20話 ここからが本番
光の神様、美食神様、森の女神様。僕の中での女神様トップスリーが、創造神様をしっかりとおもてなしするためとはいえ、クリス号に三柱だけで降臨してくれた。創造神様のことを忘れる訳にはいかないけれど……この機会に頑張っちゃったりするのは、許されるよね?
「う、うーん……あれ? 森の女神様?」
目が覚めたら、なぜか目の前に優しく微笑む森の女神様が……まだ夢の中? 夢ならとても素晴らしい夢だ。
ふむ……夢ならばこの機会を逃すわけにはいかない。ここは男として、いや漢として、森の女神様の素晴らしい母性の象徴が、どれだけ素晴らしい母性の象徴なのかをこの手で確認するべきだろう。
「あら、航さん。起きたんですね? 大丈夫ですか?」
「へ?」
森の女神様が優しく僕の頭を撫でてくれるが、その感触が妙にリアルだ。もしかして、これって夢じゃない? 母性の象徴に伸ばそうとしていた右手の動きを止める。
「忘れてしまいましたか? 航さんは美食神に抱きしめられて気絶したんですよ?」
「あっ! あー、そうでした……思い出しました」
そうだった。美食神様と料理について話していて、テンションが上がった美食神様に抱きしめてもらえたんだ。
なるほど、美食神様の色気にやられて意識を失ってしまったんだな。童貞でもあるまいし、抱きしめられたくらいでとも思うが、あの色気と吐息、感触はヤバい。気絶するのもしょうがないだろう。
あれ? そうなると、僕は現実で森の女神様の母性の象徴を……危なかった。心底危なかった。違和感を覚えて手を止めた僕、グッジョブだ。
「お待たせして申し訳ありませんでした。えーっと、どれくらい気絶していましたか?」
「十分程度です。お茶を頂いて休憩できましたし、航さんが気にすることはありませんよ。むしろ、謝るのは美食神です」
僕の質問に、優雅に紅茶を嗜んでいた光の神様が答えてくれた。目の前の森の女神様に気を取られていたけど、当然、光の女神様も美食神様も近くにいるよね。この三女神の前で堂々とセクハラとか……背筋がゾッとする。
「航さん、ごめんなさい。あまりにも楽しそうな提案をしてくれたものだから、少し興奮してしまったの。次からは気を付けるわね」
気を付ける? 気を付けられちゃったら美食神様からの抱擁チャンスが減るってことだよね?
そんな現実は受け入れられない……けど、気を付けないでドンドン抱きしめてくださいとも言えない。とてつもないジレンマだ。
「あはは……、えーっと……お気になさらないでください」
僕に言えるのはこれが精いっぱいだ。本当に気にしないでドンドン抱きしめてほしい。
「ありがとう、航さん」
「いえ、本当になんの問題もありません。えーっと、それで、美食神様にお願いする話は終わりましたので、次は森の女神様にお願いするお仕事についてですね」
「そうですね。でも、この船で私にできるお仕事とはなんでしょうか?」
その点については心配要らない。森の女神様をお呼びして、その上で継続的に関係を続けるために僕は頭をフル回転させたんだ。
「森の女神様もお気づきだとは思いますが、クリス号はキャッスル号と比べると植物が少ないのです」
「そうですね。あちらの船には公園もありましたし植物も豊富でしたが、こちらの船では観葉植物と言うのでしたか、それが主体で緑は少ないですね。ということは、航さんは緑を増やしたいとお考えですか?」
「はい。料理と同じように、この世界の植物が身近にあった方が創造神様も嬉しいと思うんです。といってもキャッスル号のように公園を作るのは難しいですし、環境が合うかも分かりません。そこで、森の女神様のお力をお借りできればと思っています」
クリス号に備え付けの観葉植物は最善の状態を保たれるけど、持ち込んだ植物はそうはいかない。世話をするために余計な手間が掛かってしまう。本来の僕であれば面倒な選択は回避しただろう。
でも、今回は手間が掛かるからこそやるべきだと思っている。手間が掛かれば掛かる程に森の女神様に相談する機会が増えるし、森の女神様も自分が手掛けた植物が船で育てば愛着も沸くという、一石二鳥の方法だ。
この方法を思いついて、植物が生きたまま送還できるのかと、サポラビに水やりができるのかを確認し、成功した時は天が僕に味方をしていると思った。まあ、その天は創造神様なんだけれども。
さっそく僕は動き出し、ダークエルフの皆さんに見栄えがする植物や花壇を作る材料を集めてもらい準備を整えた。
その時、温泉の村でも綺麗な花が咲くということで、アッド号で温泉の村までぶっ飛ばして花も手に入れた。ついでに温泉もタップリ補充できたから完璧だ。
少し残念だったのは、急いだから発展した温泉の村をしっかりと楽しめなかったことだな。
パッと見だけど、ダークエルフの村長の家の数倍立派な建物があったから、滞在するのも面白そうだった。でもまあ、温泉の村は後のお楽しみということにしておこう。
「なるほど、そういうことでしたらお力になれると思います」
森の女神様は少し考えこんだ後に、笑顔で請け負ってくれた。よし、これで三女神様に仕事をお願いできたぞ。
光の女神様の仕事は継続性が弱いのが難点だけど、光の女神様との接点は意外と多いから、今回はこれで十分だと思う。
「ありがとうございます。植物につきましては、ダークエルフの皆さんに協力してもらって、島で集めてきましたので、ご確認いただければと思います」
「まあ、あの子達が選んだ植物ですか。ふふ、それは楽しみですね」
やっぱり森の女神様はダークエルフ達を気にかけているんだな。ダークエルフが関わっていると聞いて笑顔が一層輝いた。大陸に散らばっているダークエルフ達の勧誘も、もっと力を入れた方が良さそうだ。
「これで話は終わったわね。じゃあ航さん、さっそく行動に移しましょう。時間はあまりないわよ」
僕を気絶させて少し落ち着いていた美食神様が、とてもワクワクした顔で話に入ってきた。
色気も復活しているし、話が終わるのを今か今かと待っていたんだろう。
「分かりました。まずは美食神様をキッチンにご案内して、その後、光の女神様と森の女神様とご一緒に船内の視察ということで構いませんか?」
三女神様もそれぞれ頷いたので行動を開始する。
***
素晴らしい時間だった。
美食神様をキッチンに案内して、この世界で購入した食材や、討伐した巨大な蟹からシーサーペントまで提供したら大喜びしてもらえ、もう一度抱きしめてもらえそうにすらなった。
まあ、途中でハッとした様子で離れられて不発に終わっちゃったけど。
美食神様がキッチンにこもってからは、森の女神様に集めた植物を見せて、光の女神様と森の女神様と共に船内デート。
森の女神様とここに花を飾れば、ここに植物がなんて言いながらの視察、光の女神様が微妙に警戒しているようなのが少し気にはなったが、昼食もご一緒できたし、こちらもとても楽しい時間だった。
でも、ここまではまだオードブルの段階。メインディッシュはこれからだ。
三女神のプライベートな時間を素敵に演出して、あわよくば……いや、焦りは禁物だな。光の神様の警戒も気になるし、ホームランを狙うよりもヒットを積み重ねることに集中しよう。
なんだかギャルゲーみたいで楽しくなってきた。
「光の神様、森の女神様。そろそろ17時になりますから、美食神様と合流して仕事を終わりにしましょう」
「そうですね。ざっと船内は見て回れましたし、この分でしたら明日明後日で十分に準備は間に合うでしょう。森の女神もそれで大丈夫ですか?」
「ええ、植物の配置を少し考えなければいけませんが、こちらも明日と明後日で間に合います」
事前に17時で仕事を終わると約束していたから、あっさりとこちらの話を聞いてくれる光の神様と森の女神様。でも……。
「ああ、もう仕事が終わる時間なのね。じゃあ、私はプライベートということで、ちょっと厨房に籠るわね」
美食神様と合流すると予想通りの言葉が返ってきた。このために事前に言質を取ったと言っても過言ではないのだから、予定通りに仕事を終えてもらう。
「美食神様。プライベートとおっしゃられても、メニューを開発してもらっているのは事実なのですから、美食神様が料理を作られている間は僕も休めません」
「あら、気にしなくてもいいのよ。私は楽しくて料理を作っているんだから」
楽しそうなのは見ていれば分かります。話していてもとてもいい笑顔のまま料理を続けていますもんね。
僕一人だったらこれで終わりだっただろうけど、僕には心強い味方がいる。
「分かりました。ですが、この船の主は僕です。美食神様が満足されるまでお付き合いさせていただきます。光の神様と森の女神様は先にお休みになってください」
ここが勝負所だ。光の神様、信じています。
「いえ、そういう訳にもいきません。美食神、私達は17時で仕事を終えると航さんと約束しました。ただでさえ創造神様がご迷惑をお掛けしているのに、これ以上の負担を航さんに掛けるのは筋が違います。今日はもう終わりにしましょう」
さすが光の神様。真面目な光の神様であれば、そういってくれると信じていました。
でも、創造神様のくだりは予想していなかったな。光の神様はずいぶんと創造神様に対してストレスを抱えているようだ。
「んー、しょうがないわね。でも、この料理だけは最後まで作らせてちょうだい。それほど時間はかからないからいいでしょ?」
光の神様が僕を見る。僕が決めろってことだろうな。よし、ついでに僕の計画の一端も紛れ込ませよう。後で誘う予定だったけど、今の方が了承してもらいやすいはずだ。
「はい、それくらいでしたら全然問題はありません。あぁ、それとですが、この後、美食神様が作ってくださった料理で夕食にしませんか? お仕事が含まれてしまって申し訳ないのですが、食べながら飲めばお酒との相性も確認できると思うんです」
「それは面白いわね。私が作った料理だからお酒との相性もある程度予想はできるけど、実際に確認したほうが間違い無いのは当然だわ」
美食神様が僕の案に乗ってくれた。お酒を一緒に飲んでくれるかが微妙だった光の神様も、ほんの少しでもお仕事が絡んでいれば協力してくれるのは間違いない。
「分かりました。ではそうしましょう」
「ふふ、美食神が腕を振るった、新しい料理。楽しみですね」
願っていた通りの展開だ。この展開を組み上げた僕の頭脳。レベルが上がって頭が良くなった効果が発揮されている気がする。
さあ、ここからが本番だ。お酒はたくさん用意している。ガンガン飲んで沢山楽しんでもらうぞ!
読んでくださってありがとうございます。




