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めざせ豪華客船!!  作者: たむたむ
第十四章
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19話 最後の書類整理

 王宮で偉い人達の前で面接をすることになり、なんだか関わりたくない人扱いをされた気がしないでもない感じで面談を終えた。色々と制約があった中では、上出来の結果だったと思う。たぶん……。




「えっ? フローラさん、開拓許可が下りたって、今日下りたんですか? いえ、そもそも許可が下りていないうちから話を進めていましたけど、もしかして危なかったんじゃ?」


 前回のプレゼンから一週間くらい経ってから言われても……そもそも、プレゼン前から動き出していたけど?


「許可というか、王宮から横やりを入れないという確約を得たといったところです。ワタルさんは陛下から直接開拓の許可を得ていますので、本来であればそれだけで問題はなかったのですが、なにしろ話が大きすぎたので根回しをしたんです」


 ああ、そういうことか。社長とだけの話から、ちゃんと会社全体が認識したプロジェクトになったって感じだな。了解した。


「ワタルさん、のんきな顔をしていますけど、ギルマス達は頭を抱えていましたよ?」


「まあ、そうでしょうね」


 結果的にちょっとな? というプレゼンだった自覚はあるし、ギルマス達は財務卿や商務卿の前でも頭を抱えていたから、他でも頭を抱えていて不思議はない。


「ワタルさん。私はもう冒険者ギルドから離れる人間ですけど、もう少しギルマスに優しくしてあげてくださいね。普通、王宮からの確約をこんな短期間で得られるのってなかなかないんですよ?」


 偉いところから認可に時間が掛かるのはなんとなく理解できる。


 意外と簡単に転職を決意して、あまり冒険者ギルドに思い入れがなさそうなフローラさんがこういうことを言うってことは、ギルマス達、相当苦労したんだろうな。


「分かりました。では、アクアマリン王国から離れる時に、色々とお礼を渡しておきますね」


 各ギルドのマスターには感謝の気持ちとして、豪華客船の豪華詰め合わせセットを渡そう。


 食品関連やお酒や美容グッズ、あと、興味を示していたペンやノートで良いか。


 豪華客船に招待したほうが早いが、間違いなく面倒なことになるので却下。


 すぐにお礼を渡すのも、面倒なことになるので却下だな。たぶん、押し掛けられて色々と説明を要求される。


 特に商業ギルドのマスターに美容グッズは劇薬な気がするから、多めに渡しておこう。


 そう考えると、価値ある品を渡して逃げるのもある意味ではテロっぽいが、興味がひけるものを渡しておけば、僕がお願いしている仕事にも誠心誠意取り組んでくれるだろう。


 まあ、次にアクアマリン王国に来た時が怖いけど……その時はまた豪華詰め合わせセットを渡せばいい。


 長いスパンの開発計画だし、物でトップのやる気を出させることができるなら、多少の怖さも許容範囲だろう。


「それはそれで問題になる気がするんですけど……」


 フローラさんも僕からのお礼がなんなのか想像できたのか、少し困った顔をしている。


 まあ、豪華客船で人生を変える決断をした人だから、お礼の威力を身に染みているんだろう。


 お酒好き、甘いもの好き、珍しい物好き、美容に拘りがある人であれば、求めずにはいられないものだからね。


 特に美容グッズは威力が凄いから、商業ギルドのマスターには効果抜群の可能性が高い。他のギルマス達も奥さんや娘さんが使えば、もう逃げられないだろう。


 ふむ……なんか阿鼻叫喚の未来が見えた。


 美容グッズは想定よりも更に多めに配布しておこう。足りなくなったらギルマス達が可哀想なことになりそうだ。


「それよりもフローラ、今日はどうしたの? 許可が下りたことを伝えに来ただけ?」


 内心であくどいことを考えていると、イネスがフローラさんに話しかけた。


「違うわよ。許可が下りて本格的に動き出すことになったから、その説明と必要書類にサインをもらいに来たの。ワタルさん、あの説明会以来、そちらにお任せしますって言って、呼んでもなかなか出てこないでしょ?」


「あはは。ご主人様、フローラが困っているわよ」


「……えーっとですね、今までは呼ばれたら出ていっていたんですけど、このままだと最後まで付き合わされそうなので、できるだけ関わらないようにしようかと思いまして……」


 丸投げしたはずなのに、全然丸投げになっていないことに納得がいかない。


 多少の苦労は呑み込むと決めたが、もうそろそろ呑み込めなくなりそうだから、自衛行為です。


「まあ、私も少しはワタルさんのことを知っていますから分かりますけど、普通はこれほどの規模の仕事で、施工主が関わり合いを避けるなんてありえないことは自覚しておいてくださいね?」


「……はい」


 怒られてしまった。


「フローラ、そんなことを言ってもいいの? この仕事からご主人様が逃げられないと、フローラもいつまでたっても次の職場に向かえないのよ?」


「分かっているわよ。私だって早く移動したいわ。だから、各ギルドから必要な書類を受け取ってきたの。補足の説明もあるけど、これを終わらせればしばらく旅に出ても大丈夫なはずよ」


 どさりと書類の山をテーブルに置かれてしまったが、これが終わればしばらくは自由の身になれるようだ。  


 フローラさんもこのままだと仕事が終わらないから、先んじて動いてくれていたんだな。


「助かります。ドロテア、イルマ、フェリシア、お手伝いをお願いします」


 書類整理が得意な三人に迷わず声を掛ける。のんびりしていると追加の書類が増えそうだし、急いで済ませてしまおう。


「あっ、ワタルさん。書類が終わったらすぐに出発するつもりですか? 私は準備できていますけど、ベラおばさん達は突然だと困ると思いますよ?」


 そうだった。ベラさん達の引っ越しも考えないといけないんだった。


 元々の引っ越し予定と時期的にはあまり変わっていないが、開拓計画で先の予定が確定できなかったから、準備を待ってもらっていた。いきなり言われても困るだろう。


「イネス。ベラさん達に出発が近いことを伝えに行ってくれる? 無理して急ぐ必要もないから、慌てずに準備してくださいって言っておいて。それと、荷物はまとめてくれたら僕が引き取りに行くからね。あと、大変そうだったらイネスも手伝ってあげて」


「えー」


 イネスがとても不満そうだ。ベラさんと長い時間、一緒に過ごすのが嫌なのだろう。悪いのはイネスなんだけどね。


「船でしばらく一緒に生活するんだから、お手伝いしておいた方が後々の為には良いと思うよ?」


「……そうね。ご主人様、ちょっと行ってくるわ」


 少し考え込んだ後、イネスが少しやる気になった。


 たぶん、あの少しの時間で手伝いに行くメリットとデメリットを比較したんだろう。


「うん、行ってらっしゃい。ああ、フローラさんも荷物は受け取りに行きますから、まとめておいてくれるだけでいいですよ」


「ありがとうございます。では、早く出発するためにも頑張りましょうか。書類の説明をさせていただきますね」


「は、はい」


 フローラさんのやる気オーラが増した。


 今のやり取りで出発が近いことを確信したのだろう。

 

 それだけ豪華客船での生活を楽しみに思ってくれているのなら、僕も嬉しい。




「……凄いことになっていますね。いきなりこんなに人を集めて大丈夫なんですか?」


 一通りフローラさんから書類の説明と補足を受けたが、プレゼンの前と後では仕事の規模が変わっている。


 プレゼン前でも相当な人が動いていたと思ったが、まだまだ準備段階だったようだ。


 人も資材も使う資金も、文字通り桁が変わっている。


「ワタルさん。村の拡張、新規の道、村の建設、街の造営をするんですよ。これでも、資材も人も全く足りていません。許可が下りたことでアクアマリン王国中から人と資材を集めることになりますし、商人達もすでに出発して、他国に獣人や資材を集めに向かっています。まだまだ増えますよ」


「そ、そうですよね」


 賃金も日本に比べたら安いだろうし、白金貨二千五百枚はとんでもない経済効果を生み出しそうだな。


 一番儲かるのはアクアマリン王国だろうけど、他国にもかなり資金が流れるし、大陸全体が景気が良くなるかもしれない。


 これなら商売の神様にも怒られないよね。景気が良くなれば商売も活発になって、商売の神様もウハウハなはずだ。


 大規模投資が終わってからの経済の冷え込みが少し心配ではあるが、豪華客船の追加購入で追加投資もあるし、しばらくはなんとかなるだろう。


「では、説明も終わりましたので、私はそろそろ失礼しますね。引っ越しの準備は終わらせておきますので、ワタルさんも書類、頑張ってください」


 書類のおおまかな説明と補足を終えたフローラさんが笑顔で帰っていった。


 ……引っ越しという言葉を妙に力強く発音していたが、もしかしてプレッシャーを掛けられたのだろうか?


 まあ、気にしなくても問題はないだろう。


 僕もできるだけ早く出発したいから、この書類の束も大急ぎで片付けるつもりだ。




 ***




「母さん。ご主人様の予定に目途が立ったわ。急がなくてもいいけど、近いうちに出発することになるだろうから、引っ越しの準備をしてちょうだい。無理だったら来年くらいに予定を変更しても構わないわよ?」


 なんなら再来年でも、引っ越し中止でも構わないわ。


「だいたいの準備は終わっているから、後は身の回りの物をまとめるだけで出発できるわ。すぐに出発するの?」


「……まだ数日は掛かると思うけど……もう準備ができているの? お父さんとダリオの仕事は?」


「父さんもダリオもフローラちゃんと同じで、今はお手伝いみたいなものよ。話を通せばすぐに辞められるわ」


「そ、そうなの。……ご主人様が荷物は受け取りに行くからまとめておくだけでいいって言っていたわ」


 わずかな希望はついえたわね。この様子だと、どんなことがあっても引っ越しは諦めないわ。


 しょうがないわね。しばらく一緒に船旅なんだもの。できるだけ母さんのご機嫌を取っておきましょう。


「あら? お父さんもダリオも居るし、イネスも手伝ってくれるのでしょ? ワタルさんにまで迷惑は掛けられないわ」


 少し面倒だけど荷物を運ぶのを手伝った方が印象はいいわよね。ここで点数を稼いでおきましょう。


「分かったわ。じゃあ手伝うから準備が終わったら連絡して」


「ありがとう」


 ふふ、荷物運びくらいで母さんのご機嫌が取れるなら安いものよね。


読んでくださってありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
ぶっちゃけ丸投げしたいなら専用にカミーユさんをもう一人雇うべきなんだけどね。それをしてないからな! フローラさんが監督嫌がった以上最早致し方無し。 人脈を作らないと丸投げは出来ませんな。
[一言] 株や為替みたいな虚業は別として金が動けば人が動くし 人が動けば景気も良くなるから神からも褒めてもらえるでしょ もっと丸投げに出来ただろうに日本人らしく中途半端に真面目だから いらん苦労するの…
[一言] 特に商業ギルドのマスターに美容グッズは劇薬な気がするから(うん) 多めに渡しておこう(まてぇい!?) ハトに豆あげる感覚で地雷まいてくなこの主人公!?
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