8話 人魚の国の使者
イネスの家族+フローラさんを豪華客船に招待しての最終日。キャッスル号での就職については保留にして、ルト号に乗り換えてパワーレベリングをおこなった。
「ワタルさん。本当にありがとうございました」
「「ありがとうございました」」
パワーレベリングを終えてアクアマリン王国の港に戻ると、ベラさんを筆頭にカルロさん、ダリオ君、フローラさんから深々と頭を下げてお礼を言われた。
ここは大したおもてなしもできませんでうんぬんと謙遜をするのが日本人っぽいんだけど、豪華客船に招待してパワーレベリングまでしたのに、そんな謙遜をしたら嫌味でしかない気がする。
パワーレベリングとかオプショナルツアーに組み込んだら、予約殺到の大人気プランだよね。なんて返事をすれば無難なんだろう?
「えーっと……楽しんでいただけましたか?」
「はい! 夢のような時間でした」
輝くような笑顔のベラさん。豪華客船には自信があったけど、この様子なら僕が思っていた以上に高評価のようだ。
「それなら僕も嬉しいです。またご招待しますので、ぜひ遊びに来てくださいね」
「うふふ、楽しみにしています」
なんだかベラさんにとても意味深な目で見られた。これが色っぽいお誘いの目なら嬉しいんだけど、たぶん違うな。就職お願いしますって目な気がする。半年後にイネスがベラさんに打ち負かされる未来が見えたよ。
イネスの必死の説得が無駄に終わったことを悟り、同情を込めてイネスに視線を向けると、イネスがなんとも言えない表情で自分の母親を見ている。僕と同じようにベラさんの思惑を感じ取ったんだろうな。
「ワタルさん。しっかり準備しておきますから、必ず迎えに来てくださいね。必ずですよ!」
イネスに同情していると、フローラさんが元気いっぱいに話しかけてきた。キャッスル号で働く気が満々なのは嬉しいけど、もう少し親友の気持ちを酌んであげてほしい。あと、その言い方は世間に誤解を受けそうだから止めてね。
「分かりました。ですが、無理はしないでくださいね」
「はい。半年もあれば無理をせずにケリを付けられますから大丈夫です。早めに迎えに来てもらっても構いません!」
半年の時間が無ければ無理をしてケリをつけたような言い方だな。イネスの心配が的中していたようだ。下手な返事をすると明日にでもケリをつけてきそうなので、愛想笑いでごまかす。
「あっ、カルロさん。これを……持って帰るのは難しそうですから、この国を出る前にはイネスに持っていかせますね」
カルロさんにお土産を渡そうと思ったが、カルロさんもダリオ君もすでに両手が荷物でいっぱいなので止めておこう。
「それは?」
「お酒です。美味しいのを見繕っておきましたから、あとで楽しんでください」
イネスのお父さんなんだからご機嫌を取っておかないとな。カジノで有り金を溶かして、ベラさんにお酒を買ってもらおうとしていたけど、すげなくあしらわれていた。だからこそ、お酒のお土産は効果抜群のはずだ。
「ありがとう! ……すまないが指に引っ掛けてもらえるか?」
カルロさんがとてつもなく嬉しそうな顔をしたあと、あとで届けるって言ったのに、真剣な顔で持って帰ろうとする。真面目そうな人なんだけど、イネスとの血の繋がりを深く感じるな。
「指にですか? 重いですから、あとでイネスに届けてもらいますよ?」
「レベルが上がったから大丈夫だ」
なるほど……いや、なるほどじゃないな。恩を着せる訳じゃないけど、せっかくのレベルアップ効果をこんなことで使わないでほしい。
しょうがない。後日にするつもりだったけど、このままイネスに家まで送らせるか。イネスも精神的に疲れているだろうから、身内のこととはいえ少し可哀想だな。
「イネス。お土産を持って送って行ってあげて。なんだったら泊まってきてもいいからね」
「……すぐに戻ってくるわ。ほら、母さん帰るわよ。フローラもグズグズしないで」
イネスがとても嫌そうに荷物を抱え、家族と友人を追い立てながら去っていった。まだお別れの挨拶が終わってないんだけどね。ダリオ君とか話す暇もなく会釈だけで別れてしまった。
しかし、全員荷物を限界まで担いでいるな。どれだけ買い物をしたんだろう?
「えーっと、ワタルさん。この後は宿に泊まるのよね?」
イネス一家とフローラさんの貯金を心配していると、アレシアさんが声を掛けてきた。
「あー、そうですね。僕は明後日に神様達をお迎えするので1泊しかしませんが、アレシアさん達はどうしますか? フェリーなら使えますよ?」
「うーん、たしか人魚から使者が送られてくる予定なのよね?」
「はい、だいたいの約束しかしていませんが、そろそろ来るはずです。もしまだ来ていなかった時は、イネスとフェリシアに宿に残ってもらって、話を聞いてもらうつもりです」
「それなら、その使者の状況を確認してからどうするか決めるわね」
まあ、その方が無難だろうな。もう使者が到着していて出発前に話が聞けたら一番いいんだけど、そこらへんは宿に戻ってからじゃないと分からない。神様の接待に海神の神器での海流の操作。あっ、そういえば公爵城の財宝の献上もしないと駄目だったな。地味に忙しくて辛い。
「あの、アレシアさん。公爵城の財宝を王様に献上する件なんですが、僕がいない間に龍の鱗の時のように献上しておいてもらえますか? 神様の招待が終わったらすぐ国を離れられたら最高です」
1つ予定がなくなるだけで気分的にはかなり楽になるよね。人魚の問題は海神の神器を使わないといけないから僕は外せない。神様達の接待は言わずもがなだから、外せそうなのは王様に財宝を献上する件だけだ。精神的にも王様への献上が一番嫌だから、この件から逃げられたらとても助かる。
「ここで話すようなことでもないと思うけど、先に結論だけ言っておくわね。今回は龍の鱗の時と違って、魔導師様の後ろ盾を利用しないといけないから、魔導師様と関係が深い設定のワタルさんは外せないわ」
……だよね。わずかな可能性しかないって分かっていたけど、やっぱり逃げられなかったか。まあ、献上は最後だし、終わったらのんびりできると思って頑張るか。あれ? 本来は観光に来たんじゃなかったっけ?
「そうですね。献上に参加するのが拒否できないことは理解しました。とりあえず、宿に戻って、今後の予定を決めましょうか」
リゾートにきたはずなのに、普段の仕事よりも疲れる本末転倒な状況に思うところはあるが、全部が終わったら本気で怠けよう。
観光なんかするから疲れるんだ。1週間くらい外海で豪華客船に引きこもれば、完璧な休暇が手に入る。映画やDVDや漫画に耽溺した一週間……普段の生活と変わらない気もするけど、それが一番の休暇になると思う。
***
「ワタル様。人魚のお客様がワタル様にお会いしたいと、宿に滞在されています」
宿に戻ると女将さんから人魚の使者が滞在していることを伝えられた。今日はもう休みたいところだけど、明日の昼過ぎには外海に出ておきたいから、今晩中か明日の朝には会っておきたいな。
「アレシアさん、今晩か明日の朝には人魚に会いたいんですが、構いませんか?」
戻ってきて急に会いたいとか礼儀がなっていない気もするが、スケジュールに余裕が無いので勘弁してもらいたい。会えたらちゃんと謝ろう。
「そうね……ワタルさんがそうしたいのなら私達は構わないけど、イネスが居ないのは大丈夫なのかしら?」
アレシアさんが他のメンバーに確認すると、みんなが問題ないと頷いてくれた。ただ、少し戸惑った様子でもあるな。アレシアさん達も疲れているのかもしれない。
「イネスはいつ戻ってくるか分からないので、あとで僕達から説明します」
イネスは戻ってこようとするだろうけど、間違いなくカルロさんが引きとめるから、戻ってくるまでは待っていられない。
「ワタルさんがそう言うのなら私達は構わないわ。着替えてからでいいわよね?」
「はい。それくらいの時間はあるはずです。えーっと、女将さん、そういうことですので人魚の方に、急なことで申し訳ありませんが今晩、もしくは明日の朝にお会いしたいとお伝え願えますか?」
「かしこまりました。人魚のお客様にお伝えした後、ワタル様のお部屋に報告させていただきます」
「よろしくお願いします」
さて、どうなるか分からないけど、部屋に戻って身綺麗にしておくか。……あれ? 深く考えていなかったけど、使者って人魚の国の使者なんだから、国から派遣された使者なんだよね?
今晩とか言っちゃったけど、謝ったら許してくれる問題なんだろうか? 人魚の国に対して、相当な無礼をかましている気がするんだけど? あっ、だからアレシアさん達は微妙な顔をしたのか。
今からでも女将さんを呼び戻して……いや、どちらにせよ、今晩か明日の朝じゃないと、次に会うまでに間が空いてしまう。無礼を承知でこのまま突き進もう。
***
「あっ、ペントの部屋の隣なんだ」
女将さんが人魚の使者から預かってきた手紙には、快く会ってくれると書いてあったので、ちょっとホッとした。でも、一国の使者なのにペントの隣の部屋なのが違和感があるよね。まあ、海の水を引き込んだ部屋は一階にしかないからしょうがないか。
微妙な違和感は忘れることにして使者の部屋をノックすると、すぐに女性の人魚が扉を開けてくれた。この人魚は女王陛下の背後に控えていた美女人魚さんだな。この人魚さんが使者なのか?
「ワタル様、お呼びたてしてしまい申し訳ありません」
僕の方から謝ろうと思っていたのに、先に謝られてしまった。お呼びたてって言っても、神器で人間に変身できることを広めたくないっていうまっとうな理由だから、謝る必要なんてないよね。
「いえ、こちらこそ急に面会を申し込んでしまい申し訳ありません」
僕が謝ると美女人魚さんもいえいえと謝る。この調子だと時間だけが過ぎそうだから、謝るのは終わりにして話を進めよう。
「ワタル様ですね。初めまして。私は人魚の国の第二王女、アンネマリーと申します」
……美女人魚さんに案内されて海水が引き込んでいる部屋の中に入ると、海水から上半身を出した第二王女様からご挨拶された。
女王陛下が会いに来たんだから、王女様が使者として来てもあり得ないことではないんだけど……なんでここでロリッ子人魚? いや、可愛いんだけど僕にロリ属性は無いよ?
読んでくださってありがとうございます。




