4話 新たな豪華客船購入
新年、明けましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いいたします。
秘策だと思ってドヤ顔で秘策をぶちかましたら、実はそれが下策で女性陣から猛烈な駄目だしを受けた。どの豪華客船を買うのか意見が割れていたから、カッコよく全部買ってあげるよと成金ムーブを決めただけなのに、理不尽な世の中だと思う。
「この箱の中からくじを引いて、〇が出たら当たりです。恨みっこなしでお願いしますね」
僕の言葉に促されて緊張した表情の美女達が真剣な顔でくじを引いていく。
くじ引きで緊張ってドラフトみたい……あれ? よく考えたらこのくじの結果で何百億の豪華客船の購入が決まるんだよね?
下手をしたらドラフト以上に緊張感が必要なくじなのかもしれない。
そう考えると、クッキーの空き箱で作ったくじがとても貧相に感じられる。高級クッキーの空き箱にも関わらずだ。
うーん、もう一回くじから作り直す……のは無理だな。すでに五人がくじを引いている。ここでやり直したら、あとでくじが外れた人にやり直したからだと文句を言われる可能性がある。
今回は愛情を込めて作ったくじだということで納得しておこう。次があれば、もう少し考えてくじを作るべきだな。格式は大切だ。
全員がくじを引き僕も箱から最後の一枚を引く。運のステータスは低いけど、残り物には福があるらしいし、当たりにちょっとだけ期待している。
ここで僕が当たりを引けば、豪華客船全部買っちゃうよ事件で下がった株も急上昇するだろう。
「ワタル、くじはもう見ちゃっていいの?」
アレシアさんがチラチラと自分が引いたくじを見ながら質問してくる。かなりくじの結果が気になっているようで、くじ引きをプロデュースした僕としても鼻が高い。
……鼻は高いけどくじの確認の方法は考えていなかったな。
一人一人順番に確認していくのも盛り上がるけど、最初の方で結果が出ちゃうと残りの人達のワクワク感が薄れてしまう。ここは一斉にくじを確認する方がドラマチックだろう。
「僕が合図を出しますので、一斉に確認しましょう」
全員が頷いたので、僕も喉の調子を整えて合図の準備をする。くじの確認の合図ってどんな合図だ? 別の意味でドキドキしてきた。
「えー……では、開いてください!」
カッコいい合図が思い浮かばず、至極普通の合図を送る。この時点で自分のくじが当たっている気がしなくなった。凄い速度で運が逃げていった気がする。
それでもわずかな望みにかけて、四つ折りにされたくじを開くが、当然のように白紙。九分の一の確率すら潜り抜けられない自分の運が切ない。
「キャー! これ、当たり? 当たりよね? 〇が書いてあるもの。やったわ、当たったわ! べにちゃん、当たったわよ!」
……なんだろう、とても珍しい光景を見ている気がする。
皆も僕と同じなのかくじが外れて悔しがることもなく、大はしゃぎしているドロテアさんをマジマジと見ている。
仲間のアレシアさん達でさえ驚いているんだから、ドロテアさんがはしゃぐ姿はやっぱり珍しい光景だよね。
頭の上に乗せていたべにちゃんを胸元に抱き、当たりくじを見せながらキャイキャイとはしゃぐドロテアさん。
ジラソーレのサブリーダーとしての冷静な振舞からは想像できないリアクションだ。それだけくじが当たったのが嬉しかったのだろうか?
いや、ドロテアさんは自分のことで我を見失うタイプじゃないな。そういえばドロテアさんが選んだ豪華客船は、べにちゃんと一緒に選んだんだったな。
べにちゃんの希望を叶えられたからこそのこのテンションか。同じスライムLOVE勢としては嬉しい反応だ。
「…………コホン、失礼しました。少し騒がしかったですね」
全員の生暖かい視線にようやく気がついたドロテアさんが、急に落ち着いた雰囲気に戻って謝罪をする。
でもあれだな、間違いなく恥ずかしがっているな。褐色な肌で分かり辛いけど、白いタイプの肌なら顔が真っ赤になるくらい恥ずかしがっていると思う。
目が泳いでいるし、内心ではしゃいだことをとても後悔していそうだ。ちょっと面白い。
皆もそう思ったのか、ドロテアさんを囲んで口々におめでとうと言いつつも、嬉しかったのねとか、可愛らしかったわとか余計な一言を添えてドロテアさんの羞恥心を刺激している。
ふむ……美女達による美女に対する言葉責めか……これはこれで有りだ。攻める美女達のS的な微笑みと、攻められる美女の羞恥の表情。
ドロテアさんがM気質でないからこそ素晴らしさが際立っている。ご馳走様です。
「もうやめて! ワタル! 買う船が決まったんだから話を進めるわよ!」
ニヤニヤと美女達の戯れを堪能していると、耐えられなくなったドロテアさんから話を進めるように促された。
……そうだった。今の時間は美女の羞恥プレイを見る時間じゃなくて、豪華客船を購入する時間だった。
豪華客船を買うという一大イベントを一時とはいえ忘れさせるとは、美女達の戯れって凄まじい破壊力がある。
「そうだったわね。あまりにもドロテアが可愛かったから忘れていたわ」
笑顔で追加攻撃をするアレシアさん。
「ドロテア、可愛い」
ポツリと呟くマリーナさん。
「うふふ。知らなかったの? ドロテアは冷静に見えても乙女気質なのよ」
イルマさんが何気に凄いことを暴露している気がする。ドロテアさんの顔が、褐色な肌でも分かるくらいに真っ赤に染まる。
「ドロテアは乙女だよ?」
当たり前だよねと首をひねるカーラさん。純粋な目はドロテアさんの本質を見抜いていたようだ。
「みんな、これ以上は……」
焦るようにみんなを止めようとするクラレッタさん。さっきの廊下で同じように攻められた僕としては、僕の時は止めてくれなかったのにとちょっとだけ思う。
「もう! いい加減にしなさい!」
「あっ、キレたわ」
イネスの言う通り、ドロテアさんがキレてアレシアさん達に掴みかかった。羞恥心が限界突破したらしい。
「ご主人様、こちらに」
そっと僕を引き寄せて、守りに入ってくれるフェリシアは奴隷の鑑だと思う。イネスはヤジを飛ばしていないでフェリシアを見習ってほしい。
***
「えー、では、豪華客船を購入したいと思います」
ようやく騒ぎが収まり、ついに本題である豪華客船を購入する時がやってきた。
何百億もの大きな買い物だからなかなか決まらないのもしょうがないが、時間の使い方は確実に間違えたと思う。アレシアさん達がボロボロになっている時点で間違いない。
「ドロテアさん、この豪華客船で間違いありませんよね?」
ここまで騒いで買う船を間違えたら洒落にならないから、購入する前にドロテアさんに改めて確認する。
ドロテアさんが購入画面を確認するために身を寄せてくる。本来であれば内心で歓喜している状況だけど、ドロテアさんもボロボロなので興奮よりも心配が先に立ってしまう。
せっかくのイベントなので身だしなみを整える時間を設けたかったが、時間をおくとまた騒ぎになりそうなので諦めるのが正解だろう。
「えぇ、この豪華客船で間違いありません。ワタルさん、お願いします」
「分かりました」
ポチっと購入ボタンを押す。
たったそれだけで白金貨千七百枚が消えた。冷静に考えるととんでもないことをしているな。
まあ、白金貨千七百枚が消えたことよりも、慈善事業費が白金貨千七百枚増えた方が辛いんだけど……。
「……購入しました」
軽く鬱になりながらも、購入したことをドロテアさんに報告する。
「ふふ、ありがとうワタル」
いやん、間近で見るドロテアさんの感謝の微笑みが素晴らしいです。顔に引っかき傷がついていなければ最高でした。
しかしあれだな、白金貨千七百枚の重圧も、美女の笑顔で跳ねのけられる僕って、意外と得な性格をしている気がする。
「ご主人様、購入したのね。じゃあ見に行きましょう。どんなカジノなのか早く見たいわ」
……お小遣いが足りないのとのたまったばかりなのに、イネスはさっそくカジノに行くつもりらしい。
「お小遣いの追加予定は無いよ?」
「えっ、ご主人様、それは無いわよ。私を買った時の契約を忘れたの? 商売の神様から罰を受けるわよ? 悪いことを言わないから、ここは購入記念ってことで大盤振る舞いをしておいた方がいいわ。ご主人様の為なのよ?」
お小遣いの追加が無いと聞いたイネスが、慌てて悪どいことを言ってくる。お小遣いの為に神罰を持ち出してくるのはどうなんだ?
「たしかに出来るだけ楽しませるみたいな契約はしたけど、年にかなりのお小遣いをあげているし、契約には引っかからないんじゃないかな? 引っかかったとしても、たぶん罰の前に商売の神様から警告が来ると思うから、心配しなくても大丈夫だよ」
こちとら神様と直通だからそんな脅しは無意味なのだよ。
まあ、せっかくの新しい豪華客船で遊べないのは可哀想だから、もう少し焦らした後で少しだけお小遣いはあげよう。
それまでは懇願するイネスを堪能だな。
「ワタル、イネスのお小遣いはともかくとして、私達も新しい豪華客船を見学したいわ」
まあ、たしかにアレシアさんの言う通り早く見学したいよね。僕も同意見だ。イネスがともかくって何よと騒いでいるが、それは置いておこう。
「分かりました。では、ルト号で外海に出ましょうか?」
「? ここじゃ駄目なの?」
たしかに召喚するだけならクリス号の隣に召喚すればいいんだけど、ここでは駄目な理由がある。
ダークエルフの島から丸見えなことだ。
「ここで召喚すると、ダークエルフの子供達が騒ぎまくるので駄目です」
ただでさえクリス号のご馳走に魅了されているちびっ子達。その隣にクリス号よりも巨大な豪華客船が現れたら、間違いなく興味を示す。
クリス号は一度乗船しているから抑えが利くが、新しい豪華客船を見たら好奇心が爆発する可能性が高い。
別にちびっ子達を含めたダークエルフ達を招待するのは構わないが、時間を空けないと特別感が無くなるし、招待する前にしっかりと新しい豪華客船を把握しておきたい。
招待するのは今回の船旅が終わってからくらいがベストだろう。
「あの子達なら泳いで侵入してきかねないわね。じゃあ移動しましょうか」
アレシアさんも納得してくれたようだ。乗船拒否があるから船に侵入はできないんだけど、あのアグレッシブな子供達の場合、船の近くまで泳いできて乗せろと騒ぐ可能性も否定できないよね。
方針が決定したのでルト号への移動を開始する。
あっ、船召喚のレベルが上がったのか確認していない。……まあ、ルト号での移動中に確認すれば良いか。
「では、新たなる豪華客船、グ〇ンディオーサに向けて出港します!」
新規豪華客船の値段があやふやで申し訳ありません。調べたのですが値段まで辿り着けませんでした。
情報提供ありがとうございました。修正しました。
読んでくださってありがとうございます。




