならない性能なので、一生ダンジョンの準備が終わらないのでは?」
神様達の集団攻撃を楽勝で防ぐ結界をどうやって突破するつもりなんだ? それができるならダンジョンは神様の集団よりも強いってことになるぞ?
「現実に殺せるかどうかじゃないのよ。ダンジョンが殺せると判断したら施設が修復されるのだと思うわ」
なるほどダンジョンは神様の集団の攻撃を船召喚で防げるなんて知らないもんね。攻撃の威力を上げればなんとかなると考えたなら、限界まで攻撃力を上げて挑んできそうだ。
……それでも船召喚の結界が破られるとは思えない。
うん? とても性格が悪いことが思い浮かんでしまった。
満を持して僕達を殺すために最大の攻撃をしてくるダンジョン。船召喚で迎え撃つ僕。
結果、傷一つなく生き残り高笑いする僕。
ムカつくダンジョンをぎゃふんと言わせられそうだけど、焔と同じパターンだな。ダンジョンがもっと趣向を凝らしてくることを期待しよう。
なんだか上から目線になっちゃったな。こういう時に失敗して痛い目を見ることが多いから油断しないようにしよう。
「それって、ダンジョンの準備が終わるまで攻略できないってことよね? いつ準備が終わるの?」
そうだったイネスの言うとおり、いつまで待たされるか分からない状況だ。
「さあ?」
イルマさんが手上げといった風に肩をすくめた。
さすがのイルマさんでも、ダンジョンの計画までは読み解けないようだ。まあ、当然だよね。読み解けた方が怖い。
「面倒ね。ご主人様がテーマパークを更地にしたら何か反応があるんじゃない?」
イネスが物騒なことを言い始めた。
「できないこともないけど……それをやって大丈夫なの?」
豪華客船の連続召喚で、更地とまではいかないが壊滅状態には持っていけると思う。なんのリスクもないのなら、僕としても異存はないのだが……。
「駄目よ。ただでさえ異常事態なのに、これ以上無茶をしたら何が起こるか想像もできないわ」
ですよね。
「じゃあどうするのよ」
ホント、どうしよう。のんびりするのは嫌いじゃないけど、さすがに先が見えない状態でただ待機しているだけなのは辛い。
「定期的に確認しに来るくらいしか方法はないわね。あと、こちらから報酬を出して、ダークエルフの誰かに監視をお願いするくらいね」
「……まあ、そうするしかないわね。とりあえずダークエルフの村に戻って、村長に人を派遣してもらいましょう。人が変われば何か反応があるかもしれないわ。あとワタル、ここでダークエルフが生活できるように物資を出して環境を整えてくれる?」
イルマさんの言葉にアレシアさんが決断を下した。まあ現状それ以外に方法はなさそうだし、しょうがないよね。
「了解です」
ダークエルフに妙な仕事を頼むことになってしまったし、バッチリ環境を整えておこう。
テントは二張りくらいでいいよな。いや、余裕があった方が良いからもう一張り追加しておこう。
あとは、退屈だろうからボードゲームの類と海の近くだから釣り道具なんかも有った方が良いな。
食事はレトルト品とインスタント品ばかりになってしまうが、種類は豊富に用意しておこう。
うん、これだけ用意すればしばらくは退屈とは無縁でいられるはずだ。
「……ご主人様、それほど至れり尽くせりだと希望者が殺到しそうなのですが……」
「そう?」
フェリシアが困った顔をしている。
「でもまあ、辛いよりも楽しい方が良いよ」
ハイダウェイ号でのんびりしていた僕達でも飽きたんだし、これくらいは許容範囲内なはずだ。
「そうね、ダンジョンの見張りがおろそかになるのは困るけど、そこら辺はダークエルフは真面目だから大丈夫でしょう。念のために村長さんに注意だけしておけばいいわ。さて、じゃあそろそろ戻りましょうか」
アレシアさんの鶴の一声で、僕の初めてのダンジョン探索が中途半端な状態で中断することが決定した。
なんか消化不良だけど、この状況だとしょうがないよね。帰るか。
あれ? そういえばお姫様が攫われて、それを助けるって言う流れじゃなかったっけ?
……攫われたお姫様はどうなるんだろう?
まあお姫様もダンジョンの一部なんだろうし、次にダンジョンに来た時も元気に攫われたままでいるのだろう。
機会があれば、頑張って助けるので待っていてください。たぶんだけど……。
読んでくださってありがとうございます。




