13話 やっぱり微妙
商売の神様からのプレッシャーにより、急遽動き出したアクアマリン王国での開拓計画。場所は地味に不便な未開地で、最初の開拓拠点すらなかなか決められない微妙な状況だけど、なんとか頑張りたいと思う。
未開地なので道もなく、起伏にとんだ悪路をレンジャー号が走り抜ける。
当然、レンジャー号の中は不快な揺れに大騒ぎ……ではない。
高レベルの女性陣が集まっているから割と平然と椅子に座り、突起に乗り上げて物が落ちそうになっても冷静に対処している。
騒がしいのは揺れて振動に弾き飛ばされることに楽しみを見出した、リム、ふうちゃん、べにちゃんのスライム組だ。
あっちにコロコロ、こっちにコロコロととても楽しそうに車内を転がっている。ちなみにペントは車内のポールに巻き付いてまったりしている。
「このペットボトルって外での活動に最適よね。軽いしちょっとやそっとじゃ壊れないし持ち運びも便利だし、蓋を閉めたら中身はこぼれない。冒険者になった頃に欲しかったわ」
「そうね、この容器があれば色々と便利だったでしょうね」
「それならカップ麺!」
「あぁ、そうね、インスタント食品って言うらしいけど、普通に町で食べる料理よりも美味しいのよね。これが冒険者になりたての頃にあれば、不味い携帯食のお世話にならずにすんだわよね」
背後からアレシアさん、ドロテアさん、カーラさん、イルマさんののんきな会話が聞こえる。
移動で改めてペットボトルの便利さに感心し、そこにカーラさんがインスタント食品を熱く推したことで話題が転がりだしたようだ。
久しぶりにフェリーの自販機コーナーで飲みたいみたいな会話に発展している。
でも、気持ちは分かる。毎日豪華客船で良い物を食べていても、カップ麺とか自販機コーナーのチンしたチープな食べ物には、別の魅力を感じてしまうよね。
「ご主人様、前方に大きな岩があります。注意してください!」
「おっと、ありがとうフェリシア」
いかんいかん、背後の会話に意識が向いて前方不注意になっていた。普通の道でも危ないのに、こんな悪路で油断はいけない。
しかし不壊の効果って本当にチートだよね。
水陸両用バスという、なんとなくデリケートっぽい車体で、凸凹未舗装な悪路を突っ走って故障しないのは、凄いことだと思う。
あはははははは、チート最高!
ガコン! ガガガガガガッ!
「「「キャッ!」」」
ベチャベチャベチャ
「あっ! リム!」
「べにちゃん!」
「ふうちゃん!」
「いつつ、ちょっとワタル、どうしたの?」
「あっ、すみませんアレシアさん、タイヤが穴か何かに落ちちゃったみたいです」
チート最高とか調子に乗っていたからバチが当たったのかもしれない。アクセルを踏んでも後輪が空回りしている。
壊れないチートな乗り物でも、タイヤで動く以上はタイヤが地面をとらえないと走ることはできない。あれ? なんか哲学っぽい?
あと、カーラさん、アクシデントだったので、こういう時まで敬称の有無を突っ込まないでください。
ちなみに、急停止によってフロントガラスに張り付いてしまったスライム組からは、楽しい、もう一回という思念が飛んできているので無事なようだ。というか、あの瞬間をもう一度とでも言いたげな熱い思念が飛んでくる。
リム達がフロントガラスにベチャっとなった瞬間は肝が冷えたけど、さすが高レベルなスライム、これくらいの事は何てことないようだ。でも、もう一回はやりません。
「ご主人様、申し訳ありません。凹みに気がつきませんでした」
「いや、フェリシア。これはしょうがないよ。ここは草の背丈が高いから、見分けるのは難しいもん」
フェリシアが申し訳なさそうに頭を下げるけど、こんなどうしようもないことで謝られても困る。僕はそこまで理不尽な男じゃないよ。
「それでご主人様、どうするの? レンジャー号をみんなで持ち上げる?」
いやイネス、バスを持ち上げるって……いや、このメンバーなら簡単に出来そうではあるな。むしろカーラさん一人でも大丈夫な気がする。
でも、そんなことはしなくていい。たしかにタイヤが地面をとらえないと車は走れないけど、それでも船召喚はチートだってこと見せてあげるよ。
「とりあえず一旦みんなで外に出てから、レンジャー号を召喚しなおせばすぐに走れるようになるから大丈夫。ちょうどいいから、ここで少し休憩しようか」
一時間近く車に揺られていたから、休憩のタイミングとしても悪くないだろう。僕の言葉に女性陣とリム達が車を降りていく。
あの衝撃でもポールに巻き付いたままだったペントは、なぜかスルスルと僕の体に巻き付いてきた。……水場が無いから自分で動きたくないのかな?
ペントを体に巻き付けたまま外に出ると、グイっと両手を上げて背筋を伸ばす女性陣が……見たら駄目だ。見たら駄目だ、見たら駄目だ。
背筋を伸ばして豊かな母性を強調してくる悪魔から必死で目を逸らす。
せっかく、好青年とは言えないが変態ではないムーブができているとイネスに太鼓判を押してもらえているのに、ここで母性をガン見して評判を落とすわけにはいかない。僕は普通の男の子になって、アレシアさん達を口説くんだ!
必死で目を逸らすと、そこには車体を地面に擦りつけているレンジャー号の姿が……なんか少し落ち着いた。
ふむ、結構大きな凹みに落ちたみたいで、後輪は完全に宙に浮いてバスのお腹は地面を擦っている。よく前輪は通り抜けたと思ったけど、岩を除けるために途中まで蛇行していたんだったな。
前輪が落ちるよりも後輪が落ちた方が車内のダメージは少なそうだし、むしろラッキーだったかもしれない。
とりあえずレンジャー号を送還して、小屋船と食料船を召喚する。小屋船を召喚するのも久しぶりだな。
角兎と死闘を繰り広げていた昔を思い出して、なんかちょっとワクワクしてきた。
休憩をしながらあの頃を懐かしむのも良いかもしれない。
***
休憩の後は特にトラブルもなく目的地まで到着した。
ちなみに、昔を懐かしむのは即行で諦めた。あの頃の思い出って、ほとんどが角兎を撲殺していた記憶だけだったよ。
その撲殺した角兎達の魂が、サポラビとして僕の傍で働いていると思うと……萎えるよね。
なんとなく虚しくはなったが、目的地に到着したのでレンジャー号を送還し、ハイダウェイ号を召喚する。
ちょっと出入りが不便だけど、簡単に超豪華ジェットバス付の一軒家が召喚できることを考えると、やっぱり船召喚はチートだ。
「ハイダウェイ号も久しぶりね。そういえばこの船で初めてワタルと一緒にお風呂に入ったんだったかしら? うふふ、ワタル、また一緒に入る?」
アレシアさんがハイダウェイ号を見て、僕が飛びつきたくなる提案をしてくる。
なんかHな目を向けないようにし始めてから、アレシアさん達からの胸熱な誘いが増えているんだよね。
これが押して駄目なら引いてみな的な効果なのかと喜び勇んでイネスに報告したら、それはちょっと違うと否定された。
単純に我慢していることが見抜かれていて、からかわれているだけらしい。
悔しかったので、言質を取ったんだから飛びついてもいいかな? と考えたが、イネス曰く、ここが我慢のしどころらしい。この衝動に耐えてこそ、ハーレムへの道が開けるんだそうだ。
恋愛……いや、ハーレムって奥が深い。
「あはは、き、機会があれば、そそそれも楽しそうですね……」
だから僕は、断腸の思いでアレシアさんの誘惑を跳ねのける。ハーレムという未来のために。
「えーっと、まずはこのハイダウェイ号を拠点にして周辺を確認することから始めようと思います。アッド号を二台召喚しておきますので、ジラソーレの皆さんで自由に使ってください」
このままからかわれると僕の精神が消滅するので、とりあえず仕事を始める。
僕はイネスとフェリシアに守られつつ、リムとペントと近場の探索。
アレシアさん達には、拠点から離れた平地と森の調査をお願いしている。Aランクの冒険者パーティーなんだから、任せておけば最良の結果を持ってきてくれるはずだ。
「分かったわ。じゃあ私とマリーナとイルマが森に入って、ドロテア、カーラ、クラレッタが平地の偵察ね。じゃあワタル、行ってくるわね」
「あっ、はい、お願いします」
サクサクとチーム分けして、パッと装備を整えてアレシアさん達が出発してしまった。
最近、豪華客船やフェリーでキャピキャピした姿ばかり見ていたから違和感があるけど、やっぱり一流は凄いね。
カーラさんが大量にお菓子をリュックに詰めていたのが少し気になるけど……。
あと、二人乗りのアッド号に美女が三人で密着して乗っている姿は美しかった。でも、装備を身に着けていたから、硬そうであの間に挟まれたいとは思わなかったな。
昔の僕ならたとえ硬そうでも挟まれたいと願っていただろうから、最近の我慢で少しは成長しているのかもしれない。
「じゃあ、僕達も見て回ろうか」
わずかな自身の成長が感じられて、上機嫌で偵察を開始しようとする。
「そうね、久しぶりの陸での冒険だし、何か面白いことが起こることを期待したいわ」
イネス。ここは君の地元で、面白いことが無いから国を出たんだよね? 何を期待しているの?
「分かりました。まずはどちらに向かいますか?」
どっち?
「えーっと、じゃあとりあえず北にある程度進んで、そこからグルっと一周しようか」
なんか偵察というか散歩気分だな。
***
「えーっと、とりあえず一周したけど、基本的に草と土の平地で、角兎とスライム、時々ゴブリン? ……これってどうなのかな? 住めるの?」
角兎は、一瞬丸焼きが食べたいと思ってしまったが、放置。
スライムはもっちもっちしたくなったが、一応偵察中なので我慢して、ビーフジャーキーをプレゼントして放置。
ゴブリンはイネスとリムが惨殺。
「角兎は食料になるから悪くないわね。ゴブリンは……私達からしたら雑魚だけど、住むとしたら面倒な相手ではあるわね。うっとうしいもの」
イネスは平気かもしれないけど、僕は未だにゴブリンが苦手だよ。さすがに負けるとは思わないけど、歯をむいて威嚇してくる姿は普通に怖い。
「森の偵察結果次第ですが、この程度でしたら柵を作って防御を高めれば身の安全はなんとかなりそうだと思います」
森に隠れ住んでいたフェリシアの意見は参考になりそうだ。
「えーっと、住めるってことでいいのかな?」
「住めないこともないってところかしら?」
「土もそれほど良くはありませんし、私でしたら仮の拠点と考えて、別にもう少し良さそうな場所を探します」
住めないこともないけど、好んで住みたいと場所ではないって感じかな?
ふふ、他の場所って言われても、資料ではここが一番まともそうな場所なんだけどね。
放置された未開地は、それなりの理由があるから未開地なんだね。
王国東部はやっぱり微妙な場所のようだ。アレシアさん達が一発逆転の情報を持ってきてくれることを強く期待したい。
……とりあえず、ハイダウェイ号で一服しよう。
読んでくださってありがとうございます。




