29話 どうしよう……
人魚の国の女王陛下御一行をクリス号に招待する形になった。乗船時に色々と予想外のことがあって、てんやわんやしてしまったので昼食や夕食で挽回したい。とりあえず、案内した部屋は喜んでくれたし、なんとかなるよね?
「なるほど、分からないことや、してほしいことがあればこのサポラビちゃんにお願いすればいいんですね?」
「はい。それでも解決できない疑問がありましたら、僕達に聞いてください」
「分かりました」
部屋に案内して一通りの説明はしたけど、さすがに未知の文明が満載の豪華客船を理解するのは難しかったようで、それぞれに専属のサポラビを召喚することにした。
……したんだけど、そのサポラビの愛らしさが女王陛下や王女達の心に突き刺さった。
女王陛下はシレっとサポラビと手を繋いでいるし、アダリーシア王女とアンネマリー王女なんかはサポラビを抱きしめて撫でくり回している。中身は角兎、つまり魔物の魂だから少し不安がある。
あっ、レーアさんがサポラビに色々と質問しつつも、隙を見て頭をナデナデしている。
ん? 僕に見られていることに気がついたのか、少しサポラビと距離を取った。そして素知らぬ風にサポラビに質問を続けているけど、頬が赤らんでいるようだ。
……あれだね、真面目な感じの大人の女性が顔を赤らめている姿は、そそるものがあるよね。
しかし、キャッスル号でもそうだけど、サポラビの女性人気の高さは凄い。僕も角兎を虐殺していなければ、サポラビを愛らしく思えたんだろうか?
……サポラビに萌えまくっている僕を想像したら、結構気持ち悪かったからサポラビを愛らしく思う必要は無いな。僕はリムが居るだけで十分だ。
「では、とりあえず昼食まで休憩してください」
自分の中で簡単に結論が出たので、話を先に進める。
朝早く出発して、魔物をボコりながらここまで泳いできたんだ。人魚とはいえ休憩は必要だろう。それに、なんとなくだけどサポラビが居れば満足してくれそうな気がする。
さて、僕が居るとサポラビと戯れづらいだろうし、いったんお暇させてもらおう。
「イネス。サポラビを召喚するから、悪いけどフェリシアやアレシアさん達が説明している他の部屋に連れて行ってあげて。兵士さん達なら一部屋に一サポラビで十分だよね?」
女王陛下達の様子を見て思ったけど、兵士達にもサポラビのサポートが必要だろう。
まあ、女王陛下達には専属にしたんだけど、体育会系の兵士がサポラビにデレデレな姿はできれば見たくないから、一部屋に一サポラビなのはしょうがないはずだ。
メイドさん達は……男女で差をつけすぎるのも問題だから我慢してもらうしかないな。
「いいけどご主人様はどうするの?」
「ちょっと教会でお祈りしてくるよ」
これだけでイネスは僕が何をするのか理解してくれたようで、何も言わずに召喚したサポラビを連れて出発してくれた。
イネスは無茶なこともするけど、神様関連は綺麗にスルーしてくれるから助かる。クラレッタさんなんかだと、ソワソワしだして微妙に申し訳なくなっちゃうんだよね。
さて、気合を入れて教会に行くか。今回は報酬の話もしないといけないから、頑張らないといけないぞ。まあ、神界に呼んでもらえなかったらそれまでだけど……。
***
「航君、最近お祈りの頻度が早いね。僕の偉大さをようやく理解したのかな?」
「航さん、お久しぶりですね」
「航よ、よくやった!」
教会でお祈りすると直ぐに呼ばれ、創造神様と光の神様だけでなく海神様まで集まっていた。
「えーっと、お久しぶりです」
偉大さどころか、こんなに簡単に呼んでもらえるとありがたみが無くなる気がする。僕としては会いたい時に会えるのは助かるんだけど、神様ならもったいぶって会わないという選択肢も必要じゃないのかな?
「航君、僕の偉大さを理解したのであれば、豪華客船に招待する回数を増やしたって構わないんだよ? 他の神は放っておいて、僕だけを招待する形なんかも敬意を感じられるかもしれないね」
なんだか今回は創造神様がグイグイくるな。普段から遠慮しないタイプだけど、妙に焦っている気がする。
「航さん、無視しても大丈夫です」
なぜか誇らしく語り続けている創造神様に戸惑っていると、光の神様が何気に酷いことを言ってきた。それはそれで怖いんだけど、本当に大丈夫なのか?
「光の神様、何かあったんですか?」
「あったと言えばあったんですが、普段通りと言えば普段通りです」
意味が分からないな。
「前回の臨時のクリス号への招待を、創造神様が他の神々に対して恩に着せたんです。それに神々が反発したので、航さんに特別扱いされることで他の神々に対して優位に立とうとしているだけです」
ようするに他の神々にマウントを取りたいってことだな。
……想像した以上にくだらない理由だけど、なんとなく納得できるのが創造神様のクオリティなんだろう。だけど……。
「ですが、創造神様を無視するのは怖いです」
船召喚を取り上げられたら洒落にならない。
「今の創造神様は孤立し迂闊に動けない状況ですので、心配はいりません。航さんが創造神様を特別扱いする方が荒れますので気にしないでください。海神に用があるのですよね? 創造神様のお相手は私がしていますので、用を済ませてください」
前回会ってからそれほど経っていないのに、神様の中で一番偉いはずの創造神様が孤立していた。話を聞いていても、なんでそんなことになるのか理解したくないな。
でもまあ、迂闊にかかわらないのが正解なのは理解できる。
光の神様とのお話が終わるのは悲しいけど、創造神様のお相手はお任せして素早く目的を遂げて逃げ出そう。
「航、人魚の国のこと、感謝する」
海神様と目が合うと、感謝を伝えられた。海神様って堂々としているから感謝されている気があまりしないけど、神様に感謝されるって実際は凄いことだよね。
「いえ、海神の神器を使えば簡単な事でしたので、大丈夫です。人魚の国を見学できたので、楽しかったくらいです」
海神様の威厳に思わず簡単だって言っちゃったけど、報酬をもらうためには大変だったって言えば良かった気がする。
いや、この場に来ているってことは、人魚の国の出来事を全部見ていたってことだし、嘘の苦労話は逆効果だろう。正直なことは良いことだ。
「航君、聞いてるの?」
「創造神様、今は海神が感謝を伝えていますので、少し黙っていましょうね」
「いや、まずは僕の話を第一に聞くべきなんじゃないの? 僕って創造神だよ?」
「主役は最後に現れるものだと聞いたことがありますね」
横から創造神様と光の神様の声が聞こえてくる。光の神様の感情がこもっていない声が怖いな。早く済ませよう。
「あの、海神様。実は今回のことでの報酬に、人魚に変化する神器を女王陛下にお願いしたのですが……」
「うむ。その件は承知している。そうだな、女王と王女二人を教会に連れてくれば、私から許可を出そう」
「えっ? 下界への干渉はタブーなのでは? 海神様から許可を頂けたら大丈夫なのですが?」
話が早いのはありがたいけど、直接会ったりしたら騒ぎになるのは間違いないよね。女王陛下とか心臓が止まるんじゃないか?
「そうだよ海神! なに勝手なことを言ってるのさ!」
おうふ。光の神様を乗り越えて創造神様が乱入してきてしまった。
「航の船の教会は神域だ。ちょっと会うくらい構わんだろう」
「構うよ! 元々あの船の神域は僕が楽しく遊ぶための物なんだからね! 君達が降臨できているのは僕の慈悲なの! そこんとこ理解してよね!」
プンプンと創造神様が怒っているが、海神様が漢! って感じの成人男性の姿なので、癇癪を起した子供と、それを窘める大人にしか見えない。創造神様が少しだけ不憫に思える。
いや、くだらないことを考えていては駄目だ。ここは創造神様を応援しないと、確実に僕が面倒に巻き込まれる。創造神様、頑張ってください!
言っていることはどうかとも思いますが、下界への不干渉を考えると創造神様が正しいはずです。
「海神、さすがにそれはどうかと思いますよ。航さんにも迷惑が掛かってしまいます」
光の神様からの援護射撃も入った。特に僕のことも考えてくれていることが最高に嬉しい。結婚してください。
「むぅ……分かった。降臨はあきらめよう。ならば神託だ。大聖堂での神託ならば騒ぎにもなるが、航の船の聖域で人魚の女王達だけに神託を下すのであれば問題にはならぬはずだ。むろん、女王達には口止めもする」
海神様の諦めが悪い。最初に会った時にはサッパリした神様だと思ったんだけど、第一印象って意外とあてにならないようだ。
ただまあ、人魚の国に行って分かったんだけど、海神様って人魚達にたいして相当過保護に感じたから、この状況も納得できないことも無いか。迷惑だけど。
「んー……それくらいならいいかな?」
あっ、創造神様が意外と簡単に納得しそうだ。光の神様は……こっちもそのくらいが妥協点ですかねって感じだ。
いや、神託でも相当な問題が起こりますよ。間違いなく女王陛下達の中で、僕の株が急上昇します。今でも感謝されまくっているのに、これ以上になったらどうなるのかすら想像できません。
……反対したいのに、海神様の機嫌を損ねたら人魚に変化する神器が手に入らなくなる可能性が頭にチラつき、反対に二の足を踏む。
うーん、そこまでして神器が必要かとも思うけど、人魚達とは別の場所で生活するんだから一時の我慢で神器が手に入るともいえる。なかなかのジレンマだ。
あと、ちょっとだけだけど、女王陛下の好感度が上がるのなら問題は無いんじゃないか? って僕の中の悪魔が騒いで煩い。あの色っぽい女王陛下とニャンニャンとか言うな。
だいたいニャンニャンってなんだよ。明らかに古いだろ。ニャンニャンができるのならそれはそれで嬉しいが、女王陛下とニャンニャンって、ニャンニャンしたら責任とかで怖いことになるだろ。女王陛下の立場でなければ喜んで恩に着せてニャンニャンを狙うんだけどね!
「うむ。決まりだな。航、教会に女王と娘二人を連れてきてくれ」
「えっ?」
ニャンニャンについて考えていると、海神様に頼みごとをされて教会に戻っていた。あれ? 女王陛下達を連れてくる? 神託にOKがでたの? ニャンニャンに対抗している間に?
……どうしよう?
読んでくださってありがとうございます。




