14話 逆に考えるんだ
目星をつけた開拓地にレンジャー号で向かった。未舗装で道もない場所なので、途中で後輪が穴に落ちるというアクシデントはあったものの、無事に目的地に到着することができた。チーム分けをして軽く周辺を見て回ったが、結果は微妙だった。他のチームが土地の良い部分を見つけて来てくれることを期待したい。
ハイダウェイ号で缶コーヒーを楽しんでいると、エンジンの音が聞こえてきた。アレシアさんチームかドロテアさんチームのどちらかが偵察から戻ってきたのだろう。
たぶんドロテアさんチームかな? アレシアさんチームは森の偵察だし、ドロテアさんチームと比べると時間が掛かりそうだ。
出迎えに行くと、戻ってきていたのは予想通りドロテアさんチームだった。パッと見た感じでは、疲れている様子も汚れた様子もない。たぶん、何事もなく偵察が終わったんだろう。
「お疲れ様です。飲み物をどうぞ」
戻ってきたドロテアさん達に飲み物を勧める。全部フェリーで買った缶飲料だけど……。
ドロテアさんはスポーツドリンク、カーラさんはソーダ、クラレッタさんは緑茶。この情報はしっかり覚えておこう。
何かあった時に、スッと好みの飲み物を出して好感度をアップするためには必要な情報だ。
今までHな方向にばかり目が向いていて、こんな簡単な事さえ知らない自分が恨めしい。
「それで、偵察はどうでしたか?」
「可もなく不可もなくといったところかしら。何もなかったわ」
ドロテアさんが偵察結果を一行にまとめてくれた。とても分かりやすい。
「やっぱりそうですか。こうなったらアレシアさん達に期待ですね。森でダンジョンでも発見してきてくれるとありがたいのですが……」
「ワタル。村を作るのにダンジョンは必要ないわよ?」
ドロテアさんがツッコミを入れてくるが、これにはちゃんと理由がある。
「土地が微妙なので、何か特色がないとただの貧しい村しか作れない気がするんですよ」
強烈に良い部分、もしくは強烈に悪い部分があるのなら、選択は簡単だし活かす強みも消すべきデメリットも分かりやすい。
ここみたいに、全部が微妙に悪いってのが一番面倒だ。なにをするのが正解か分かり辛い……というか、村を作らないのが正解だと思う。
ただ、開発許可を得たのはこの土地だし、商売の神様に言っちゃったから村を作らないという選択肢もない。非常に面倒だ。
「どうせ村を作るなら豊かな方が良いです。でも、獣人の立場から言わせてもらえば、安全に獣人が住めるというだけでも、魅力的な村になると思いますよ?」
「うん。安全は大事」
なるほど、多少貧しくても安全なだけで魅力的か。そういえばジラソーレも獣人のメンバーが居るからって、人族至上主義国家を避けて行動しているって言っていたもんな。
なるほど、少し方向性が見えてきたかもしれない。
……そうか、なるほどそういう事か。逆だ、逆だったんだ。僕は閃いてしまった!
「あら、アレシア達が戻ってきたみたいね」
大発見だと大喜びしようとしたら、ドロテアさんの言葉で水を差されてしまった。
まあいい、会心のアイデアを披露するなら、人数が多い方が良いに決まっている。
アレシアさん達を出迎え、ドロテアさん達と同じように飲み物を勧める。
アレシアさんがファイトで一発な感じの飲み物で、マリーナさんがレモンティー、イルマさんが乳酸飲料か。
覚えてはおくんだけど、ジラソーレって好みが結構バラバラだな。偶々なのか?
「それで、森はどうでした?」
アレシアさん達が一休みして、落ち着いたところで質問する。
「普通ね。小動物がいて狼が居て、スライムなんかの小型の魔物が居てゴブリンが居る。あまり特色がない、普通としか言えない森ね」
あまり好ましくない報告だが、ナイスアイデアを思い付いた僕には大した問題はない。
「ご主人様、やっぱりダンジョンは無かったみたいだけどどうするの? 開発場所を他の場所に変えてもらう?」
イネスの意見も、ナイスアイデアを思いつく前なら考慮していたかもしれない。
「ふっふっふっ、イネス、僕に考えがあるから大丈夫だよ」
「……ワタルが自信ありげな時って、大抵馬鹿なことを考えている時よね」
僕の自信満々な姿を見て、イルマさんが失礼なことを言う。
「そうね、候補にでた全部の豪華客船を買うって言った時も、今みたいな顔をしていたわね」
ドロテアさんも冷静に酷いことを言う。
ドロテアさんだって今は冷静な顔をしているけど、クジ引きで自分が当たりを引いた時に狂喜乱舞していたよね。恥を掻いたのは僕だけじゃないはずだ。
「それで、ご主人様。ご主人様の考えとはどういったものなのですか?」
さすがフェリシア、よく聞いてくれた。
ここで、聞きたい? とか言いたくなるけど、ウザいだけなので止めておこう。すでに若干ウザがられている気配なので、引き際を間違えてはいけない。
「逆に考えるんです。微妙な場所だから駄目だと考えるのではなく、微妙な場所だから好都合だと! そう考えるんです!」
「ワタルは体調が悪いみたいだから、今日はもう休みましょう。フェリシア、ワタルの事をお願いね」
「分かりました」
「ちょ、ちょっと待ってください。アレシアさん……アレシアも話を終わらせようとしないでください。フェリシアも心配気な顔で見ないで。別に体調が悪い訳じゃないよ」
僕の熱弁になんでこんな反応なの?
「ですがワタル、好都合だと考えても微妙な土地だということは変わらないのではありませんか?」
「えぇ、微妙な場所ということは変わりません。待ってください、話はまだ終わっていません」
クラレッタさんの質問に答えただけなのに、すぐに席を立とうとするアレシアさん達。フェリシア、額を触っても熱は無いよ。
「僕は今まで、できるだけ自分が楽な道を選んできました」
皆がためらいもなく頷くが、それはそれで複雑な気分だ。
「なるほど、ワタルは今までの自分から脱却して、自ら苦労を背負って頑張る覚悟なのね。見直したわ」
「いえ、違います。多少の苦労は受け入れようというだけで、自ら苦労を背負うつもりはありません」
アレシアさんの好意的な意見を否定するのは辛いが、頷くと苦労が押し寄せてきそうなのできっぱりと否定しておく。大変なのは嫌だ。
「ご主人様、言いたいことがよく分からないわ」
「ここが微妙な土地だというのなら、素晴らしい土地に変えてしまえばいい。そういうことだよ」
「どういうことよ!」
イネス、ナイスツッコミだ。
「土地が悪いのは水場が無いからだけど、それなら水路とため池……いや、町の安全の為にも巨大な水堀を作れば良いってことだよ。水が潤沢になれば、土地も少しは良くなるよね?」
「ご主人様、港に水路を引くのも面倒臭がってなかった? 巨大な水堀や水路なんて、ちょっと港に水路を引くのよりも比べようがないほど面倒なのよ? 分かってる?」
分かっている。普通の僕ならそんな面倒な事に手を出さない。
でも、逆に考えると、ここはチャンスなんだ。
だって、人魚の村を作るのにかかった費用が、材料費だけとはいえ白金貨三枚だよ?
各国に建てるメンタルケア施設と、その後の維持費を大盤振る舞いしても総額白金貨百五十枚程度でしかない。
新しく豪華客船を買ったことで、慈善事業費は白金貨二千五百枚以上残っている。
細々と使っているだけだと、慈善事業費は増える一方だ。下手をしたら商売の神様から天罰が下るかもしれない。
だからこそ、ここがチャンスなんだ。
商売の神様からここで慈善事業を行う許可は得ている。
慈善事業で村、いや、町を作るのなら、環境を整えるのも当然の事と言い訳できる。
大工事だから数多くの人員が必要ということで、各地で弱い立場にいる獣人達をギルドや商人に沢山集めてもらうことも可能になる。
ならば、ここで大規模工事をして、慈善事業費をあらかた使ってしまえばいい。そういうことだ。
目立つ大規模工事をするなら、根回しが必要になるし、苦労も多くなるだろう。普段の僕なら絶対に避ける。
でも、多少の苦労をしても、慈善事業費の大半を使い切ることができれば採算は合う。
いや、いつも頭の片隅にこびりついて離れてくれない慈善事業費から逃れられると思えば、採算が合うどころかプラスだ。
これぞ逆転の秘策。
開発にかこつけて大規模工事をして慈善事業費を全部使っちゃえ作戦だ!
***
僕はこの素晴らしい作戦を熱意をもって女性陣にプレゼンした。
「えーっと、まあ、この国は私の故郷でもあるし、故郷が潤うのであれば良いこと……なのかしら?」
そう、イネスの言うとおり、公共事業並みの資金投入があれば、この国も潤うよね。良いことに決まっている。
「安全に獣人が住めるだけで魅力的とは言いましたが、そこまでする必要があるんでしょうか?」
あるんですよ、クラレッタさん。
「安全なのは良いこと」
そうです、カーラさんの言う通り、良いことなんですよ。
「ご主人様、たしかに水堀と水路ができればここも豊かになって安全になるかもしれません。ですが、この国は島国ですし差別もありません。大げさではないでしょうか?」
フェリシアが言うことも分からないでもない。でも、ここで逆に説得される訳にはいかないので、少し卑怯な事例を使わせてもらおう。
「フェリシアの村は人種差別がない国に在ったのに襲撃されたよね。悪人はどこにでもいるし、儲かるならどこにでも行くんだ。この国の目が届きづらい未開地に小さな村を作っても、襲われたら対抗できないかもしれない。なら、大きな町を作ってしまえば、国も注目するし、襲われても対抗できる。そういう事なんだよ」
辛いことを思い出させてごめんね。
「たしかに……そうですね……」
フェリシアが納得してくれたことで、この場の全体の空気も納得に変わった。
よし、これで決定だ。
もうここに居ても仕方がないし、王都に戻ろう。
視察に来たことで当初の予定とは随分変わってしまったが、現地を見たことで素晴らしいアイデアを思い付いたから、無駄足ではなかった。
あとは王都に戻ったら、冒険者ギルドと商業ギルドあたりに、白金貨二千五百枚を叩きつけて、有無を言わさずこき使ってやる。
あっ、話を通して叩きつけるならギルドよりも王宮かな?
読んでくださってありがとうございます。




