24話 ダークエルフとの接触
ダークエルフを保護するために山登りをすると、そこは妖精の縄張りで迷いの山だった。イルマさんの助言? に従い、妖精に罠を掛けると、簡単に姿を現す妖精。フェリシアを奴隷にしている僕が糾弾され、森の女神様の手紙を利用してなんとか誤解を解くことができた。
……誤解を解くことはできたんだけど……神様パワーの効果が強すぎて妖精が畏縮しまくっているのがとても問題だ。
「えーっと、ダークエルフ達のところに移動する前に、休憩しましょうか」
僕が妖精を含めて話しかけると、妖精達がビクッと体を震わせて顔をひきつらせた。
年齢は分からないが、小さな妖精に全力で怯えられると心がとても痛い。悪いことをしている訳じゃないのに、とても酷いことをしている気分になってしまう。
「こ、怖がらなくていいからね」
「……」
僕が全力で猫なで声の無害アピールをしたら、妖精達が無言で泣き出してしまった、なぜだ?
僕は強面ではないし、どちらかというと他人から舐められる顔をしている。怖がられるはずはないんだが……そうか、大きさか!
僕がヘタレであろうとも、体は比べ物にならないほど大きいし神様パワーの後ろ盾もある。怖がるのもしょうがないだろう。
「ご主人様。顔が気持ち悪いわ。妖精達が怯えるだけだから、無理に笑わないで普通にしていてちょうだい」
「……イネス。僕の笑顔が気持ち悪くて、この子達が泣いているように聞こえるんだけど?」
いくらイネスが僕のドストライクの美女であろうとも、さすがに怒っちゃうよ?
ご主人様の強権を発動して、あんなことやこんなことをしちゃうよ?
「そう言っているのよ」
「ワタル。頑張っているのは理解できるけど、無理しているのが丸分かりでちゃんと笑えていないわ」
イネスに素早く肯定され、追い打ちでドロテアさんから事実認定されてしまった。
どうやら、罪悪感で焦り過ぎて、僕は上手に笑えていないらしい。
このまま無理して妖精達のご機嫌を取ろうとしても、余計に嫌われるだけで終わりそうだな。
「……フェリシア、クラレッタ。この子達のことをお願いします。アレシア達はイルマをどうにかなだめてください。僕は離れています」
妖精達のことは、妖精が慣れているダークエルフのフェリシアと、母性が素晴らしいクラレッタさんに任せよう。
他のメンバーには研究者魂に火がついたイルマさんをどうにかしてもらい、僕は……リムを抱きしめて、先程負った心の傷を癒そう。
少し離れた場所に移動しモチモチとリムの感触を堪能していると、フェリシアとクラレッタさんがカップケーキを手に取り、ゆっくりと妖精達に近づいた。
妖精達は少し怖がっているようだが、僕の時のように泣きだす気配は無い。どうやら本当に僕の笑顔が怖かったようだ。
フェリシアとクラレッタさんは妖精達の前にそっとカップケーキを置き、なにやら話しかけると、妖精達がおそるおそるカップケーキに近づき齧り付いた。
「うまー」
「まー」
「おいしい」
一口齧って大声で感想を言ったあと、妖精達は自分の体の半分はあるカップケーキに抱き着き、一心不乱に噛り付いている。
さすが豪華客船の甘味。妖精というファンタジーな生き物ですら虜にしてしまうようだ。
フェリシアとクラレッタさんが妖精達の隣になにかを置く。あれは……ペットボトルのキャップのようだ。
二人が声を掛けると、妖精達がキャップに移動し口を付けた。
なるほど、飲み物か。妖精達のサイズに合うコップを持っていなかったから、キャップで代用したのだろう。
カップケーキは喉が渇きやすいし、二つの意味でナイスなアイデアだ。さすがフェリシアとクラレッタさんだな。
こちらは問題ないようなので、アレシアさん達の様子を見てみる。
ドロテアさんがイルマさんにお説教をしている。
他のメンバーはと周囲を見渡すと、アレシアさん達は周囲の警戒に戻ったようだ。そういえば、ここは強くはないとはいえ魔物が出る山だったな。
周囲の警戒が万全なことに安心してドロテアさんとイルマさんに注目する。
漏れ聞こえてくる言葉を組み合わせると、どうやらイルマさんの興奮は治まっており、ついでとばかりに今までの暴走についてもお説教されているようだ。
イルマさん。僕が知らない間に結構暴走していたんだな。豪華客船の備品や設備を解体しようとしていたなんて初耳なんですけど?
まあ、船召喚の船は不壊の効果で解体できなかったらしいから問題なしとしておくか。
ふむ。購入した物は解体できるのか。イルマさん、カメラやら時計やらを購入して、バラバラにして復元できなくなっていたらしい。
いくらイルマさんが有能だとしても、さすがに精密機械を分解して再復元するのは難しいだろう。
パーティーの経費を預かるドロテアさんとしては思うところがあったのか、ここぞとばかりに、もったいないことをしないようにと注意している。
こちらも放っておいて良さそうだ。しっかりとイルマさんを反省させてくれる方が僕としても助かる。
「ん?」
リムをモチモチしたり、お肉やお菓子をあげたりしながら遊んでいると、三人の妖精がフェリシアとクラレッタさんに連れられて僕のところにやってきた。
「にいちゃん。おかしうまかった。ありがと」
「ありがとー」
「……おいしかった」
少し警戒しながらもお菓子のお礼を言ってくれる妖精達。
たぶん、妖精達の背後で優しく微笑んでいるフェリシアとクラレッタさんが、僕のことをフォローしてくれたんだろう。とてもありがたい。
それにしてもあれだな。ただお礼を言われただけなのに、それだけでこころがポカポカしてきた。
「そ、そう。喜んでもらえて良かったよ」
おっと、テンションが上がって少し声が大きくなってしまった。また妖精達を怖がらせてしまったようなので、少し落ち着いてゆっくり話そう。
「ご主人様。この子達は山への侵入者を惑わせる役目だったらしいのですが、かなりの時間報告に戻っていないようです。このままだと増援が来てまた騒ぎになるかもしれません」
ゆっくり話そうと思ったけど、そういう場合ではないようだ。
妖精から話を聞いたフェリシアの話を詳しく聞くと、どうやら時間が掛かったのは僕が原因らしい。
普通なら幻覚に掛ければすぐに山から追い出せるらしいのだが、僕の場合はチートな船召喚のマップ機能がある。
それで迷わされても何度も方向を修正し村に向かったから、報告に戻る暇もなく時間だけが過ぎていったようだ。
「えーっと、それなら君達は一度村に戻ってくれるかな? それで、山に登っているのは森の女神様の関係者で怪しい人じゃないと伝えてほしいんだ。そのあとに、もう一度迎えに来てくれたら助かる」
本当なら村への報告と、こちらの案内で別れて行動してくれた方が時間短縮できるんだけど、さすがにこの状態で別行動は可哀想だ。残った方が緊張でどうにかなってしまうかもしれない。
「わかった」
少し小さめな声でお願いしたのが功を奏したのか、やんちゃなリーダーっぽい男の子の妖精が怖がらずに頷いてくれた。
「ありがとう。お願いね」
「いってくる」
「るー」
「がんばるから、おかしちょうだい」
妖精達が飛んでいった。
怯えまくってほとんど話さなかった女の子の妖精が、最後にお菓子を要求して飛んでいったのは幻聴だろうか?
念のためにお菓子を用意しておくか。たとえ幻聴だったとしても、喜んでくれるだろう。
サイズから考えて……あぁ、ラムネとか良いかもしれないな。フォートレス号の売店で売っていた奴。
高級品ではないけど、美味しいから喜んでくれるはずだ。
***
「森の女神様の関係者というのは本当か?」
妖精達を見送って一時間ほど経過すると、不思議な声が響いてきた。
驚いて周囲を見渡していると、マリーナさんが何が起こっているのかを説明してくれた。
木々に視界が遮られてよく見えないが、百メートル程先に二人のダークエルフが居て、そこから風の魔術で声を飛ばしているんだそうだ。
妖精から話を聞いて本当なのか確認に来たんだろう。
かなり警戒しているようだが、妖精達が伝えた森の女神様の関係者という言葉で攻撃もできない。
でも、神様の関係者なんて驚きの言葉を素直に信じるのも難しい。だから、遠距離から様子をうかがうって感じかな?
「本当ですよーって……こちらの声は向こうに届くんですかね?」
届かないのに話すのは虚しいよね?
「声が届けられるなら声を拾うこともできる。でも、少し大きな声で話した方が聞き取りやすい」
「なるほど。では念のためにもう一度大きな声で言っておきます。森の女神様の関係者というのは本当で、証拠ありますよー!」
マリーナさんのアドバイスに従い、少し大きめの声で返事をする。
「証拠を確認させてほしい」
……スマホとかで姿が見えない相手と話すことは慣れているけど、周囲一帯に不安定に響く声は微妙にホラーチックで変な感じだ。
「フェリシア。手紙を見せてあげて」
こんな距離から見えるのかも疑問だが、まあ、魔術で声も届くし、なんとでもなるのだろう。
フェリシアが手紙を掲げると、すぐそちらに向かいますとの声と同時に、ダークエルフが居る方向から走る足音が聞こえてきた。
たぶん、手紙の印を見て本当に森の女神様の関係者だったから、大慌てでこちらに駆けてきているのだろう。
……妖精は印を見て土下座をした。
ならば、豪華客船で手紙を見て狂喜乱舞だった村人達と同族のダークエルフは?
「疑って申し訳ありませんでしたー」
ズザーっと音を立てながら土下座をする二人のダークエルフ。
ダークエルフも土下座するんだろうと予想していたが、まさか走りながらそのまま土下座体勢に移行するとは思わなかったな。
怪我をしていないか不安だ。
あと、地面に頭を擦りつけているダークエルフの頭の上に、先程の三人の妖精が着地してこちらを見ている光景が、とてもシュールだ。
「フェリシア。事情の説明をお願い」
この状況を僕が納めるのは無理だと判断し、フェリシアに丸投げをする。同族の方が話も通じるはずだ。
「分かりました」
フェリシアに丸投げをして安心していると、妖精の女の子がパタパタと飛んできてモジモジとこちらを見ている。
もしかして……念のために用意しておいたラムネを差し出す。
初めて見る物体に首を傾げながらも、妖精は俺が手に持ったままのラムネにパクリと噛り付き、満面の笑みを浮かべた。
念のためにラムネを用意しておいたのは正解だったようだ。
明日、5/27日 『めざせ豪華客船!!』のコミックス第一巻が発売されます。
ザザロン亞南先生がキャラクターをとても綺麗な絵で表現してくださっていますので、お楽しみいただけましたら幸いです。
よろしくお願いいたします。
読んでくださってありがとうございます。




