24話 焔さん、マジパない
豪華客船での大規模破壊行為でダンジョンから猛烈な反撃を受ける中、ハイダウェイ号でリア充なパーティーピーポー気分を味わっていると、その態度に更にブチ切れたのか魔王四天王、炎を司る炎鬼、焔とやらが現れた。ぶっちゃけ噛ませ犬臭しかしない。
「こちらが何も干渉していないとはいえあれだけの魔力を集めるなんて、伊達に四天王と名乗っている訳ではないようね」
焔が上空に生み出している炎をドロテアさんが冷静に見極めている。
それはいい。それはいいのだけど、真面目なドロテアさんから四天王って厨二臭いセリフがでてくると、正直違和感でしかない。しかも水着姿だ。
この違和感はおそらくこの世界では誰にも理解されない。そのことが少し悲しいが……まあ、嘆いてもどうにかなることじゃないしポジティブに生きよう。
違和感が理解されなくても、水着美女が沢山居るのだから問題ないよね。
「あの四天王、強いんですか?」
気を取り直し、真剣な表情で焔を観察するドロテアさんに質問する。
「ええ、私達全員で掛かっても確実に苦戦するレベルよ」
マジで? ジラソーレは元々がAランクパーティーで強かったのに、そこから更に大幅にレベルを上げているからこの世界でもトップクラスの実力なはずだ。
そのジラソーレが苦戦? 噛ませ犬じゃなかったのか。
「大丈夫なんですか?」
少し不安になってきた。
さすがに船召喚の結界を破れるとは思わないが、倒すのに苦戦するのなら逃げられる可能性もあるし、四天王なのだから他にも同クラスが三人居て、更に上に魔王が居るとなると囲まれたら厄介なんじゃ?
「あくまでまともに戦ったらの話よ。そろそろアレシアが決断するはずだわ」
どういうこと? 様子を見るために待機ってことだったよね?
「ここで仕留めないとちょっと面倒な相手のようね。向こうの攻撃が船の結界に弾かれた瞬間、こちらも全力で攻撃するわよ。ワタル、イネスとフェリシアにも協力してもらうけど、構わないわよね?」
なるほど、長い付き合いに加え、サブリーダーとしてアレシアさんを支えていたドロテアさんにはアレシアさんの考えが読めていたんだな。
「はい、問題ありません。イネス、フェリシア、思いっきりやっちゃって」
「分かったわ。あいつ、火に耐性が有りそうだし、物理攻撃を思いっきり叩き込んでみるわ」
「分かりました」
『……りむは?』
イネスとフェリシアは気合十分のようだ。それはいいんだけど、省かれたリムから悲しみが籠った思念が届いてしまった。
どうやらリムも攻撃に参加したいらしい。特に問題はないと思うが、念のためにアレシアさんから許可を……。
「も、もちろん、リムちゃん、ふうちゃん、べにちゃんにも協力してもらうわ。私達の攻撃に合わせて思いっきり攻撃してちょうだい。あっ、もちろんワタルも攻撃しておくのよ」
僕が許可を貰う前にアレシアさんから許可が下りた。
どうやらふうちゃんとべにちゃんも省かれてしまったことを悲しんだようで、ドロテアさんとマリーナさんがアレシアさんに詰め寄ったようだ。
ドロテアさんもマリーナさんもスライムたちに関しては過保護だから、同じくスライムを愛でる僕としてもとても心強い。
「リム。アレシアさんの許可が下りたよ。頑張ってね」
『……りむがんばる……』
やる気満々でポヨンポヨンと飛び跳ねるリムがとっても可愛い。
「あっ、僕は攻撃しませんから、気にしないでやっちゃってください」
「あらどうして? あいつかなり強いわよ?」
つまり経験値もがっぽりということですね。分かります。
「魔物から十分に経験値を頂いたので今はこれで十分です」
「あぁ、力のコントロールの問題かしら? それなら私達も訓練に協力するから攻撃しておいたら?」
それもないではないが、どちらかというと人型で言葉が通じる相手に石を投げるのが微妙に気まずいから遠慮したいというのが本音だ。
相手が魔物だということは理解しているし、別に焔が死のうが僕はどうでもいい。
攻撃してくる相手に無抵抗を貫く根性もないし聖人でもない。
ただ単純に嫌なんだ。たいして危険でもないし、経験値が是非とも必要な訳でもない状況で無理をして嫌な気分になりたくない。
せっかくチートをもらったのだから、できるだけ嫌なことはしない人生を送りたいよね。
……あれ? もしかして僕って今、とてつもなく傲慢なことを考えてない?
あいつの命なんてどうでも良いけど、気分が悪くなりそうだから止めておくってことだよね?
……まあいいか。本当に焔のことなんてどうでもよくて、人っぽい魔物に石を投げるのが気まずいだけなんだからしょうがない。
「そう。まあ分かったわ」
この微妙な気持ちはアレシアさんには理解できないようだが、不思議そうにしながらも納得してくれた。
「ふはは。まさかなんの妨害もせずに俺様の術を完成させるとは、貴様ら驕ったようだな」
どうやら焔の術が完成したようだ。たしかに焔の言うとおり、なんの妨害もせずに待っていたのだから驕ったと思われてもしょうがない。
空に小型の太陽みたいな物が浮かんでいるからとてつもなく高威力の術なのだろう。焔が自信満々なのも理解できる。
焔は強い。それは理解した。
でも、この時、この場所では間違いなくあいつは噛ませ犬だ。
「そう、調子に乗っているのならこっちにとっても都合がいいわね」
一応焔の言葉を通訳してアレシアさん達に伝えると、アレシアさんも同意見のようで満足気に頷いた。
「今更怖気づいて動くこともできんか? まあ無理もない。貴様らごときでは生み出すこともできぬ太陽の化身だからな。だがこれは慈悲でもあるのだぞ。なんせ痛みもなく一瞬で灰になるのだから苦しむこともない。嬉しいだろ? ふははははー」
焔さん絶好調のようです。マジパないっす。
「では、俺様と敵対した自分達の不運を呪いながら死ね」
焔がそういうと同時に小型の太陽。焔曰く太陽の化身とやらがこちらに向かって落ちてきた。
大丈夫だと分かっているが、炎の塊が自分に向かって一直線に落ちてくる様はかなり怖い。
一直線に落ちてきた太陽の化身が船の結界に触れ、大爆発を起こす。
さすがに四天王が自信を持つ術なだけあって、視界一面が炎に埋め尽くされた。
……まあ、それだけでこちらには熱どころか衝撃一つ届かないけど。
あと、ハイダウェイ号の周囲を囲んだ魔物達も巻き添えになってない? 気のせいなのかな?
炎で焔の視線が遮られるとアレシアさん達、イネス、フェリシア、リム達が攻撃の準備を始めた。
つまり、焔が噛ませ犬になるまでのカウントダウンが始まったということだ。
「ふははははーー……は?」
炎が消えると高笑いをしている焔が見えた。
ついでにハイダウェイ号を囲んでいた魔物達の姿が無くなっていることも確認できた。
やっぱり巻き込まれていたか。酷いな焔。
でもその高笑い命とりだぞ。
こちらから向こうが確認できるということは向こうからもこちらが見えるということで、何事もなく鎮座するハイダウェイ号をみて高笑いを止め驚き固まる焔。
「なぜだー」
そしてそのまま姿が見えたと同時に放ったこちらの攻撃に飲まれて、僕の視界から消えた。
焔が一瞬でこちらの攻撃を躱す、もしくは防御する手段でもないかぎり助からないだろうな。
「ん?」
攻撃の爆炎の中から何かが落下し、結界にぶつかって跳ね返されて地面に叩きつけられた。
ズタボロの焔だ。
ピクピクと痙攣しているから、まだ生きているのだろう。
凄いな焔。僕を除いたこちらのメンバー全員の全力攻撃をくらって、原形をとどめるどころか死んでないなんて。
僕は死体も残らないと予想していたぞ。
焔って本当に強かったんだな。
「き、貴様ら……なぜ生きて……いる」
それはこっちのセリフだ。あれだけの攻撃をくらって生きているどころか、なんでとぎれとぎれながらも話せるんだ? バケモノですか? いや、バケモノだったな。
四天王、ちょっと侮っていた。
「あなたの攻撃が結界を貫けなかったからよ」
アレシアさんが焔の質問に答える。
「……そんな……バカなことが……ある……か……おれ……さまの……」
絶対の自信を持っていた攻撃が結界を貫けなかったことが信じられなかったのだろう。
納得ができずに何か文句を言おうとして、そして途中で力尽きた。
焔の体が霞むように消えていく。四天王でも死んだら消えるのは変わらないらしい。
ん? 焔の消えた場所に何か残っているようだ。ドロップ品か?
マリーナさんが素早く外に出てドロップ品らしきものを拾って戻ってくる。
焔が周囲の魔物を焼き尽くしたが、攻撃の範囲外にはまだ魔物がひしめいているのに無茶をする。
「それは……ルビーですか?」
マリーナさんが手に持つドロップ品は、子供の握りこぶし大の赤い宝石だった。
綺麗は綺麗だし高価な物なのだろうが、公爵城の財宝に宝石は沢山あったから少し残念だ。
四天王ならもっとレアなお宝をドロップしてほしかったな。アレシアさん達は大喜びしているが、そこまで嬉しいか?
「違うわ。石の中心を見て」
マリーナさんが僕にかざすように宝石を見せてくれる。
「あれ? 中心で火が燃えてる?」
宝石の中なのになんで火が?
あっ、ファンタジーな世界だからか。なるほど、理解した。
「これは火の結晶。まあ魔石なんだけど、火の属性に特化した魔物が稀に宿している珍しい物。武器に使えば炎の魔術武器に、アクセサリーか杖に加工すれば炎の魔術の威力を大幅に上げることも可能な貴重な魔石よ」
……焔さんマジパないっす。もっとレアなドロップをとか思ってごめんなさい。
喜ぶアレシアさん達の反応からすると、かなりレアなドロップでした。ありがとうございます。
「ご主人様。魔物が引いていきます」
「えっ?」
フェリシアの言葉に外を見ると、たしかに残っていた魔物達がハイダウェイ号から離れていっている。
「焔を倒したことでダンジョンが数で押すことを諦めたのかもしれないわね。ここで限界までダンジョンの力を削りたかったのだけど、そう上手くはいかないみたいだわ」
アレシアさんは焔を倒したくらいでは満足できないようだ。
まあ確かにここで残りの四天王とか魔王を倒せたら後が楽だったかもしれないが、僕としては少し疲れたからこのくらいで引いてくれた方が助かる。
「しょうがないわね。じゃあまた騒ぎましょうか。もしかしたらまた強敵がでてくるかもしれないわ」
まだダンジョンを煽るんですね。でも、楽しく騒ぐのは大歓迎です。
今年最後の更新になります。
今年一年、無事に更新を続けることができました。
これも様々なご意見やアドバイスや評価、ブックマーク、誤字報告で皆様に読んで頂けていると実感できたからだと思います。
本当にありがとうございます。
来年も更新を続けますので、どうぞよろしく申し上げます。
皆さま、良いお年をお迎えください。
たむたむ。
読んでくださってありがとうございます。




