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めざせ豪華客船!!  作者: たむたむ
第十四章
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10話 愛されているイネス

 アレシアさん達から好意を得るために爽やかな自分を演出したが、イネスに気持ち悪いと否定された。次は真面目タイプの好青年を目指そうとしたが、女性陣が水着になる事態が発生してしまったために明日から頑張ることに変更。女性陣の水着姿を全力で堪能した。楽しかった。とても楽しかった。


「もうすぐアクアマリン王国近くの外海になるので、ルト号に乗り換える準備をお願いします」


 了解といった様子で準備のために自室に戻るアレシアさん達。


 フェリシアも一緒に移動したから、僕の分の荷物もまとめてくれるだろう。そうなると、問題は……テーブルに突っ伏したまま不満全開なイネスだな。


「イネス、そろそろ機嫌を直そうよ」


「嫌よ!」


 テーブルにくっつけていた顔をプイっと反対に向けるイネス。小学生並みに拗ねてしまっている。


 イネスを見ていると何度も思う。奴隷って何だろう?


 ご主人様として叱るべきな気もするが、こちらにも悪い部分があるから叱り辛くもある。


「イネス、ここでむくれていても到着は延ばせないよ?」


「じゃあ、せめて滞在期限を短くしてよ。元々、さっと行ってさっと帰る予定だったでしょ。そして、母さん達を最速でキャッスル号に送り届けるのよ。その後でアクアマリン王国にたっぷり滞在すればいいでしょ!」


 そんなに家族……母親であるベラさんと一緒の時間が増えるのが嫌なのか。


 まあ、ベラさんは厳しいからその気持ちが分からないこともないけど、原因はギャンブルで奴隷に落ちたイネスにあるんだよね。


 娘がそんなことをしでかしたら、母親として再教育に力を入れるのも当然だろう。むしろ、あんまり怒らなかった父親のカルロさんと、弟のダリオ君の方が異常だと思う。 


「イネスの気持ちは分からないでもないけど、ベラさん達もフローラさんも引っ越しの準備は済んでないだろうし、アクアマリン王国とキャッスル号を余計に往復するのは時間の無駄なのは分かるよね?」


 だいたい、フローラさんはともかく、ベラさん達がキャッスル号で働くかどうかを確定するのは半年後の約束だったよね?


 まあ、僕の印象でも間違いなく確定だったからしょうがないか。でも、その時になったらまたイネスは足掻く気がする。


「むーー」


 分かっているけど納得はできないようだ。アクアマリン王国に行くのを前倒しにするって告げた時も、ビックリするくらいゴネたもんな。


 元々はイネスが言った通り約束の日にベラさん達を迎えに行くだけの予定だった。


 アクアマリン王国では魔導師様が英雄扱いされていたし、僕も甘い汁を吸おうとする貴族や商人にも注目されていたから、余計に滞在して面倒な相手を刺激したくなかった。


 でも、状況が変わっちゃったんだよイネス。


 グ〇ンディオーサをシャトー号と命名して数日、僕達は新しい豪華客船を全力で楽しんだ。


 僕の好青年ムーブも悪くはないとイネスにも褒められていた。僕も得意満面だった。


 そして、隅々まで豪華客船を楽しむなら、教会にも足を踏み入れることになる。


 当然のごとくシャトー号の教会も聖域になっていた。それはまあしょうがないよね、創造神様だもんと納得はできた。


 ただ、計算外の出来事が一つ、お祈りの際に起こってしまった。


 もともと新しい豪華客船を買ったんだし、神界に呼ばれて創造神様から色々と言われるのも想定してお祈りをした。


 なんだったら、もう一度光の神様と美食神様、森の女神様との素晴らしい日々を再現するチャンスだとすら思っていた。


 ただ一つ計算外だったことは……予定通り神界に呼ばれて目を明けた時、目の前に居たのが創造神様でも光の神様でもなく、商売の神様だったことだ。


 そして、僕にとっても辛い会話が始まった。


「航、久しぶりだな」


「……商売の神様、お久しぶりです」


「新しい豪華客船を買ったようだな。順調そうで何よりだ」


「……あはは、ありがとうございます」


「だが、慈善事業費も大幅に増えたな?」


「……はい、そうなりますね」


「どうするつもりだ?」


「えー……メンタルケア施設も建てますし、徐々に消費するつもりです」


「そうか。だが、消費する速度と増加する速度が釣り合っていないように思えるのだが? しかも、まだまだ豪華客船を増やすつもりなのだろう? 創造神が自慢げに吹聴していたぞ?」


「えっ? ……はい、船召喚にはまだ先があるようなことを創造神様が教えてくださりまして、頑張ってみようかと思いまして……」


「そうか、船召喚がどうなるのか私は知らぬが、消費と増加のバランスが崩れているのは好ましくないということは知っている」


「…………あ……アクアマリン王国に獣人達の為の場所を作りたいと思います。それは慈善事業費として認められますか?」


「ふむ……まあ、良いだろう。励めよ航」


「はい! 早急に取り掛かりたいと思います。では、失礼いたします」


 完璧に僕の敗北と言っていい内容の会話だった。


 なんかとてつもなく創造神様に足を引っ張られた気がする。


 たしかに、創造神様の計算通りに僕は動いていた。シャトー号を購入してもレベルが上がらなかったし、次の豪華客船の購入も考えていた。


 でも、創造神様が余計な事を吹聴しなければ、商売の神様もまだまだ様子を見てくれたんじゃないだろうか?


 まあ、慈善事業費がとんでもない額になって、その時に怒られるよりもマシだけど、でも、このタイミングはいただけない。


 おかげでアクアマリン王国での事業に早急に取り掛かることになってしまった。


 急な予定変更。アレシアさん達はちょっと驚いた様子だったけど受け入れてくれた。でも、一番の問題は残っていた。そうイネスだ。


 この予定変更によって、イネスの苦手なベラさんとの時間が増える。それをイネスが許容する訳がない。


 案の定、イネスは猛反対で激おこ。そのうえ注目がそれほど薄れていない時期にアクアマリン王国に滞在することになってしまう。


 もう、予定がめちゃくちゃだ。


 しかも荒れたイネスがシャトー号のカジノで全財産を溶かして更に荒れちゃうし、踏んだり蹴ったりとはこのことだ。


 あっ、思い返すだけで胃がシクシクしてきた。帰りたい。


 ……でも、商売の神様から励めよって言われちゃったし、さすがに頑張らないと駄目だろう。


 ……とりあえず、イネスの機嫌をなんとかしよう。


 ***


 イネスの機嫌はなんとかできなかったが、とりあえずルト号には運び込み、なんとかアクアマリン王国の港には到着した。


 ルト号は船偽装で外観を変えたから直ぐに身バレすることはないが、ここからの行動は慎重を要する。


 大金を投じての未開地の開発なんて大事業、最終的には身バレしてしまうだろうが、煩わしい時間は短い方が良い。できるだけ内密に進めたい。




「マリーナさん、お願いします」


 夜になるのを待って、マリーナさんにベラさんへの手紙を届けてもらう。高レベルの斥候職であるマリーナさんなら、誰にも気づかれずに届けられるだろう。


 まずは地元民のベラさん達に話を聞いて情報収集だ。


「分かった。ふうちゃんをお願い」


 ふうちゃんをナデナデしたマリーナさんが、素早く闇の中に消える。さすがマリーナさん、一瞬でどこに居るのか分からなくなった。


 ***


「ただいま。一緒に来るって言うからベラさんを連れてきた。許可をお願い」


「えっ?」


 一時間もせずに戻ってきたマリーナさんが、ベラさんを連れてきてしまったらしい。手紙を渡して、アポイントメントを取るだけのつもりだったからビックリだ。


「ご、ご主人様、まだ心の準備ができていないわ。追い返して!」


 ……イネス、娘としてそれはどうなの? そりゃあネグレクトな親ならそういう反応も分かるよ? でも、ベラさんは違うよね?


「これから協力をお願いするのに、そういう訳にもいかないでしょ」


「大丈夫。適当に化粧品でも渡せば機嫌なんてすぐに直るわ」


 アクアマリン王国に到着するまで、いや、到着してもずっと不機嫌だったイネスが言う言葉ではないよね。まあ、今は不機嫌よりも恐怖が勝っているみたいだけど……。


「無理。今から許可を出すから、イネス、ちゃんとしてないと後が怖いかもよ?」


 ピシッとイネスの背筋が伸びた。


 もうあれだな、ベラさんにはキャッスル号で働いてもらうよりも、一緒に行動してもらった方が良いかもしれない。


 ……イネスがストレスで壊れるから駄目か。


 固まったイネスを置いて船の外に出ると、ベラさんがにこやかに立っていた。船内から漏れた光しかない薄暗い中でも分かる美貌はさすがだ。


「ベラさん、お久しぶりです。急なお願い、申し訳ありません。どうぞお入りください」


「いえ、こちらこそ夜分に申し訳ありません。少しお伝えしたいことがありましたので、ご迷惑とも思いましたがお伺いしました」


 伝えたいこと? もしかしてキャッスル号に家族で就職するのが難しくなっちゃったのかな? イネスは飛び上がって喜びそうだけど、僕は少し残念だ。


 ベラさんを連れて船室に入ると、ベラさんはイネスを見て優しく微笑み、イネスは引き攣った笑みを浮かべる。似ている親子の対照的な表情が少し面白い。


 ベラさんにソファーを勧めてお茶を出す。


「えーっと、それで伝えたいこととはなんでしょうか?」


 こちらの話をするよりも、ベラさんの話を先に聞いた方が良いだろう。


「お手紙を拝見したのですが、目立ちたくないと書かれていましたのでお伺いしました。家は見張られていますので、ワタルさん達がいらっしゃるのは少し不味いかもしれません」


 見張られているとの言葉に、船室の空気が緊張に包まれる。


「母さん、何かあったの? 危険は? 父さんとダリオは大丈夫なの?」


 さすがのイネスも顔色が変わる。苦手だけど、嫌っている訳じゃないもんね。緊迫した雰囲気なのに、少しホッコリしてしまった。気を引き締めねば。


「あらあら、誤解を生む表現でごめんなさい。問題はないのよ。ただ、前回ワタルさん達から船に招待して頂いて、色々と変わったでしょ? それと購入した物やお土産で注目を集めてしまって、見張られているというか注目されているというか、そんな状況なんです。危険はありません。ただ、家に来ると凄く目立ちます」


 船室の空気が一気に緩んだ。


 つまり、ベラさんの美貌に磨きが掛かったりしたから、いまだに注目されているってことだな。物品も王侯貴族がこぞって欲しがる品だし、しょうがないだろう。


 要するに、危険はないけど目立たずにってのは無理ってことだな。


 あれ? それくらいなら伝言で済む話だよね?


 ……なるほど、ベラさんの視線で分かった。伝えたいことも確かだったけど、単に早くイネスに会いたかったんだね。


 愛されているね、イネス。


読んでくださってありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 豪華客船以上の船って言ったら…戦艦か?
[気になる点] 商売の神がマジで口だけで気分悪い。恐らく一番ヤバいのは創造神だろうけど、スキルの事とかを考えると同時に一番お世話になってる神でもあるから特に気にならない。でも商売の神は自分の頼みを聞い…
[一言] お金の消費なら、慈善事業の枠組みに拘らなければ、或いは十分枠組みに入れられると思うが、インフラ整備や治水工事とか公共事業で人手を一杯使って「地形を変えるレベルの大工事」を行えば、豪華客船の費…
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