25話 僕、やっちゃいました
妖精とのコミュニケーションをなんとか成功させ、その妖精にダークエルフの村への伝言をお願いして、ダークエルフとの接触にも成功した。森の女神様の印がついた手紙の威力が高すぎて少しビビる。
「あれがダークエルフの村なんですね。ですが……あの人だかりは?」
ようやくダークエルフの村が見えたが、村の入口らしき場所が騒ぎになっている。
一瞬疑問に思ったが、すぐに理解できた。
あの集団は歓迎の為にあそこで待機しているのだろう。
普通なら警戒していると考えるところだが、先に知らせに向かったダークエルフが森の女神様の印を見て、村中に知らせてこんな騒ぎになったパターンだな。
まあ、警戒されるよりもマシか。
どうせ森の女神様の手紙を見て、狂喜乱舞するんでしょ? 久しぶりに山道を歩いたし、騒ぎが収まるまで休憩しよう。
***
村に到着すると予想通り森の女神様の手紙をお願いされて、予想通り騒ぎになったのでフェリシアを生贄に捧げて僕達は村の近くで休憩をした。
「今までのダークエルフの村と雰囲気が違いますね」
手紙を見て喜んでいるダークエルフと妖精達には、怯えも絶望も感じられない。
「そうね。豊かで何の不自由もなさそうとは言えないけれど、これまでのダークエルフの村に漂っていた暗い閉塞感は感じられないわね」
アレシアさんも同意見のようだ。
この村の雰囲気が暗く沈んでいないのは、妖精のおかげなんだろう。
これまでのダークエルフの村はフェリシアの村も含めて、人間か凶悪な魔物に襲われる危険が常に付きまとっていた。
その点、この山は魔物もそれほど強くないようだし、妖精の強力な幻覚魔法に守られている。
細々とした物資や食物は自給自足だろうから豊かとは言えないが、身の安全が確保されているぶん表情が明るいのだろう。
「ねえ、ワタル。さっき妖精にあげていたお菓子はまだ余ってる?」
「はい、余っていますけど食べますか?」
イルマさんがお菓子に興味を示すのは珍しいな。
「いえ、私は食べないのだけど、貰っても構わないかしら?」
「? はあ、構いませんが?」
食べないのにお菓子が必要……なるほど、そういうことか。
「ねえ、妖精さん達、甘いお菓子はどうかしら?」
僕がイルマさんにラムネを渡すと、すぐに予想通りの行動をするイルマさん。
お菓子で釣って幻覚魔法の技術を聞き出すつもりなんだろうが、普段から妖しい魅力を漂わせているイルマさんがやると、とても悪い魔女に見える。
老婆で怪しい薬が入った鍋をかき混ぜる魔女ではなくて、一度ハマったら骨の髄まで食い尽くされる男殺しの魔女だな。僕も食べられたい。
警戒心が高くとも甘いお菓子の誘惑には抗えないのか、イルマさんに声を掛けられた妖精達がワラワラと集まってくる。
イルマさんが本当に悪い魔女だったら、あの子達は一網打尽で捕獲されているな。
キャイキャイとラムネに喜ぶ妖精達から、露骨に幻覚魔法について聞き出すイルマさん。
幻覚魔術の魔法陣を浮かべて、効率が悪い部分を指摘できたらラムネをもう一個プレゼントとか言っている。
「アレシア。あれっていいんですか?」
あなたのお仲間が、一粒十円にも満たない価値のお菓子で、妖精から知識を吸い出していますよ?
異世界のお菓子と考えたらもっと価値は上がるが、それでもボッタくりじゃないかな?
「……仲間の実力が上がるのは良いことなのよ」
アレシアさんは見なかったことにするようだ。
「ご主人様。こちらがこの村の村長のトリアテムさんと、ご子息のケルムテムさんです」
ほのぼのとした光景ながらも、実は極悪なことをしているイルマさんを眺めていると、フェリシアが杖を突いたダークエルフのご老人と少し歳を取った男性を連れてきた。
長生きするダークエルフなのに、杖が必要なほど歳を重ねるって……いったい何歳なんだろう?
そういえば、今までのダークエルフの村の人達に老人と言える程のお年寄りは居なかった。老人になるほど長生きできない環境だったってことなのだろう。
そう考えると、この村はそれだけ平和なんだな。
「僕はワタルと言います。よろしくお願いします」
「ワタル様、ありがとうございます。救われた同朋のこと、森の女神様のこと、フェリシア様からお聞きいたしました。感謝のしようもございません」
トリアテムさんが俺の手を握って祈るようにお礼を言う。
「い、いえ、僕もやりたくてやっていることですから気にしないでください」
感謝をしてくれるのは嬉しいが、そこまで真剣にお礼を言われてしまうと、森の女神様の膝枕で耳かきを要求している僕としては身につまされるものがある。
一緒に頭を下げていたケルムテムさんにも頭を上げてもらい、気にしないでくださいと重ねて念を押しておく。
「このようなところではなんですので、休める場所にご案内いたします。といっても、お客様が来ることなどないので、集会場になってしまいますが……」
人が入ったら迷う山の隠れ里だし、たしかにお客さんは来ないだろう。
ラノベなんかだとこういった場合の休憩場所は村長の家が定番だけど、まったくお客さんが来ないのならそういう設備が村長の家にも整っていないのかもしれない。
文句を言う必要もないので、大人しくトリアテムさん達の後について行く。
なるほど、集会場か。たしかにそれっぽい。
みんなで集まれるように仕切りをなくした少し大きめの建物に、大きめのテーブルといくつかの椅子。
これだけでは村の人全員が座れそうにないし、集まる時は家具を持ち込むか床に座るのだろう。
勧められた席に座ると、少しお年を召したダークエルフの女性がお茶を出してくれた。
スッキリした良い匂いがするし、たぶんハーブティーなんだろう。
お礼を言ってお茶を飲むと、想像通りハーブの味がしたが、いくつかのハーブを組み合わせているのか味と香りが複雑なことくらいしか分からない。
でも、ちゃんと美味しいですと感想を伝えておく。
クラレッタさんが、いくつかハーブの種類を質問してダークエルフの女性と楽しそうに会話をしているが、僕はサッパリついていけない。
お茶を飲んで一息ついたところで、本格的に話し合いを始める。
先にフェリシアがある程度事情を説明してくれているようだが、大切な事なのでできるだけ詳しく説明しておくべきだろう。
でもその前に、僕に様を付けてもらうのを止めてもらおう。美女に様を付けられると、それはそれで嬉しいが、ご老人に様を付けられるのは気まずさしかない。
***
「なるほどそうですか……」
僕達の話を聞いたトリアテムさんが、目を瞑って深く考え込んだ。
……考え込んだんだよね? 寿命だったりしないよね?
「村の者達と話し合ってみなければ分かりませんが、私の考えでは全員の移住をお願いしたいです」
「えっ? 全員ですか?」
ちゃんと目を開けて話し始めたトリアテムさんにホッとしつつも、その内容に驚く。
短い時間しか滞在していないが、それでもこの村が平和なのは分かる。
移住するにしても、村の希望者を連れて行く感じになると思っていた。
「はい。残りたいと思う者も居るでしょうが、できれば全員です」
「僕としてはこの村が残っていることにも意味が有ると思うのですが、理由をお聞かせ願えますか?」
ダークエルフの島は安全だと思うけど、それでも何があるか分からない。
危険な場所なら他に選択肢はないかもしれないが、安全な場所なら避難場所としてキープしておいた方がダークエルフという種族にとっては安全だと思う。
「……フェアリー達は警戒心も高いですが好奇心も旺盛なのです。そして、甘いお菓子も大好きなのです」
「えっ?」
「フェアリーから聞いたのですが、ワタル殿はとても美味しく珍しいお菓子をお持ちとか。先程、イルマ殿がフェアリー達に渡していたのも見ましたし事実なのでしょう」
「は、はい」
なんだかとても嫌な予感がする。
「森の女神様の印のこともありますし、フェアリー達はワタル殿達と共に行くことを希望するでしょう」
嫌な予感が当たった。
「で、ですが、この山に残りたがる妖精も居るのでは?」
「私達が残れば、一緒に残ってくれるフェアリーも居るでしょう。ですが、人数が減れば負担も増えますし、フェアリー達に我慢をさせることになります。それならば全員で移住したほうがみなが幸せになれると思うのです。ワタル殿にはご迷惑をお掛けすることになってしまいますが……」
どうすんの? これ、どうすんの? 結果的にお菓子で村を亡ぼすことになってない?
イルマさんを見ると、目を逸らされた。
ただ、冷や汗をかいているようなので、かなりの気まずさを感じてはいるようだ。
「も、申し訳ありません!」
とりあえず謝ろう。全力で謝ろう。
ダークエルフを保護しに来たつもりなのに、結果的に平和な村を亡ぼすことになってしまっては申し訳が立たない。
まずは全力で謝って、その後対策を考えよう。
お菓子のデリバリーが必要かな?
普段行動している場所から遠いから頻繁には来られないけど、お菓子の賞味期限は長いからなんとかなるか?
「いえ、謝って頂く必要はありません。この村は平和ではありますが、それだけなのです。ワタル殿達から話を聞いて、私達がいかに恵まれていたのかは理解しています。未練がないわけでもありません。ですが、それでも村に新しい風が吹くことは歓迎するべきことなのです。私はワタル殿に感謝しております」
そんなこと言われても……これってどうなの?
本当に良いの? あとで森の女神様から怒られたりしない?
「それに、フェアリーと共に行くのであれば、万が一何かがあったとしても、この村と同じく安全な村を造ることはできます。それは、ワタル殿にも、他のダークエルフの同胞達にとっても良いことなのではありませんか?」
……なるほど、万が一ダークエルフの島になにかがあっても、僕が連れて脱出さえできれば、みんなが安全に暮らせる場所は確保できるのか。
それは確かにありがたい。
……ちゃんと村人全員で話し合ってもらうことにして、移住が決定したら全力でお手伝いしよう。
この、なんとも言えない罪悪感を少しでも消し去るために。
読んでくださってありがとうございます。




