7話 圧倒的火力
イネスの必死の説得もむなしく、半年後にはイネスの家族もまとめてキャッスル号で働くことになりそうな雰囲気だ。まあ、ベラさんがキャッスル号で働くことを決意したら、イネスには止められないよね。なんとなくだけど僕にでもベラさんとイネスの格が違うのが分かる。
「ワタルさん。本当に大丈夫なんですか?」
その格が違うはずのベラさんが怯えている。人間としての格がイネスよりも断然上でも、周囲を魔物に囲まれたら怯えるのは当然だろう。弱気になったベラさんを見て、元気になるイネスは駄目人間の臭いがする。
「この船には強力な結界が張られているので大丈夫ですよ。安心してください」
大丈夫だと声を掛けるが、ルト号は魔物との距離が近いから安心してって言っても怖いよね。さっさと魔物を倒して安全だと証明したほうが早いだろう。でも、その前に石を魔物に当ててもらわないと、レベルが上がらないな。
「では、今から石を投げてもらいます。石は沢山あるので、できるだけ沢山の魔物に石を当ててください。終わったらまとめて魔物を倒しますね」
……あれ? だれも動き出さない。いきなり魔物を刺激する行動はハードルが高いか?
『……おてほん……』
どうしたものかと思っていると、リムが石の山から石を一つ取り、ポヨンと発射した。猛烈な勢いで発射された石が、結界に体当たりしているマーマンに当たり弾き飛ばす。
『……こうする……』
石を弾きだして満足気にプルプルしているリムはとてつもなく可愛らしいけど、石投げとは言えない気がする。もはや弾丸だよね。
「……リムがこうするんだよって言っています」
「無理だ」
カルロさんがキッパリと答える。ですよね。僕もできません。
「えーっと、あれほどの威力は必要ありません。ただ、魔物に石を当てるだけで十分ですので、石を投げちゃってください」
リムの行動に度肝を抜かれたのか、カルロさんとダリオ君が動き出した。リムの行動にはビックリはしたけど、良い切っ掛けになったようだ。
リムほどではないけど、なかなかの速度でカルロさんとダリオ君が石を投げる。
「「きゃ」」
石をぶつけられたグラトニーシャークが怒って激しく結界に体当たりすると、ベラさんとフローラさんが抱き合って可愛らしい悲鳴を上げた。
……なんといえばいいのか、抱き合って悲鳴を上げる二人が、とてつもなく可愛らしく見える。
そうだよね。僕の周囲の女性陣が女傑なだけで、一般の女性はこういう反応をするよね。普通のことなんだけど、とても新鮮だ。
「母さん、フローラ。グラトニーシャークが体当たりしても大丈夫でしょ。石を当てないとレベルアップできないんだから頑張って」
僕が変なところに感動していると、イネスがベラさんとフローラさんに石を渡しながら励ました。
「ほら、早く投げて。大丈夫よ。当たらなくても石は沢山あるから」
「わ、分かったわ。投げればいいのよね? 大丈夫なのよね? ちょっとイネスちゃん。押さないで」
「大丈夫よ。フローラも大丈夫だから早く石を投げるの。ほら。父さんとダリオも一回投げたら終わりじゃないのよ。周りの魔物全部に石を当てるの」
なんだかんだ言いながら、イネスも家族や親友が大切なんだな。レベルアップの機会を逃さないように一生懸命後押ししている。先程までの邪悪な顔をしていたイネスと、同一人物なのか疑わしいほどだ。
「えい! あっ、当たったわ」
「てや! あっ、イネス。私の石も当たったわよ。ほら!」
イネスに背中を押されてベラさんとフローラさんが石を投げ、見事魔物に命中したことで喜びの声を上げる。
喜ぶ三人の美女達の姿はとても微笑ましいんだけど、やっていることは石を魔物に投げる行為なんだよね。落差が激しい。
なんとなく反応に困るが、一度石を投げて吹っ切れたのか、ベラさんとフローラさんが次々と魔物に石を投げつける。二人を心配していたカルロさんとダリオ君も安心したのか、女性陣に負けないように石を投げ始める。
ちょっと手間取りはしたけど、この調子ならある程度のレベルアップも可能だろうな。ついでにペントのレベル上げも……ペントはいつでもレベルが上げられるから、今回はベラさん達に集中する方がいいな。ペントは船内で待機していてもらおう。
***
「では、魔物を倒してしまいますので、巻き込まれないように入り口付近で待機していてください」
全員がすべての魔物に石を当てられたとは限らないけど、大体の魔物に石を当て終わったっぽいので、次の段階に移行しよう。
周囲の魔物を一気に殲滅するために、イネス、フェリシア、ジラソーレ、リム達が船を一周するように散らばる。
「あの、ワタルさん。実戦の経験はあまりありませんが、冒険者ギルドの規則で戦い方を習いました。何かお手伝いできることはありますか?」
そういえばダリオ君は冒険者ギルドの職員だったな。受付嬢はともかく、男性職員は戦い方を習う規則があるようだ。
沢山の魔物に囲まれているから、人手があった方がいいと考えてお手伝いを申し出てくれたんだろう。だけど、戦い方を少し学んだだけの素人に出番は無いんだよね。もっと言えば、高レベルなはずの僕にも出番が無いんです。
「ありがたい申し出ですが必要ありませんよ。冒険者ギルドで働いているのなら、Aランクの冒険者の力は知っていますよね?」
「ええ、とても凄いことは知っていますし、リムさんの実力も石を飛ばす速度で分かっています。ですが、その、こういってはなんなのですが、スライムであるリムさん達が戦うのに、待機しているのもどうかと……なんだか気持ちの整理がつかないんです」
チラチラと船の縁に陣取っているリム、ふうちゃん、べにちゃんの方を確認しながら話すダリオ君。
言いたいことはなんとなく理解できる。ダリオ君はAランクの冒険者の実力も理解しているし、リム達がただのスライムではないことも理解しているんだろう。なにせリムにまで、さんを付け始めたんだから間違いない。
でも、それでも、スライムまで戦うのに、少しは戦闘訓練をしたことがある自分が黙ってみているのか? それでいいのか? といった、若い心が抑えられないんだと思う。これが若さか……青春の匂いがする。
「えーっと、気持ちは理解できます。できますが、いきなり一緒に戦ったことがない人が入ると、連携に問題が出る可能性がありますので今回は待機でお願いします」
「……そうですね。連携は大切ですよね。失礼しました」
ダリオ君がちょっとションボリしながら待機場所に戻っていく。その姿に少し申し訳なくなるが、戦いに参加させて何もできなくてショックを受けるよりもマシだよね。ダリオ君は好青年だから心は折りたくない。
「えーっと、では、各自始めてください」
連携とかほざいた僕が、適当な開始の合図を言う。なんだかダリオ君の視線が痛い。
でも、大丈夫だ。真なる連携とは、言葉を交わさなくとも可能だってことをダリオ君に見せてあげよう。普段から殲滅慣れしているから、わざわざ指揮や作戦なんて必要ないんだよ。まあ、単純な力業なんだけどね。
心の中だけでドヤってしていると、激しい爆発音とともに巨大な炎が魔物の群れを包み込んだ。家族に良いところを見せたいのか、イネスがファーストアタックだ。
しかも普段の殲滅時には見たことが無い魔法だ。いや、それ以前に初めて見る魔法だな。たぶん、効率とか威力なんか考えないで、自分が使える魔法の中で一番派手な魔法を使ったんだろう。
今日は時間短縮が優先で素材を回収しないから使える魔法だな。こういう、僕が考えてもいなかった隙間を、上手に利用するイネスの抜け目なさは凄い。
イネスに続いて、アレシアさん達が派手なスキルや魔法を繰り出し、リム達も自慢の魔法を魔物の群れに撃ち込む。
全員が普段の魔物の殲滅時には使っていない魔法やスキルを使っている気がする。確実にベラさん達やフローラさんを楽しませる為の演出だな。素晴らしいサービス精神だ。
観客の反応が気になってベラさん達を観察するが、ベラさん、カルロさん、フローラさんはイネスを見て呆然としている。刺激が強すぎて、リアクションが取れないようだ。
ダリオ君は……口が動いているから何か言葉を発しているようだが、派手な攻撃音で何を言っているかまでは聞き取れない。
だが、言葉が聞き取れなくても、表情を見れば大体何を言っているのかの見当はつく。
おそらくダリオ君は『な、なんだこれは、これがAランクの冒険者の実力なのか……す、凄いー』的なことを言っているはずだ。なんだか気分が良い。
僕がくだらない妄想をしている間に、オーバーキルで魔物が殲滅された。今日は普段よりも派手に攻撃した影響か、そこはかとなく全員が満足気な様子だ。
これからも偶にはストレス発散で、素材を考えずに戦う機会を設けることも検討しておくか。女性陣やリム達がご機嫌だと、僕も幸せだもんね。
「レベル21! 元々がレベル9だったのに、今のだけでレベルが12も上がったわ!」
戦闘の衝撃で固まっていたベラさんが、イネスに促されてステータスを確認し、喜びの声を上げた。今の戦闘で12アップか……思ったよりも少ないな。
ベラさんに続いて、カルロさん達からも喜びの声が上がる。うーん、カルロさん達のレベル上昇率も、ベラさんと大して変わらないようだな。
おそらくだけど、今回集まった魔物に強い魔物が少なかったからだろう。グラトニーシャークは結構強いけど、それ以外でクラーケンやシーサーペント等の経験値が美味しい魔物が居なかったのが残念だ。
でもまあ、ベラさん達も喜んでいるからいいか。日が暮れるまでまだまだ時間もあるし、次は大物が出ることを期待しよう。
シーサーペントが美味しいんだけど、公爵城での乱獲の影響が心配だな。まあ、絶滅した訳でもないし、もっと公爵城から離れた場所に移動して、シーサーペントを狙うのも良いかな? 公爵城でシーサーペントを殺しまくったことを、少しだけ後悔しています。
読んでくださってありがとうございます。




