11話 発展するカリャリ
久しぶりに南方都市に訪問し、商業ギルドのマスターと建築資材やアクアマリン王国で入手した財宝の商談をした。悩んで決断した建築資材の値段が財宝の10分の1以下の値段で、微妙な気持ちにはなったけど、ギルマスが資材を20日で全部用意してくれると約束してくれたので、商談は成功だったことにしておこうと思う。
「カリャリの街かなりにぎわっているわね。面白そうだわ」
「うん、破壊される前の姿は知らないけど、軍港がこんなににぎやかでいいのかな?」
商談の結果、20日の空きができたからカリャリに来たんだけど、港には沢山の船が停泊し、ひっきりなしに小舟が行き来している。
ここって軍港だよ? ひっきりなしに人が移動しているけど、セキュリティは大丈夫なの? 孤児院が心配になってきた。
「キャッスル号が停泊しているんだもの。にぎやかなのはしょうがないわよ」
まあ、近くに異世界の町があるようなものだから、人が集まるのはしょうがないか。港のセキュリティは軍に任せるとして、孤児院の方は僕が気を配ろう。
「そうだね。で……どこに停泊すればいいのかな? 港の職員の姿も見えないみたいなんだけど……」
人目が無ければルト号をキャッスル号に横付けして乗り込めばいいんだけど、ここではそういう訳にはいかない。ルト号を横付けしたままだと邪魔になるし、送還してルト号が消えたら騒ぎになる。
港でキャッスル号までの渡し船を利用する必要があるんだけど……港に船が停泊できそうな隙間が見えないし、聞こうにも職員の姿が確認できない。
軍の魔導船が利用している場所には余裕がありそうだけど、さすがにそっちに停泊するのは難しいだろう。
「あっ、ご主人様。小型の魔導船が近づいてくるわよ」
イネスが指す方を見ると、たしかに小型の魔導船がこっちに向かってきている。港の職員も乗っているようだし、あの魔導船がどうすればいいのか説明してくれそうだ。
「へ? 臨時の港ができたんですか?」
職員にどうすれば良いか聞くと、臨時の港の存在を教えられた。でも、港ってそんなに簡単に作れるものじゃないよね?
「臨時の港って言っても、船が停泊できるだけだよ。そこから船でこっちに来る感じだな。積み荷がある場合は、この港に荷下ろしできる場所も確保してあるが、ちょっと多めに金がかかるぞ」
僕の疑問が顔に出ていたのか、職員が説明してくれる。
しかし臨時の港か……荷下ろしの必要は無いけど、少し離れた場所にあるみたいだし、手間が掛かるのは面倒だよね。
しょうがない。秘技『お金の力』の出番か。
「お金は払いますから、この港に停泊できませんか?」
「金だけじゃあ無理だな。現在この港に停泊しているのは、貴族や豪商、要するに金を持っていて地位も持っている人達だ」
秘技がアッサリ敗れた。お金+権力が無いとこの港には停泊できないらしい。
魔導師様の名前を振りかざせばこの港ならなんとでもなりそうだけど、この港の賑わいの原因を考えると、魔導師様の威を借りるのは後々問題が大きそうだ。
おとなしく臨時の港に停泊が無難だな。
***
「ワタルさん。お久しぶりです」
「カミーユさん、お久しぶりです。しかし凄い賑わいですね。ここまで来るのが大変でしたよ」
臨時の港(ただ船が停泊できるだけの場所)から、渡し船でカリャリの港に移動。カリャリの港からキャッスル号への移動。
言葉にすると簡単だけど、実際にはそう簡単にいかなかった。キャッスル号に移動するための渡し船に乗る条件も厳しくなっていて、しょうがないから商業ギルドまで許可をもらいに行くことになった。
しかも、商業ギルドは前までの閑散とした雰囲気が微塵もなく、目を血走らせた商人がウジャウジャと……何度も『僕は魔導師様と知り合いなんだぞプンプン』って言いそうになるくらい大変だった。
「あぁ、そうですよね。実は、前回のセレモニーが終わった後、人が押し寄せて大混乱になってしまったんです。それで、キャッスル号に移動する条件も厳しく制限しました」
遠い目をするカミーユさん。よっぽど大変だったんだろう。
でも、相変わらず美貌は輝いているよね。たぶん、キャッスル号の施設、フル活用しているんだろうな。
「あれ? でも、商業ギルドとカミーユさんで乗船チケットを管理しているのはセレモニーで知らせていますよね? チケットが無いと乗船できないのに、そんなに人が来たんですか?」
騒ぎになるのは理解していたから、事前にできるだけの準備はしたはずだよね?
「それだけこの船の衝撃が凄まじかったということです。貴族の紹介状を持った商人が大量に集まりました。商業ギルドに話も通さず、この船に押し掛ける商人も多数……今では、他国の貴族や商人まで……商業ギルドのギルマスも悲鳴をあげていましたね……」
欲望が事前準備を上回ったってことかな?
カリャリの街の商業ギルドのギルマス、南方都市のギルマスと違って儲けを体力に変える力は無さそうだったから、あの目が血走った商人達の相手を毎日するのは辛いだろう。
カミーユさんも遠い目から戻ってこないし、ちょっと商人達に冷静になってもらう必要がありそうだ。
「えーっと、カミーユさん。キャッスル号を一時的にでも移動させますか? 時間を空ければ落ち着くと思いますよ?」
「そんなことをすれば国が混乱しますし、ワタルさんへの勧誘が過熱しますよ。自分の国や領地にキャッスル号を望む人はいくらでもいます。気軽に船を移動させるのは危険ですね」
国が混乱するそうです。しかも、魔導師様の後ろ盾効果で比較的落ち着いている僕の周囲まで面倒になるとか最悪だ。船の移動案は無かったことにしよう。
「では、どうしましょう? このまま放っておいて大丈夫なんですか?」
「マウロが精力的に動いていますので大丈夫だと思います」
あぁ、マウロさんが動いているのか。南方都市のギルマス並みにパワフルな人だし、なんとかしてくれそうな心強さを感じるよね。
「それなら良かったです。でも、キャッスル号に移動するのが大変なのはなんとかしたいですね。来るたびに面倒なのは困ります」
目の前にキャッスル号が停泊しているのに、乗り移るまで4時間近くかかったよ。毎回は辛い。
「それでしたらこちらをどうぞ」
カミーユさんがデスクの中から一枚の金属のカードを取り出し、僕に渡してきた。停泊許可証?
「これは?」
「カリャリの港の停泊許可証です。港が混乱した時に、キャッスル号で停泊枠を確保しました。軍が利用する場所の隣ですから、無断停泊もないですし安全なんですよ。この許可証があればいつでも停泊できますので、利用してください」
「ありがとうございます」
分かっていたけど、カミーユさんって超有能。混乱に乗じて場所を確保とか、先見の明がないと無理だよね。
混雑してからでもキャッスル号の威光で場所を確保できそうだけど、混雑してから強権発動と、その前にシレっと場所を確保するのでは周囲に与える影響は全然違うはずだ。
いい人材を引き抜けたよね。僕の先見の明もなかなかかも。
さて、次は……ベラさん達の就職の件と、手に入れたシーサーペントの素材と公爵城の財宝についても話さないといけないな。
後はキャッスル号と孤児院の状況もちゃんと聞いておきたい。ドナテッラさんとか話に出なかったけどどうしているんだろう?
***
「ふー。結構時間が掛かったね。フェリシア。船内を散歩しながらイネスとアレシアさん達と合流しようか」
人手不足なのでベラさん達の就職は大歓迎で決定されたが、財宝と山盛りのシーサーペントの処理は、外に出ているマウロさんと、偉い人の案内をしているドナテッラさんの時間が空いてからになった。
カミーユさんが頭を抱えていたところを見ると、財宝もシーサーペントの素材も騒動になりそうな気がする。
あと、孤児院は問題ないそうだ。周囲の状況を考慮して、軍人さん達が警護してくれているらしい。VIP待遇の孤児院ってなんかカッコいい気がする。
「そうですね。早めに合流したほうが良さそうです」
「ん? 別にゆっくりでもいいんじゃない?」
キャッスル号の中は安全なんだし、寝る前までに合流できれば問題無いよね?
「……船内で別れる時、イネスとアレシアが嬉しそうにカジノに行くと言っていました」
なるほど……イネスにも結構お小遣いを渡してはいるけど、全部溶ける未来しか見えないな。
アレシアさんは、まあ、大丈夫だろう。財宝の分配もあるし、イネスと違って身売りするまでのめり込まないはずだ。
「早く合流しようか」
フェリシアと頷きあってカジノに向かって歩く。
船内は着飾った人達が適度に歩いていて、優雅さがハンパないな。
偶にキャッスル号で購入したと思われる僕に馴染み深い格好の人も歩いているけど、大半はこの世界の一張羅を身につけているようだ。
上流階級の人が集まっているんだし、中世ヨーロッパ風の社交界とかもこんな雰囲気だったのかもしれない。サポラビを除いてだけど。
サポラビは相変わらず婦女子の皆様に大人気のようで、嬉しそうに手を繋いで歩いている姿が散見される。お子様なんか抱き着いていて、歩いているのか運ばれているのか判断がつかない子も居る。
「セレモニーでも思ったけど、船内が賑やかなのは良いね」
人魚さん達が居るのも賑やかだと思っていたけど、こっちは人数の桁が違うし、なにより着飾り方が華やかで存在感が凄まじい。
「そうですね。普段の落ち着いた雰囲気も好きですが、こういうのもお祭りみたいで悪くないと思います」
そうだよねっと言おうとしていた僕の口が止まる。
「ねえフェリシア、あれ、どう思う?」
「……そうですね。敗残兵といったところでしょうか?」
敗残兵か。ピッタリだな。
でも、さすがにあれは頂けない。
「アレシア。さすがにこんな目立つ場所でのふて寝は駄目ですよ。ソファーは他の人も使うんですからね」
まさかアレシアさんのこんな姿を見ることになろうとは。ソファーに膝を抱えたまま横になって、うつろな目をしているとか、年頃の女性としてどうなの?
「あっ、ワタル……」
いつも輝くような雰囲気なのに、声にすら力がないアレシアさん。どんだけ負けたの? アレシアは自制できる人だよね?
「えーっと……イネスは一緒じゃなかったんですか?」
「……イネスはカジノよ。大勝してはしゃいでいるわ」
なんですと?
「えーっと……イネス、カジノで勝っているんですか?」
賭け事なんだから勝ち負けがあるのは理解しているけど、イネスが勝っていると聞くとなんだか驚く。
「そうよ」
アレシアさんがケッといったやさぐれた様子で答える。この様子だと、イネスの大勝に触発されてアレシアさんも大金をつぎ込んでそうだな。
「えーっと……甘い物でも食べに行きましょうか」
イネスは勝っているようだから放っておいても良いだろう。まずはこのやさぐれた美女をなんとかしないと……。
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