表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
めざせ豪華客船!!  作者: たむたむ
第十五章
364/576

16話 コーヒーカップ無事? クリア?

 ダークエルフの島に出現した理不尽なテーマパーク、もといダンジョンの探索が始まった。最初の関門はコーヒーカップ。字面だけなら微笑ましいが、中身は凶悪でダンジョンの悪意をひしひしと感じる仕様だった。あと、料金が高い。




 コーヒーカップのスピードは止まることを知らず、時間が経つにつれてドンドン速度が上がっていく。


 見ているだけで気持ちが悪くなりそうな状況だが、カーラさんはしっかりとひっくり返したゴムボートを支えているし、マリーナさんも警戒をおろそかにはしていない様子なので大丈夫なのだろう。


 まあ、ひっくり返ったゴムボートが高速回転している絵面が微妙だが安全第一だ。


 それにしてもこれだけ高速で回転しているのに視力がついていくってことは、レベルアップで動体視力も上がっているんだな。


 このダンジョンに入って間もないのに、二度目のレベルアップ効果の実感だ。それなのにあんまり嬉しくないのは、このダンジョンに納得がいってないからだろう。


「……ようやく半分を越えたようね」


 不満を抱えながらグルグルと回り続けるマリーナさんとカーラさんを見守っていると、アレシアさんがポツンと呟いた。


 一瞬どういうことだと思ったが、カラフルに彩られた天井からワラワラと魔物が湧きだしたことですぐに状況が理解できた。


 これが五千ポイントを超えると現れる魔物ということだろう。


「飛ぶ魔物……まあ、当たり前といえば当たり前なんですかね?」


「そうね、飛んでないと潰されちゃうわよね」


 天井から湧き出した魔物はサイズが小さく、そして空を飛んでいた。でも、考えてみたら当然のことだ。


 コーヒーカップが縦横無尽に暴走する中に飛べない魔物を放っても、コーヒーカップの暴走に巻き込まれるだけだろう。


「それで、あれがどういった魔物なのか分かりますか?」


「私は知らないわ。イルマ、知ってる?」


「いいえ、初めて見るタイプの魔物ね。古代には普通に生息していて滅んだのか、このダンジョン固有の魔物なのかすら判断できないわ」


 ……どちらかというと、このダンジョン固有の魔物な気がする。


 だって色調がカラフルで、いかにもテーマパークのマスコットといった色合いなんだもん。


 姿は羽が生えた丸っこくてコロコロした感じの小型の猫で、色合いが様々な原色だったり蛍光色だったりミックスされていたりとテーマパークのキャラクターであることを全力で主張しているように思える。


 というか、あんな魔物が普通に生息している古代とか嫌なので、このダンジョン固有の魔物であってほしい。


「「「みゃー!」」」


「うっわー」


 空飛ぶ猫が鳴き声を上げると、顔の前に光球らしきものが現れマリーナさんとカーラさんが乗るコーヒーカップにすごい勢いで飛んでいく。


 しかも、猫ごとに光球の色が変えられていて、とってもカラフルな光の球の乱舞。攻撃でなければお金が取れそうなくらいの華麗さだ。


 真っ暗な中で見たらさぞ綺麗だろう。


 そしてその光球はゴムボートの結界にあっさりはじき返され消滅していく。


 少し焦りはしたが、まあ当然の結果だ。神様の攻撃ですら防ぐのに、あんな小さな猫の攻撃に破られた方が驚く。


「それにしてもエゲツナイですね。アレシア、ゴムボートがなかったとしたら、このアトラクションをクリアできますか?」


 僕からすると不可能に思える。このダンジョン、ファミコン初期の頃の理不尽さを感じるのだけど気のせいかな?


「うーん、威力はそれほどでもないようだし、今の状況なら対策を取ればギリギリといった感じかしら? でも、これ以上速度が上がると厳しいわね」


 今の状況ならなんとかなるんだ。それはそれで凄い気がするが、今のアレシアさん達でも難しいなら相当難易度が高いアトラクションということになる。


 古代の人達にどれほどの実力があったのかは知らないが、クリアできた人は居たのだろうか?


 あっ、このダンジョン、リゾートっぽい場所に出現したのに現代まで続いているってことは、少なくとも最後まではクリアできなかった、もしくはクリアしなかったってことか。


 ダンジョンが有用で亡ぼすのではなく利用することにした可能性もあるが、少なくとも今の時点では有用性が見受けられないので亡ぼせなかった可能性が高いだろう。


「あ」


 更に天井から魔物が追加された。時間経過でお代わりまであるのか。


 魔物の数が増えたことで光球も増え、アトラクション内は光が多すぎて綺麗を通り越して目が痛い。


「ん? 弾き飛ばされた魔物が消えた気がするんですけど、気のせいですかね?」


 光で目が痛いので見間違いの可能性もあるが、密集してコーヒーカップを避けられずに弾き飛ばされた魔物が霞のように消えていった気がする。


「ええ、間違いなく消えたわね。ダンジョンのパターンには二通りあって、倒した魔物がそのまま残るパターンと、消えて価値がある物品や素材だけを残すパターンがあるの。ここは後者なようね」


 なるほど、ゲームや小説でよくあるパターンの両方があるのか。僕としてはグロい魔物の死骸を見なくて済むのならその方がありがたい。


 ただ、アレシアさん達の意見は違うようで、少し残念そうにしている。


「アレシアさん達は死骸が残った方が嬉しいんですか?」


 上手くやれば換金できる金額が増えそうではあるが、手間も掛かりそうにも思える。


「未知の魔物はそれだけで価値があるのよ。このダンジョンの魔物があれだけということはないでしょうし、素材が取れた方がたぶん儲かるわ。……でもまあ、このダンジョンは公開できないから、結果的にイルマ以外は消えた方が良かったのかもね」


 イルマさん以外? あぁ、研究ってことですね。分かります。


「まずいわ」


 なんだか大丈夫そうだと余裕をブッこいていたが、ドロテアさんの言葉で緊張が走る。


 急いでマリーナさんとカーラさんが乗るコーヒーカップを確認するが、特に変わった様子もなく高速回転を続けている。なにが不味いんだ?


「どうかしたんですか?」


「カーラはまだ大丈夫なのだけど、マリーナがかなり辛そうなの」


 僕では光の球の乱舞と高速回転するコーヒーカップの影響で表情までは確認できないが、気分が悪くなったのならかなり不味い事態だ。


 乗り物酔いは簡単には治らないのに、まだ半分を少し超えたくらいだぞ。


「アレシア、助けますか?」


「そうね……ドロテア。マリーナから救助要請は届いてないわよね?」


「ええ、ジッと耐えているだけで救助の合図はまだよ。このまま我慢するつもりみたいね」


「ならまだ様子を見るわ。ただし、いつでも突入できるように準備だけはしておいて。ワタルは突入前に船を召喚して、その中で安全確保。イネスとフェリシアは悪いけどこちらを手伝ってちょうだい」


 我慢しているのか。マリーナさん、辛いだろうな。


 でも、たぶん冷静に計算しての判断だろう。


 船召喚の結界を破る力のない魔物、コーヒーカップ内の異変もない。乗り物酔いで死ぬのも考え辛い。


 耐えればクリアできるとマリーナさんは我慢を選択し、アレシアさん達もそれを理解して見守ることを選択したのだろう。


「分かりました。イネス、フェリシア、お願いね」


「了解」「分かりました」


『……りむもいく……?』


 まさかのリムからの参戦要求。リムもかなり強くなっているから負けるとは思わないが、光球が乱舞している中に突入したら誤爆で攻撃されそうな気がする。


「リムは僕と一緒に待機。危険な時は守ってね」


『……わたる、まもる……』 


 リムから頑張るぞといった感じの思念が届く。


 ゴムボートに避難していれば安全だからリムを待機させるための方便だから、純粋なリムの決意が僕の心にダメージを与える。


 しょうがないことなんだけど、大人になるって悲しい。


 変なところでショックを受けながらも、いつでも避難できるように体制を整えて待つ。


 ……時間の進みが遅い気がする。


 高速回転しているのだから残り数千回転でもそれほど時間が掛からないはずなのに、もう十分以上待機しているような感覚だ。


 周りから魔物でも襲ってくれば気がまぎれるのに、なんて物騒なことまで考えてしまう。


 でも、休眠明けのダンジョンでなければ、こんな風にある意味平和に待機はできなかったんだろうな。




 ジリジリとした時間を過ごしていると、妙にコミカルで賑やかな音楽が鳴りだし、魔物が出てきた天井に戻っていく。


 それと同時に高速回転していたカップがゆっくりと回転を弱めていく。


 どうやらクリアしたようだ。


 内心で一万ポイントというのはダンジョンの罠で、死ぬまで回転が止まらなかったらどうしようとか考えていたが、ダンジョンも最低限のルールは守るようだ。


 まあ、本当に最低限だけどね。最後の方とか、高速回転が極まり過ぎて竜巻が発生していたような気すらする。


「マリーナ、カーラ、よくやったわ!」


 警戒しながらもアレシアさん達が喜びの声を上げながらコーヒーカップに近づく。


 まず最初に出てきたのはカーラさん。意外と平気そうな顔をしているが、体がフラフラと揺れているのでそれなりの影響を受けているようだ。


 そして続いて出てきたのはマリーナさんなんだけど……顔が死人のように蒼ざめていて目がうつろだ。


 これ、そうとうヤバいんじゃ?


「マリーナ! クラレッタ、マリーナに癒しを!」


 マリーナさんの体がガクッと崩れコーヒーカップにもたれかかる。慌てて駆け寄るアレシアさん達。


 クラレッタさんが杖を振り複雑な魔法陣を描くと、マリーナさんの体が光に包まれる。


 少し体調が回復したのか、顔は蒼ざめたままだがマリーナさんが立ち上がる。


「マリーナ?」


 マリーナさんは一言も話さずにフラフラと歩きはじめる。アレシアさんが心配そうに声を掛けるが、手で制止して一人でヨタヨタと歩いていく。


 そして、アトラクションの物陰に入り込み姿が見えなくなると、聞いてはいけない音が聞こえてきた。


 そっか、もう限界で話す余裕すらなかったんだな。僕だったら間違いなくコーヒーカップ内でぶちまけていた。凄いよマリーナさん。


 しんみりした雰囲気になり、残った全員が目と目で意思疎通をする。何もなかった、そういうことにしようと言葉にせずとも僕達の意見は一致した。


 そこに再びコミカルな音楽が流れ始め、天井から掲示板が降りてきた。


「よくぞ試練を乗り越えた!」


 道化のドラゴンが偉そうに話し始める。空気を読めよとも思うが、音楽が周囲の音を消してくれるから、ある意味ではナイスなタイミングだ。


読んでくださってありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] ダンジョンはマリーナの乙女な部分を攻撃…。 会心の一撃マリーナはキラキラしたものを………。 _:(´ཀ`」 ∠): マリーナはダンジョンに激怒した‼︎ \\\٩(๑`^´๑)۶////
[良い点] すごく酷い いろんないみで [気になる点] しかしこれの目的って…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ